危機時に中央銀行が銀行を支援することで生じるモラルハザード(Acharya and Tuckman 2013)と、中央銀行の緊急融資制度に伴うスティグマ(Armentier et al. 2013)を背景に、政策当局は新たな流動性要件を導入し、規制の枠組みを拡大している。さらに、銀行の資金調達が従来型の預金を超えて、信用格付けに左右されやすい市場性資金への依存を強めるなか、流動性の自己保険は、中央銀行の最後の貸し手機能および預金保険を補完するものとして重要性を増している。
世界金融危機の際に格下げされた銀行は、資金調達コストや担保要件の上昇に直面し、格付けトリガー条項のために、一部の資金調達手段へのアクセスを完全に失うことさえあったという、報道や事例に基づく証拠は豊富にある(Financial Times、2012年5月21日)。Karam et al.(2014)では、資金調達市場へのアクセス低下が、銀行の家計および企業への融資能力を通じて実体経済に重大な影響を及ぼし得ることを示し、また、この影響を緩和するうえで、さまざまな形態の流動性自己保険がどの程度重要かを評価している。
本研究では、危機期間中の80件の格下げを対象とする米国の四半期データを用い、銀行の資金調達ならびに国内外の融資への影響を検証する。銀行の資金調達は、コア(要求払預金、マネー・マーケット・ファンド、預金保険対象の定期預金、預金保険対象のブローカー預金)と、非コア(預金保険の対象外である定期預金、米国の預金保険が適用されない海外支店の預金(海外預金)、およびフェデラル・ファンド購入とレポの形態による市場性資金)に分類される。
信用格付けの格下げが資金調達へのアクセスに及ぼす影響
主な結果は3点ある。第一に、信用格付けが引き下げられた銀行では、非コア預金および市場性資金へのアクセスも同時に、かつ持続的に低下する。その結果、国内外の融資が大幅に減少する。ただし、銀行が当初から流動資産のバッファーを多く保有していれば、流動性ショックが融資供給に波及する影響は弱まり、格下げされた銀行の海外子会社が資金調達を親銀行に頼らず現地預金に依存していれば、海外への波及も抑えられる。図1は、当初の信用格付け別に、信用格付けの引き下げがコアおよび非コア資金調達に及ぼす平均的な影響を示している。影響が最も大きいのは、銀行が投資適格から投機的格付けへ引き下げられる場合(BBB+超からBBB以下)と、投機的格付けの範囲内でさらに格下げされる場合(BBからB)である。この影響が非線形であることは、市場性資金の貸し手が融資契約で格付けトリガーを用いるという事例証拠と整合的である。
図1。格付け別に見た信用格付け引き下げがコアおよび非コア資金調達に及ぼす平均的な影響

注:破線は95%の有意区間を示す。実線は推定された平均的な影響を示す。
フェデラル・ファンド(すなわち無担保の銀行間資金調達)と海外預金を除き、ほとんどの預金および市場性資金は格下げに反応しない。これら2つの資金源は、格下げされた銀行では対照群(格下げされていない銀行)と比べて有意に減少する。また、2008年第4四半期中およびその後には非コア資金調達へのアクセスが有意に低下するが、それ以前にはそうした低下は見られない。このことは、動揺期には投資家が格下げにより敏感になることを示している。総じて、信用格付けの引き下げは、無保険預金および市場性資金の持続的な減少と関連しており、とりわけ市場性資金市場が逼迫し、共同保険が機能しなくなる場合にその傾向が顕著である。
資金調達ショックが国内外の融資に波及する仕組み
次に、格下げに関連する資金調達面の流動性ショックが、国内外の融資にどのように波及するかを分析する。流動資産のバッファーが中央値を下回る銀行、および信用格付けに左右されやすい資金源(具体的には無保険の定期預金と市場性資金)への依存度が中央値を上回る銀行では、融資の減少が統計的にも経済的にも有意性を増す。さらに、流動性制約のある銀行と制約のない銀行を分けると、信用格付けの引き下げに伴う融資の減少は、格付けに左右されやすい資金源への依存度が高い銀行に限られ、かつリーマン後の期間に限られる。したがって、信用格付けの引き下げに伴う外部資金調達へのアクセス低下は、銀行が流動資産のバッファーを厚くして自己保険をしていない限り、国内融資の大幅な減少につながる。同様に、海外融資の減少は、受入国の預金に強く依存していない、制約のある海外子会社でより顕著である。したがって、海外子会社の資金調達の自立性(海外子会社が国内の親銀行とは独立して資金を調達する場合)は、国境を越えた波及を抑え、国内で危機が起きた際にも、銀行が受入国の実体経済への融資を維持できるようにする。
内部流動性支援策
最後に、内部資本市場が資金調達面の流動性ショックの波及または抑制に果たす役割を評価する枠組みを構築する。外部資金調達へのアクセス低下に対する3つの内部流動性支援策、すなわち純下流融資(親銀行から子会社への融資)、親銀行から子会社への資本注入、および国内の親銀行から海外子会社への純融資が実施されることの重要性を検証する。こうした内部流動性支援策は、格付けが最上位の銀行では特に重要だが、格付けがA-以下の、より脆弱な銀行では重要ではない。ただし、最も厳しい制約に直面する銀行では、これらの策の実施規模は、外部資金調達の減少を相殺し、その後の銀行融資の減少を食い止めるには十分でない。
以上の結果は、流動性危機の実体経済へのコストを抑えるうえで、流動性規制が重要であることを裏付けている。十分な流動性バッファーを維持することで、銀行は流動性ショックによりよく耐え、経済への信用供給を維持できる。しかし、効率的な集中型流動性管理体制を備える格付け最上位の銀行に一律に流動性規制を適用することは、最適とは限らない。そうした体制は、銀行グループ内で最も必要とされる場所に流動性を振り向け、銀行グループ全体としてのバッファーを小さく保ちながら、流動性ショックの影響を緩和できる可能性がある。
結び
本研究の結果は、子会社化(高リスクの銀行業務を別個の法人に移すこと)、リングフェンス(リテール銀行の業務を構造的に分離すること)、および外国銀行業務における現地流動性要件の強化を支持する。また、従来型ではない資金源への依存を強めて業務を拡大してきた大規模銀行や大きすぎて潰せない銀行の市場性資金に賦課金を課す、マクロプルーデンス政策の潜在的な利点も示している。最後に、自己資本比率の上昇は(流動性バッファーの拡大とは異なり)、信用格付けの引き下げによる実体経済への影響を緩和するとは確認できなかった。このことは、自己資本規制と流動性規制が相互補完的であることを強調している。
参考文献
Acharya, V and B Tuckman (2013), “意図せざるLOLR制度の帰結:非流動性レバレッジの事例”, Stanley Fischerを称える第14回IMF Jacques Polak会議で発表、10月。
Armentier O, E Ghysels, A Sarkar, and J Shrader (2011), “金融市場におけるスティグマ:危機時の流動性入札と割引窓口借入から得られる証拠”, Federal Reserve Bank of New York Staff Report 483、1月。
Karam, P, O Merrouche, M Souissi, and R Turk (2014), “流動性ショックの波及:内部資本市場と銀行の資金調達戦略の役割”, IMF Working Paper 14/207。
本稿は VoxEU との協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
Agendaの最新情報をお届けします。 週刊ニュースレターに登録。
著者:Philippe Karamは国際通貨基金(IMF)に勤務し、以前はアラブ通貨基金、世界銀行、カナダ財務省およびカナダ中央銀行に勤務していた。Ouarda Merroucheは欧州証券市場監督局(ESMA)のシニアエコノミストである。Moez Souissiは国際通貨基金(IMF)のエコノミストである。Rima TurkはIMF中東経済金融センターのシニアエコノミストを務める。
画像:米国連邦準備制度理事会の建物。ワシントンにて。REUTERS/Gary Cameron



