世界は、1990年代初頭のグローバリゼーションへの熱狂から、過去10年間の反動へと移りました。いま私たちは、グローバリゼーションの根本的な変容を目の当たりにしています。その 本来の定義 、すなわち「自由貿易、資本の自由な移動、より安価な外国人労働市場の活用を特徴とする、ますます統合された世界経済の発展」は、中国のような新たな担い手、電子商取引の動向、人工知能や機械学習といった新たな技術的側面によって形作られています。
グローバリゼーションの新たな姿
1990年、モスクワのプーシキン広場にマクドナルドの1号店がオープンした際、私も多くの人々と列に並びました。それに先立ち、天安門広場にはKFCの1号店が開店していました。これらの企業はすぐにグローバリゼーションの象徴となりました。多くの企業がそれに続き、買収を進め、新たな顧客を開拓し、世界各地に工場を急速に開設しました。 国際通貨基金 は、1990年代に海外直接投資が平均50%急増したと推計しています。
今日、私たちは逆の傾向を目の当たりにしています。 エコノミスト誌 は世界の売上高上位500社の実績を調査し、10業種のうち8業種で、多国籍企業の売上高合計の伸びが国内企業を下回ったと報告しています。米国企業の国内市場における収益率は、現在、海外市場より30%高くなっています。多国籍企業のほかの動きにも同様の傾向が表れています。ウーバーは2016年、滴滴(ディディ)との競争に 年間約10億ドルを費やした 後、中国から撤退しました。インドでは、ボーダフォンが国内企業のリライアンスに 顧客を奪われて います。

不確実性をさらに高めているのが、中国の文化的、経済的、ビジネス上の影響力の拡大です。その最大の例が、大胆な一帯一路構想です。アジア、アフリカ、中東、欧州の数十カ国にまたがり、600億ドルを超えるインフラ投資を行うこの構想は、地域および世界の連結性を高めることを目指し、 新たな時代の到来を告げています 。それは、中国の特色を備えたグローバリゼーションの時代です。
テクノロジーの台頭は、世界企業にも国内企業にも、新たな機会と障害をもたらしています。 ブルッキングス研究所 は、5年前、データの自由な流通が世界経済に2.8兆ドルの貢献をしたと推計しており、この額は2025年までに11兆ドルに達する可能性があります。アマゾンやフェイスブックからアリババに至る世界的なデジタルプラットフォーム、インターネット接続、そして新たな石油とも呼ばれるビッグデータが、小規模企業の「マイクロ多国籍企業」化を可能にしています。
人々はデジタルプラットフォームを使って学び、仕事を見つけ、自分の才能を発信し、個人的なネットワークを築くことで、グローバリゼーションに直接参加しています。約9億人がソーシャルメディア上で海外とのつながりを持ち、3億6,000万人が越境電子商取引に参加しています。
同時に、競争は激化し、格差も拡大し続けています。先進国の農村部と都市部、発展途上市場と先進市場、そして最終的には人間と機械の間で、格差や不平等が広がっています。多国籍企業は不平等を生み出す存在と見なされることが増え、政府や消費者からの圧力や批判も強まっています。
この新時代に成功するには、何が必要でしょうか?
APCOワールドワイドの 最近の調査 では、調査対象となった企業幹部のうち、予期せぬ地政学的脅威への対応に十分備えていると感じている人はわずか14%で、成長に必要な人材の採用と定着という課題に対応できると感じている人もわずか18%でした。この調査から得られた重要な結論は、今日の企業はリスクに積極的に向き合い、それを受け入れて適応するためのプロセスを持つ必要があるということです。調査から導かれたモデルは、俊敏な企業を築くための3つの重要な柱として、積極的なリーダーシップ、連携した提言活動、企業家精神に富む文化を挙げています。
俊敏な組織を築くための柱。画像:APCOワールドワイド
1. 積極的なリーダーシップ
積極的なリーダーシップの要素には、誠実さ、透明性、先見性のある思考と行動、多様な考え方や意見を受け入れる姿勢、そして何よりも断固たる行動を取る意志が含まれます。企業が立場を明確にする例は数多くあります。「生活賃金」を率先して設定することから、移民や難民など、より弱い立場にある人々を守ることまで、さまざまです。いずれの場合も、こうした行動は経営幹部のトップによって明確に主導されました。
セールスフォースの最高経営責任者マーク・ベニオフは 述べています 。活動家CEOになるつもりはなかったものの、従業員に背中を押されたといいます。シティグループのマイケル・コルバットは、同行の男女賃金格差の問題に取り組む姿勢を公の場で何度も示し、是正を誓いました。フォーチュン誌のCEOイニシアチブ、 インクルーシブ・キャピタリズム連合、 Bチームなどは、重要な社会問題について発言し、行動することを促されるリーダーが増えている傾向を示しています。
2. 連携した提言活動
APCOの調査によると、政治・社会問題に関心を持つ人々の圧倒的多数、77%が、慈善目的の寄付をする企業よりも、自社の強みを生かして社会問題に取り組む企業を高く評価すると答えました。また、企業リーダーの88%が、社会の最大の課題に対する解決策は、企業の資源とイノベーションに依存すると考えていました。しかし、企業が単独で取り組むことはできません。外部と連携し、国連などの多国間組織からNGO、財団、市民社会、次世代の研究者まで、多様なパートナーを集めて、解決困難な課題に共同で取り組むためのインキュベーターを設立する必要があります。ジョンソン・エンド・ジョンソンの JLABS、 MIT Solve 、 国連グローバル・コンパクトなど、新たな官民連携が次々と生まれています。
3. 企業家精神に富む文化
企業が従業員をどう扱うかは、その企業が世界各地でどのように経営され、運営されているかを直接反映するものと見なされます。失敗から素早く学び、中間層に権限を与え、現状に疑問を投げかける組織と文化を築くことが重要です。企業が成功するには、世代や文化、地域の異なる人々が何に意欲を感じるのかを、リーダーが理解する必要があります。成功のもう一つの重要な要素は、従業員に権限を与え、当事者意識と自律性を認めることです。
多国籍企業は、より包摂的なグローバリゼーションをめぐる取り組みの最前線に立ち、地政学的不確実性の時代に成長の見通しを切り開こうとしています。この3つの要素を考慮することは、明日の荒波を乗り越えられる俊敏な企業を築くうえで欠かせません。



