2000年代を通じて、欧州諸国は高度な技能を持つ人々を大勢引き付けることにおおむね成功してきた。ユーロ圏危機は、こうした従来の傾向を大きく変えた可能性が高い。成長が依然として低調で、失業率が高水準で安定するなか、研究開発(R&D)への支出削減により、周辺国は「頭脳流出」にさらされやすくなるおそれがある。
過去10年間、より広範なグローバル化の潮流の一環として、世界規模で移住が加速してきた。OECD諸国の移民(15歳以上)の数は、2000年から2010年の間に38%増加し、1億600万人に達した(Arslan et al., 2014を参照)。このうち約3,500万人は高等教育を受けていた。しかし、高学歴の労働者を引き付け、定着させることに成功した国もあれば、そうでない国もあった。完全な指標とは言えないものの、この指標から、その国が全体として頭脳流入国であるかどうかをうかがうことができる。
数週間前に公表されたOECD移民データベース(DIOC)を基に、図1は、2010年における選定されたOECD諸国の高学歴労働者の純移動(移民数から出国者数を差し引いた数)を、人口で標準化して示している。いくつかの興味深い傾向が見て取れる。(i)欧州の中心部にある小国(スイス、ルクセンブルク)は、特に大幅な純流入を記録した。(ii)欧州の大国のなかでは、英国が頭脳流入国の上位に入った。(iii)2010年のアイルランドとフィンランドでは、高学歴者の流入を上回る流出が見られた。
教育達成度別の移住データは、現在のところ2010年までしか利用できない。通常であれば、移住のパターンは時間とともに比較的安定する傾向にあるため、これは大きな問題ではないだろう。しかし現時点では、2010年は遠い過去のように感じられる。 Machado and Walsh (2014)が指摘するように、ユーロ圏危機は、複数の国で労働市場と成長率に破壊的な影響を及ぼし、高学歴者の移住パターンにも構造変化をもたらした可能性が高い。各国が徐々に成長を取り戻すなか、移住パターンのこうした変化が一時的なものなのか、より恒久的なものなのかを見極めることが重要になる。
欧州の一部の国では、こうした変化は一時的ではないだろうと私は考えている。 Veugelers (2014) は、財政再建によって、EU内ですでに「イノベーション後進国」だった国々が、他の公的支出項目に比べて、研究・イノベーション(R&I)支出を不釣り合いに大きく削減したことを示している。研究への民間・公的支出の減少は、長期的には人材を引き付け、定着させる各国の能力に大きな影響を及ぼす可能性が高い。直接的な因果関係を示す意図はないが、以下の図2と図3は、高度な技能を持つ人々の移住フローと研究開発支出(公的・民間の双方)との強い相関を示している。
注:移住率は、高学歴の出国者数を、出身国にいる同様の教育特性を持つ人々の数で割って算出している(Barro and Lee, 2013から取得)。
出典:DIOC 2010、Bruegelによる算出
図表が示すのは、研究開発への支出が少ないほど、誘引要因(人材を引き付ける能力)が弱く、押し出し要因(人材を定着させること)が強いこととの相関があるという点だ。研究者の移動を決める要因に関する調査結果[1]も、ある程度同じ方向を示している。キャリア形成、研究資金、施設、設備(いずれも研究開発支出と強く関連していると考えられる)は、EU域内の別の国にも、EU域外にも移る理由の上位に挙げられている。
研究開発を重視する国は、中長期的にイノベーション分野で成長を生み出す可能性が高い(Veugelers, 2014を参照)。これは、公的部門(大学の研究分野)と民間部門(革新的な事業分野)の両方に当てはまる。ひいては、イノベーション分野が成長の源となる経済は、海外から人材を引き付けるにも、自国で育成した高度な技能を持つ人々の雇用を創出するにも有利な立場にある。そのため、研究開発支出が大幅に削減されたEU周辺国では、今後数年間に頭脳流出がより顕著になると予想できる。Veugelers (2014)は、該当する国としてアイルランド、スペイン、イタリア、ギリシャを挙げている。
興味深いことに、Veugelers (2014)は、2007年から2012年にかけて英国でも研究・イノベーション(R&I)支出が大幅に削減されたことを示している。これに、移民法がより厳しくなる可能性が加われば、欧州を代表する頭脳流入国としての英国の地位が、今後損なわれるおそれがある。
研究開発がイノベーション、移住パターン、研究施設、高度な技能を持つ人材の賃金に及ぼす影響は、長い時間をかけて初めて表れる可能性が高い。したがって、今回の分析が欧州諸国について描くのは、研究開発支出の削減が撤回されない場合に限った、起こり得るシナリオである。財政余地が生まれるなか、削減を撤回することが望ましい。
Alvaro Leandroによる調査支援に感謝する。
本ブログ記事は、『The Handbook of Global Science, Technology, and Innovation』(Archibugi D. and Filippetti A. 編)のために執筆された章の幅広い知見の一部を紹介する。同書はThe Handbooks of Global Policyシリーズの一冊として、Wiley-Blackwellより2015年刊行予定。
本記事は、 Bruegelとの共同掲載である。掲載は、世界経済フォーラムが本記事の見解を支持することを意味しない。
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著者:Alessio Terziは、Bruegelのアフィリエイト・フェロー。
画像:大学院生のKatie Batesが、ロンドンにあるUCL薬学部のナノ医療研究室で作業している。2013年5月2日。REUTERS/Suzanne Plunkett。


