世界秩序のルールが変化するなか、国家安全保障と経済協力の関係も世界的に変わりつつあります。
こうした変化を理解するため、世界経済フォーラムとHinrich Foundationは、この分野を代表する専門家を招集しました。
技術の役割から対話の必要性まで、専門家が示した9つの主要な知見を以下に紹介します。
地政学的緊張の高まりやリスク低減の取り組みを受け、貿易や投資をめぐる国内政策論議で、国家安全保障の存在感が増しています。貿易担当者が国家安全保障・防衛機関の担当者と協議する機会もこれまで以上に増えており、その結果、半導体や重要鉱物から再生可能エネルギー技術に至る幅広い分野で、貿易・投資規制が強化されています。
そのため、シンガポールでのシャングリラ会合を前に、世界経済フォーラムはHinrich Foundationと連携し、国家安全保障・防衛分野の政策担当者と、経済協力・貿易分野の政策担当者をそれぞれ代表する少数の専門家を招集しました。
この対話では、2つの専門家グループが見解や視点を共有し、国際経済協力の変化について議論しました。多くの政府が互いへの警戒を強め、有権者の間でも制約のないグローバリゼーションの恩恵への疑問が高まるなか、相互の経済的相互依存を支えてきた前提が問い直され始めています。
会合に参加した企業は、国家安全保障を追求するために導入された新たな規制や、絶えず変化する規制が自社に及ぼしている影響について見解を共有しました。
国家安全保障と経済協力:9つの知見
これらの議論から、国家安全保障と世界経済の関係の変化をめぐる9つの主要な知見が浮かび上がりました。
1:台頭する多極世界
第二次世界大戦後に確立された従来のルールに基づく秩序は、前例のない圧力にさらされています。新たな多極世界に入るなか、ルールを全面的に放棄するのではなく、更新することが求められます。
2:相互依存
協力の恩恵は、対立の代償を今なお大きく上回ります。相互依存は国家安全保障機関にとって懸念の種ではあるものの、安定を促し、システムやネットワーク、その他の資産の重複による高いコストを避けるうえで、世界経済を運営する最善の方法です。
3:多角化戦略
国家安全保障機関の懸念は、主にサプライチェーンのリスクと経済的威圧にさらされるリスクに集約できます。いずれも、経済の切り離しや地政学的緊張の高まりを招かず、ルールに基づく多国間貿易体制を放棄する必要もない多角化戦略によって、効果的に対処できます。
4:複数の相手国との貿易
完全な経済的自立を目指す政策のコストは、最大の経済大国でさえ長期的にはあまりに高くつきます。また、幅広く強靭な多角化戦略を策定する必要性が極めて重要だと認識されるようになりました。政治指導者や政策担当者は、将来、敵対する可能性のある国とも貿易する必要があるという現実を受け入れなければなりません。
5:現実主義と開放性
同じ考えを持つ同盟国や潜在的な敵対国とみなす国や貿易相手国は固定的ではなく、選挙や政権交代などを経て突然変わることがあります。したがって、排他的な貿易・投資政策を正当化する際には、硬直したイデオロギーではなく、現実主義と開放性を重視しなければなりません。
6:軍民両用技術
「軍民両用物品」とは、軍事と民生の両方に使われる物品を指します。その概念と、そこから生じる貿易・投資規制は、企業にとって大きな問題です。いわゆる「小さな庭、高い柵」というアプローチでは、対象範囲が際限なく広がり、柵もますます高くなるように見えるため、規制は絶えず拡大しています。潜在的な攻撃対象は数多くありますが、政府がそのすべてに同時に効果的に対処することはできないと認識することが解決への道です。そのためには、貿易・投資規制を課す際に抑制を働かせるとともに、真に軍民両用の技術とは何かを広く捉えすぎず、狭く定義する必要があります。

7:脱炭素化に向けた協力
私たちが皆、実現を目指すグリーン移行には、国境を越えた協力が一定程度必要ですが、経済の切り離しやリスク低減の取り組みによって、急速に損なわれています。脱炭素化が真の目標であるなら、政治指導者は相互依存と専門化の恩恵を認識し、限られた世界の資源を最も効率的に活用する必要があります。
8:信頼の問題
現在、国際協力の崩壊をめぐって世界が直面している難題の背景には、2つの側面での信頼の低下があります。第一に、世界貿易ルールは、最大の経済主体に有利なように競争の場が傾いているという多くの人々の見方を十分に和らげられていないと受け止められています。第二に、国内で貿易の利益を、グローバリゼーションの「勝者」と「敗者」と呼ばれる人々の間で、より公平に分配できていません。つまり、競争の激化から恩恵を受けた人々と、その競争によって生計を損なわれた人々の間での分配です。
9:緊張緩和に向けた積極的な対話
世界の地政学的情勢がますます緊迫するなか、トラック1.5対話を含むマルチステークホルダー対話は、緊張を和らげ、変化する国際的課題に対処する新たな視点を見いだし、主要な利害関係者間の信頼を育むうえで重要な役割を果たします。経済協力と国家安全保障の境界がますます曖昧になっている今、これは極めて重要です。言い換えれば、国家安全保障と経済協力の相互理解を深めるには、積極的な対話が不可欠な要素です。
これは、世界経済フォーラムが今後数カ月にわたりワシントンや東京などの首都で開催する、国家安全保障と経済協力に関する一連の対話の第1回でした。幅広い利害を代表するさまざまな関係者が、開かれた率直で建設的な対話を行うことを目指しています。これは、信頼を再構築し、世界の現状を改善するというフォーラムの目標の実現につながります。



