世代間移動性の水準は、米国各地で大きく異なる。本稿では、1986年から2004年にかけて米国20州で成立した学校財政改革を利用し、州内の学区間における歳入と支出の格差縮小が、生徒の世代間所得移動性に及ぼす影響を検証する。財政の均等化は、特に低所得の生徒の移動性に大きな影響を及ぼす。その効果は、低所得地域と高所得地域の間で、教育投入と大学進学率の格差が縮小することを通じて生じる。
米国の州や地域の労働市場の間には、世代間所得移動性に大きな差がある。全国所得分布の下位五分位に属する家庭に生まれた子どもが、成人後に上位五分位に達する確率は、ユタ州では14.3%だが、テネシー州ではわずか7.3%である(Chetty et al. 2014)。
しかし、所得水準と世代間移動性の高さを実現する地域の要因について、私たちはあまり知らない。移動性の高い地域には、次のような特徴がある。
所得による分離と人種による分離が少ないこと、
格差が小さいこと、
社会関係資本が豊かであること、
そして、より良い学校があること(テストの点数を指標とする。Chetty et al. 2018参照)。
こうした傾向は、制度や公共政策が移動性の促進に役割を果たすことを示唆している。ただし、これを因果関係と解釈することはできない。
こうした差を緩和し、移動性を高めるための第一歩は、公共政策の役割を理解することである。私は最近、学校財政の均等化、すなわち州内の学区間における公立学校の歳入と支出の格差縮小が、在学中に異なる種類の財政計画にさらされた生徒の世代間移動性に及ぼす因果的な役割を検証した(Biasi 2019)。
歴史的に、米国の学校は主に固定資産税などの地方税収で賄われていたため、税源の大きい裕福な学区は、貧しい学区よりも生徒一人当たりに多く支出できた。財政配分方式は、各学区の歳入を州資金と地方税収の組み合わせとして定め、各学区への州補助金を配分する。支出を均等化し、すべての子どもに平等な機会を保障するため、各州は過去40年間に、こうした財政配分方式を変更して学校財政制度を改革してきた。
学校財政の均等化改革は、共通の目的を持ちながらも、州や時期によって異なってきた。その結果、同じ州で、同じ名称のもと、同じ目的で実施された改革であっても、学区間の学校支出の水準と分布に及ぼす影響は異なっている。
学校財政改革による学区歳入の外生的な変化を特定する
1986年から2004年にかけて20州で実施された13の学校財政改革によって生じた、生徒一人当たり歳入の分布の変化を利用し、在学中にこれらの改革を経験した1980年から1986年生まれの子どもについて、均等化が世代間移動性に及ぼす因果的な影響を調べる。
改革後の支出や歳入を、そのまま移動性を説明する外生変数として使うことはできない。第一に、住宅価格や所得など、財政配分方式に組み込まれる変数が時間とともに変化し、学区歳入に影響するだけでなく、移動性にも直接影響する可能性がある。第二に、方式の変更は、納税者にとっての学校支出の「価格」と、その見返りとして受け取る公共サービスの量との関係を変える。これにより世帯が「足で投票」し、学区を移る可能性がある。その結果、住宅価格、ひいては学区歳入に影響が及ぶ。したがって、学校財政改革後の住宅価格の変化によって、改革後の歳入が内生的になる可能性があり、その程度は各州の財政計画によって異なる。
この問題に対処するため、州ごとに固有で、もっともらしくランダムな財政配分方式の変更を利用する、シミュレーションに基づく操作変数アプローチを用いる。
行政資料や立法資料の情報を用いて、各州・各年に適用されていた財政配分方式をコード化する。
各方式に組み込まれている学区レベルの変数をすべて収集する(これらのデータは、生徒の在籍者数の62%を占める20州のサンプルで利用できる)。
次に、改革後の方式を用いて各学区の改革後歳入をシミュレーションする。この際、学区の特性(資産価値、在籍者数、所得など)は改革前の値に固定する。
このアプローチにより、財政配分方式の外生的な変更によって生じた学校歳入の分布の変化と、世帯の内生的な居住地選択による変化を切り分けられる。また、州ごとに行われた改革は大きく異なり、歳入や世帯の居住地選択に異なる影響を及ぼし得るため、内生性の程度が州によって異なることも考慮できる(Hoxby 2001)。
世代間移動性を左右する要因
学校歳入の均等化は、州ごと、年ごとに、学区間の一人当たり所得と生徒一人当たりの歳入の相関として測定する。均等化の効果を推定した二段階最小二乗法の結果によると、この相関が標準偏差1つ分低下すると、親の所得が第10パーセンタイルの子どもの期待所得順位は5.6パーセンタイル上昇し、第25パーセンタイルの子どもでは5.2パーセンタイル、第90パーセンタイルの子どもでは3.5パーセンタイル上昇する。これらの推定値は、それぞれ所得の16.2%、14.9%、9.5%の増加に相当する。
また、平均的な改革により、第25パーセンタイルの家庭の子どもの移動性は3.3パーセンタイル上昇し、移動性が最も低い通勤圏と最も高い通勤圏の差のおよそ10%が縮まることも、私の結果は示している。
図1 改革が成功した州、成功しなかった州、改革を行わなかった州における世代間所得移動性の変化、1986~2004年

重要なのは、2段階最小二乗法(2SLS)の推定値が通常最小二乗法(OLS)より約50%大きいことである。これは、改革後の歳入の内生性に対処しつつ、学校財政改革ごとの歳入への影響や世帯の反応の違いを考慮する重要性を示している。学年別の効果を見ると、高校在学中、つまり大学進学の直前に均等化を経験した場合に、その効果が最も大きい。これは、世代間移動性における大学の重要性を示唆している。
学校歳入の均等化が及ぼす影響は、各通勤圏内の所得格差や分離の程度によって異なる可能性がある。学区間の所得格差が大きい場合、所得と歳入の相関が同じだけ低下しても、低所得学区の歳入は高所得学区に比べてはるかに大きく増える可能性がある。同様に、分離の程度が高い場合、相関の低下が低所得の子ども向け歳入の増加につながる可能性が高い。2段階最小二乗法(2SLS)の推定結果は、所得格差と分離の程度が大きい通勤圏で、均等化の効果が最も大きいことを確認している。
学校財政の均等化は、どのような経路で世代間移動性に影響するのだろうか。具体的には、学区間の歳入と支出を均等化することで、裕福な学区と貧しい学区の間にある基礎的な学校投入(教員数など)と、中間的な教育成果(19歳までに大学に進学する確率など)の格差が縮小する。
移動性を高める原動力
各州で裕福な学区とそうでない学区の間にある学校歳入と支出の格差を縮小すると、移動性に因果的でプラスの効果がもたらされる。学校財政の均等化は、特に所得中央値を下回る家庭の子どもにとって、世代間移動性を高める重要な手段となり得る。また、改革ごとの歳入への影響や世帯の反応が州によって異なることを考慮する重要性も示されている。財政配分方式を直接利用することは、より信頼性の高い推定値を得るための有効な方法であり、他の研究にも応用できる。



