2010年1月12日のハイチ地震発生後数日間、世界銀行の災害リスク管理(DRM)コミュニティは被害状況を評価し、ハイチ政府の計画を支援するとともに、この深刻な災害からの大規模かつ長期にわたる復興となる取り組みの立案と実施を支援しました。正確で最新の国内地図は、こうした計画策定の重要な要素でした。この地図は意外なところからもたらされました。インターネット接続と衛星画像を利用できる、世界中のボランティア地図作成者たちが、それぞれの自宅からハイチの地図作成に貢献したのです。
ハイチ地震の後、世界銀行、Googleなど複数の組織が、被災地域の高解像度画像を一般公開しました。世界各地の OpenStreetMap(OSM) コミュニティから600人を超える人々が画像のデジタル化を始め、道路や建物の輪郭、その他のインフラをなぞって地図を作成しました。その地図は、ほどなくして、当時存在した中で最も詳細なポルトープランスの地図となりました。29か国のボランティアが地図に約120万件の編集を加え、推定1年分の地図作成作業を約20日で行いました。この取り組みをきっかけに、世界銀行やその他の国際機関では、コミュニティによる地図作成とオープンデータの捉え方が見直されました。
しばしば地図の「ウィキペディア」と呼ばれるOpenStreetMapは、オンラインデータベースであり、100万人を超える貢献者が参加する世界的なコミュニティです。誰もが貢献でき、各自のツールや分析に使える、無料でオープンな世界地図の作成に協力しています。
2010年のハイチ地震以降、世界銀行のプロジェクトは少なくとも10か国で、クラウドソーシングの力を活用し、建造環境と自然環境の位置や特性に関する空間データを作成するためにOSMプラットフォームを利用してきました。
オープン・シティーズ
現在、南アジア地域は自然災害へのレジリエンスを高める取り組みにおいて、大きな課題に直面しています。農村部から都市部への移住は年率6~7%で進んでおり、今後数十年で5億人が都市へ移ると予想されています。こうした変化への備えは容易ではありません。無計画な居住地の拡大や安全でない建築慣行が生じ、地域の災害リスクを高めているためです。ハイチの復興と同様に、人口集中地域の位置や特性、重要インフラ、災害リスクを示す地図は、計画策定に役立つ重要な基盤となります。
こうした認識のもと、災害リスク管理 オープン・シティーズ プロジェクトを2012年11月に開始しました。災害リスク削減・復興グローバル・ファシリティ(GFDRR)のイノベーション・ラボ、南アジア気候・災害リスク管理(DRM)ユニット、人道支援OpenStreetMapチーム(HOT)と緊密に連携し、オープン・シティーズは市民ボランティアとOpenStreetMapプラットフォームを活用して、コミュニティによる地図作成の力を南アジア諸都市の都市計画や災害リスク管理への投資に役立ててきました。
オープン・シティーズ・プロジェクトは、南アジアの都市が直面する課題や災害リスクを把握するため、拡張可能な手法を作り上げることを目指し、こうした経験から学んできました。取り組みの開始にあたり、スリランカのバッティカロア、バングラデシュのダッカ、ネパールのカトマンズの3都市を選びました。これらの都市は災害リスクが高く、より良いデータを活用できる都市計画・災害管理関連の世界銀行融資事業が見込まれることから選定されました。
バッティカロアでは地方自治体の職員と緊密に連携し、2か月で3万棟の建物について、脆弱性に関する特性も含めて地図に記録しました。カトマンズでは大学生が学校や医療施設の構造上の脆弱性を評価し、カトマンズ盆地のすべての学校を網羅する無料のオープンな地図を初めて作成しました。ダッカではボランティアと技術コンサルタントの協力を得て、12万5,000人が暮らす住宅を地図に記録しました。
これらの取り組みにより、政府内で災害リスクへの認識が高まり、リスクを軽減すべきだという省庁間の合意が形成されました。オープン・シティーズは、試験導入された3地域のうち2地域で世界銀行の投資計画に情報を提供しており、今後もその役割を果たし続けます。これには、2014年に承認されたスリランカ向け2億1,200万米ドルの投資融資プログラムと、準備中のバングラデシュ都市レジリエンス・プロジェクト(1億2,500万米ドル)が含まれます。
過去の事例から学ぶ
OSMハイチの経験は、オープンデータをめぐってボランティアが協力すれば、正確で信頼できる情報を迅速に作成できることを示しました。一方、インドネシアの「曝露情報のコミュニティ・マッピング」という別のプロジェクトは、災害への備えや緊急時対応計画に役立てるため、災害発生前に地域でデータを作成することを目指しました。地方自治体、大学生、市民社会団体と協力し、ジャカルタ首都圏の学校、病院、コミュニティセンター、礼拝所など、重要インフラを中心に地図を作成しました。作成されたデータをさまざまな情報源のハザード情報と組み合わせ、InaSAFEツールを使って現実的な被害シナリオを作成しました。InaSAFEは、この取り組みのためにオーストラリア国際開発庁(AusAID)、インドネシア政府、世界銀行が開発したオープンソース・プロジェクトで、現在は他の災害リスク管理プロジェクトにも導入されています。
パートナーシップの構築
発足以来、オープン・シティーズは政府、援助機関、民間企業、大学、市民社会団体の関係者を結びつけ、コミュニティによる地図作成の手法を通じて、実用的な情報を作り出してきました。関係者は意思決定に役立つアプリケーションやツールを構築するとともに、取り組みを持続可能にするために必要な信頼関係や社会関係資本のネットワークを育んでいます。このプロセスは段階的に進められ、実験、学習、失敗、適応の機会がプロジェクト計画に組み込まれてきました。
各プロジェクトでオープン・シティーズの第1段階が完了した今、これらのパートナーシップは、取り組みを継続し、地域の新たな都市へ広げていくうえで重要になります。
今後の展望
南アジアのDRMチームは他地域のパートナーと協力し、GFDRRイノベーション・ラボとも緊密に連携を続けます。そして、災害リスクへの認識と合意を高め、行動を促す新たなモデルとして実証されつつある手法を拡大していきます。
関連資料:
出版物の紹介:オープン・シティーズの地図作成プロジェクトを計画する
ブログ:4年後、ハイチ地震への対応におけるOpenStreetMapの活動を振り返る
ブログ:4年後、ハイチ地震への対応におけるOpenStreetMapコミュニティの活動を振り返る
この記事は、当初 世界銀行ブログに掲載されました。
著者:マーク・フォルニは2003年に世界銀行に入行し、ラテンアメリカ・カリブ海地域で4年間、災害リスク管理の実践を築く支援に携わりました。
画像:2011年3月21日、ポルトープランス中心部の露店のそばを歩く人々。ロイター/エドゥアルド・ムニョス


