経済・金融アナリストとして35年を過ごすなかで、そのかなりの時間をイタリアについて考え続けてきた。この国の経済を調べることが、この業界での最初の仕事だった。実際、初めて飛行機で訪れた外国もイタリアだった。休暇でプーリア州とバジリカータ州を訪れ、戻ったばかりだ。何十年たっても、この問いはほとんど変わっていない。これほど素晴らしい国が、なぜ成功するのにこれほど苦労し続けているのだろうか。
イタリアでは、弱い政府と、驚くほど適応力のある民間部門、そして小規模製造業における特有の強みが、長年せめぎ合ってきた。生来楽観的な私は、こうした強みが最終的には勝り、イタリアはそれでも繁栄すると、概して信じてきた。しかし、欧州の 経済通貨同盟が発足する前の時代には、イタリアには今は失われた一種の柔軟性があった。時折切り下げることのできる自国通貨である。こうした競争力を高めるための定期的な措置は、フィアットをはじめとする大手輸出企業にとって大きな助けとなり、中小企業にも恩恵をもたらした。
欧州の他の国々は、競争力を回復するためのこうした通貨切り下げの姿勢に、複雑な感情を抱いていた。つまり、その負担は他国に及ぶからだ。欧州の為替レートを固定し、単一通貨へ移行する議論が始まると、他の加盟国、とりわけドイツとフランスでは、自国の利益に何がかなうのかをめぐって意見が分かれた。ドイツの保守派の多くは、連邦銀行(ブンデスバンク)の一部関係者も含め、イタリアが低インフレに取り組む姿勢を疑っていた。彼らは低インフレを 欧州の主要な金融目標として確立したいと考えていた。一方で、イタリアをユーロ圏の外に置けば、自国の競争力がリラの時折の切り下げに脅かされることになる。
結局のところ、イタリアを参加させる決定が下された。同時に採択された 財政ルール ――国内総生産(GDP)に対する財政赤字を3%未満に抑える約束など――は、イタリアに規律ある行動を強いる試みと見ることができる。イタリアがそもそも参加できないようにする手段だと考える人もいたのではないか、と私は時折疑問に思った。いずれにせよ、イタリアは二重に身動きが取れなくなった。調整に使える通貨を失い、財政面の裁量も厳しく制限されたのである。
結果は芳しくない。2007年から2014年にかけて、イタリアは 景気循環調整後の財政赤字を抑制する点では 大半の国を上回る成果を上げたにもかかわらず、債務の対GDP比は 急上昇したというのは皮肉である。その理由は名目GDPの伸び悩みが続いたことであり、それ自体も、一部は割高な通貨と厳しい財政抑制によるものだった。
イタリアはユーロ圏で3番目に大きな経済規模を持ち、人口も3番目に多い国である。このことに加え、債務の規模、そしてユーロ創設時とその後の欧州の優先事項について私たちが学んできたことを踏まえ、私はずっと、最終的にはドイツが、2010年にギリシャを襲ったような金融危機からイタリアを守るために必要なことは何でもするだろうと思ってきた。今、その見方に疑問を抱き始めている。
イタリアは、債務負担がこれ以上増えるのを止めるため、名目GDPの成長を必要としている。もちろん、持続的に成長するには、 経済を改革し、生産性を高め、労働力を拡大する必要もある。しかし、ユーロ制度にとどまる限り、通貨切り下げによる支援は得られない。
つまり、イタリアにはドイツの支援が必要だ。不可欠な財政面の柔軟性を高めるだけでなく、ユーロ圏のインフレ率を欧州中央銀行の目標である「2%を下回るものの、その近辺」に戻すことも必要である。ドイツ自身の消費者物価上昇率がその水準以上にならなければ、ユーロ圏がこれを実現するのはほぼ不可能だろう。
今回の旅でイタリア各地を巡りながら、私は別の形のドイツ的な硬直性を思い描いた。 目標を下回るインフレ率を一切容認しない方針はどうだろう。インフレ率が2%を下回り、かつその近辺にも達しなかった年には、ドイツ国民に追加税を課してはどうか。目標との乖離が大きいほど税額も増やすのだ。税収は、景気循環調整後の財政赤字が3%未満で、GDP成長率がトレンドを下回る国々に配分できる。考えてみれば、イタリアがドイツ人観光客に懲罰的な税を課してもよいのかもしれない。
分かっている。そんな案はばかげているだろう。しかし、景気循環を考慮しない恣意的な財政赤字ルールに固執することや、需要をあまりに低く抑えて欧州がインフレ目標を大幅に下回り、その結果イタリアなどが終わりのない不況に追い込まれることと比べて、どれほどばかげているだろうか。どちらも大差ないと思う。
以下との共同掲載: Bruegel
著者:Jim O’Neillは、設立当初から理事を務めた後、2013年9月にシンクタンクBruegelの客員研究員に就任した。
画像:2003年4月24日、ローマのヴィットーリオ・エマヌエーレ2世記念堂の頂上で翻るイタリア国旗。ロイター/Tony Gentile



