なぜ米国は所得格差に取り組む必要があるのか

なぜ米国は所得格差に取り組む必要があるのか
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ここ数十年、米国の所得格差は大幅に拡大しており、この傾向が反転する兆しは見られない。格差が現在と同じほど高かったのは、大恐慌の直前が最後だった。これほど高い格差は、広く共有されている社会正義と機会均等の規範にそぐわないだけでなく、米国の経済と民主主義に深刻な脅威をもたらしている。

米国で格差が急拡大している背景には、大多数の米国人の所得停滞がある。経済成長の恩恵のうち、拡大する割合が高所得の米国家計のごく一部に流れ込む一方で、下位90%の平均世帯所得は1980年以来横ばいだ。 最近の報告書 で、経済諮問委員会は、下位90%に向かう所得の割合が2013年も1973年と同じだったなら、世帯規模を調整した世帯年収の中央値は現在より18%、約9,000ドル高かっただろうと述べている。

米国の貧困世帯の可処分所得(税と移転後)は、何十年もの間、他の先進国の同様の世帯を下回ってきた。今では米国の中間層も後れを取っている。

過去30年間、ほとんどの先進国の中所得世帯では、同程度の米国世帯より可処分所得が大きく増加した。今年、米国は「最も豊かな」中間層の座をカナダに譲り、欧州の複数の国も僅差で続いている。これらの国々における教育、医療、退職に関する手厚い公的給付を可処分世帯所得の推計に加えると、米国中間層の相対的な位置は さらに後退する。

米国中間層の暮らし向きが低迷する主因は、賃金の伸び悩みだ。1970年代初頭にピークを迎えた後、25~64歳のフルタイム労働者の実質(インフレ調整後)賃金中央値は停滞した。背景には、生産性の伸びの鈍化と、生産性の伸びと賃金の伸びの大きな乖離がある。

1980年以来、実質平均時給は年率1%で上昇しており、生産性の伸び率の半分にとどまる。賃金上昇の分配も大幅に不平等になり、最大の増加分は所得上位10%が得ている。

さらに、技術変化とグローバル化により、雇用全体に占める中技能職の割合が低下する一方、低技能職の割合は増加した。こうした傾向に、過去10年間の労働力参加率の低下が加わり、中間層の所得停滞を説明している。

大多数の米国人にとって、賃金は可処分所得の主な源泉であり、可処分所得は個人消費支出を左右する。それは総需要の圧倒的に大きな構成要素だ。ここ数十年、可処分所得の伸びが鈍化するにつれ、中・低所得世帯は消費を維持するために借金に頼るようになった。

家計が富裕層の消費水準に追いつこうとするなか、個人貯蓄率は急落し、信用債務と住宅ローン債務は急増した。かなり長い間、所得格差の拡大は消費の伸びを妨げなかった。実際、 「トリクルダウン消費」 の圧力が消費支出と債務、破産、そして中・低所得世帯の金融不安をいっそう増大させた。

2007~2008年の金融危機とともに、清算の時が訪れた。それ以降、総消費の伸びは低調だ。中・低所得世帯は借入を減らし、債務を返済せざるを得なくなり、しばしば、主要資産であり多くの場合唯一の資産でもある自宅を、苦渋の債務不履行によって失っている。

こうした世帯が支出を切り詰めるにつれ、消費支出と経済成長のペースは所得分布上位の稼得者にいっそう依存するようになった。2009年に景気後退が終わって以来、上位5%の実質消費支出は17%増加したのに対し、下位95%ではわずか1%の増加にとどまった。

景気回復のパターンは、 長期的な傾向をさらに強めた。2012年には、所得上位5%が個人消費支出の38%を占め、1995年の27%から上昇した。この間、所得下位80%の消費シェアは47%から39%に低下した。

今後を見据えると、所得格差の拡大と大多数の米国人の所得停滞は、総需要の弱まりと成長の鈍化を意味する。さらに重要なのは、所得格差が教育機会と人的資本の育成に悪影響を及ぼし、供給面から経済成長を抑制することだ。

低所得世帯と高所得世帯に生まれる子どもたちは、同じような能力を持って生まれる。しかし教育機会は大きく異なる。低所得世帯の子どもは、幼児教育を受けられる可能性が低く、十分な資源のない学校で質の低い幼稚園から高校までの教育を受ける可能性が高く、大学に進学する、あるいは卒業する可能性も低い。

低所得世帯と高所得世帯に生まれた子どもたちの間に生じる学歴の格差は、幼少期に現れ、時間とともに拡大する。 推計によっては、現在の格差は20年前の2倍に達している。そのため、米国は悪循環に陥っている。所得格差の拡大が教育機会の不平等をさらに広げ、それが学歴の格差を深める。そして、それは人的才能の浪費、労働力の教育水準の低下、経済成長の鈍化、さらなる所得格差につながる。

所得格差がもたらす経済的コストは大きいが、政治的コストは最も有害で危険なものとなる可能性がある。富裕層には、自らの地位を維持または強化する政策を推進する動機と、 それを実現する力 の両方がある。

米国最高裁判所が選挙資金規制を骨抜きにしたことを受け、集中した経済力が集中した政治権力を行使することは、かつてないほど容易になった。選挙献金は勝利を保証しないものの、 経済エリートが議員、規制当局、その他の公職者に接触する機会を増やし 、自らの利益に沿うよう政治論議を方向づけることを可能にする。

その結果、米国の政治制度はますます金銭に支配されている。これは、米国の所得格差が経済成長だけでなく、民主主義の健全性も脅かす水準に達した明白な兆候だ。

共同掲載: プロジェクト・シンジケート

著者:ローラ・タイソンはカリフォルニア大学ハース経営大学院の教授であり、世界経済フォーラムのジェンダー・パリティに関するグローバル・アジェンダ評議会のメンバーである。

画像:2010年11月11日、台北の台湾銀行で撮影された写真イラストに写る米ドル紙幣。ロイター/ニッキー・ロー。

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