昨年、英国が欧州連合(EU)離脱を決め、米国がドナルド・トランプを大統領に選出した後、排外主義的なナショナリズムは抗いがたい勢いを持ち始めたように見えた。ところが今、フランスはこの潮流に逆らう最大の国となり、社会的にリベラルで、移民と欧州統合に前向きなエマニュエル・マクロンを大統領に選出した。西側諸国を席巻する右翼ポピュリズムの波は、本当に頂点を越えたのだろうか。そう主張する人もいるが、果たしてそうなのか。
マクロンの目覚ましい勝利は、確かに祝福に値する。初めての選挙に臨んだ無所属の中道派であるマクロンは、2週間前の第1回投票で既成政党の候補者を退け、決選投票では極右の国民戦線のマリーヌ・ルペンを相手に、投票総数のほぼ3分の2を獲得した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して毅然とした姿勢を示した主要候補は彼だけだったため、直前にはハッキングされた(しかも偽の)メールが流出し、ほかにも中傷を狙う動きにさらされた。
マクロンは、怒りと落胆に沈む国に希望のメッセージを届けることで、これらすべてを成し遂げた。行き詰まった政治体制に変化をもたらせる、活力あるアウトサイダーとして自らを打ち出した。わずか39歳という若さも、刷新のイメージを強めている。カナダのジャスティン・トルドー首相と同じく、容姿の良さと親しみやすい魅力も追い風となった。
しかし、変革の約束を実現するのは容易ではない。英国や米国と同様、フランスも依然として深く分断されている。リベラルで開かれた社会を支持する人々と、閉鎖的な政治や国境を求める人々、欧州や世界の統合を支持する人々と、ナショナリズムや保護主義を掲げる人々との間に亀裂がある。

ルペンに対するマクロンの大差での勝利は、誤解を招く。フランス社会に根強く残る分断と分極化を覆い隠してしまうからだ。第1回投票では、有権者の半数しか、概ねEU支持の候補者に投票しなかった。残る半数は、極左または極右の候補者を支持し、現在の形のEUを嫌悪していた。マクロンは首位に立ったものの、得票率はわずか24%にとどまった。ルペンを3ポイント上回っただけで、2002年のジャック・シラク以来、主要候補として最も低い得票率だった。
2002年の決選投票でルペンの父ジャン=マリーと争ったシラクと同様、マクロンは決選投票で圧勝した。フランスの有権者を熱狂させたからではなく、多くの人が国民戦線に投票する気になれなかったからだ。ルペンは予想を下回ったとはいえ、第2回投票で得た34%は、2002年に父親が獲得した得票率のほぼ2倍だった。
フランスの半大統領制のもとでは、マクロンが約束した変化を実現するには、国民議会で支持基盤となる多数派を得なければならない。しかし、来月の総選挙でフランスの有権者がその多数派を与えるかどうかは、まったく確実ではない。最近のある世論調査では、61%がマクロンに過半数を与えることを望んでいないと示された。
いくつかの予測では、アン・マルシュ!が最大の議会会派になるとされている。マクロンが1年前に創設し、新しい名称で選挙に臨む政治運動だ。新党名はラ・レピュブリック・アン・マルシュ!となる。ただし、そうした予測も過半数には届かないとしている。不人気な社会党政権が5年間続いた後、自分たちが政権を担う権利があると考える共和党が首位に立つとみる向きもある。共和党が過半数を獲得し、マクロンに保守派の首相と政権の任命を迫る可能性さえある。
マクロンの前途は、幻滅した(あるいは機会をうかがう)社会党や共和党の政治家がどれだけアン・マルシュ!を選ぶかにも左右される。政党や候補者との取引をまとめるマクロンの手腕も重要だ。選挙区で第1回投票の過半数を得る候補者がいなければ、上位2人に加えて、得票率が12.5%を超えた候補者も決選投票に進む。したがって、選挙協定を結び、人気の低い候補者に撤退と支持を促すことが欠かせない。そうした候補者が票を奪う可能性がある相手は、アン・マルシュ!の候補者たちだ。その半数は政界に初めて足を踏み入れる人々となる。
そして、政権運営に必要な多数派を得ることは、第一歩にすぎない。成功すれば、何十年も改革に抵抗してきた国で、マクロンは約束した政治と経済の大変革を実行しなければならない。
フランスの有権者の多くは、自分たちの懸念を顧みず、私腹を肥やす政治家層にうんざりしている。マクロンは、政治資金の流れをより透明にし、政治制度をより開かれた説明責任のあるものにしたいと考えている。政治家が親族を雇うこと、有給の役職を掛け持ちすること、過度に手厚い年金を受け取ることを禁じたいとも考えている。さらに、議員の数を3分の1削減する意向だ。
経済面では、硬直した市場を活性化し、リスクを取る人々の税負担や規制負担を軽減する一方、グローバル化や自動化といった急激な変化に人々が対応できるよう支援しなければならない。何よりも、失業を減らす必要がある。特に若者の失業は深刻で、若者のほぼ4分の1が職に就いていない。
こうしたすべてを実現するには、マクロンは根強い既得権益を乗り越えなければならない。制度が機能不全に陥っていると大半の人が認識しているにもかかわらず、一般市民でさえ、手元にあるものを失うことを恐れて、変化に抵抗することが多い。
しかし、マクロンにとって最大の課題は、9月に選出されるドイツの次期首相を説得し、ユーロ圏改革に協力してもらうことかもしれない。より柔軟で成長を促す政策を実現するには、ドイツがGDP比8.6%に達する巨額の経常黒字に対処する必要がある。この点では、トランプからの圧力が、今回は役に立つかもしれない。
マクロンはまた、独自の予算、財務相、議会を備え、より統合され、効果的で民主的なユーロ圏を築きたいと考えている。単一通貨を機能させることにドイツが本気なら、マクロンと建設的に協力すべきだ。そうしなければ、あるいはマクロンがフランスの改革に失敗すれば、リベラル・デモクラシーはさらに苦境に陥りかねない。
マクロンと同じく、マッテオ・レンツィも2014年、政治を大きく変えると約束してイタリア首相に就任したときは39歳だった。しかしレンツィは大した変化をもたらせず、ほどなく不人気となった。そして昨年12月の国民投票で敗北した後に辞任し、反ユーロのポピュリストが次の選挙で勝利しやすい状況を残した。マクロンには、はるかにうまくやってほしい。


