2014年も終わりに近づくなか、米国の労働市場は異例の状況にある。失業率は2009年10月のピークである10%から6%未満に低下したが、失業者のうち、長期間にわたり仕事に就けていない人の割合が異例に高い。2014年10月、失業者に占める長期失業者(失業期間が26週を超える人)の割合は30%を上回ったままだ。2010年の約50%というピークからは低下したものの、大不況前の2007年に観測された17%を依然として大きく上回っている。西欧諸国では、近年、長期失業率が同様に急上昇した国(英国)もあれば、すでに何十年も高い長期失業率が続いている国(ドイツ、イタリア、フランス)もある。長期失業者が多数存在することは、彼らの労働市場への再統合を支援する労働市場制度を設計するうえで、政策立案者にとって根本的な課題となっている。
長期失業、長期停滞、大不況
最近の論文でKrueger et al.(2014)は、フィリップス曲線とベバリッジ曲線がそれぞれ示す失業とインフレ、ならびに失業と求人の関係が、大不況の終結以降、崩れていると指摘している。これに対し、短期失業と求人(Ghayad and Dickens 2012)、およびインフレ(Gordon 2013, Watson 2014)の関係は安定したままである。したがって、フィリップス曲線とベバリッジ曲線の関係が崩れたのは、長期失業の増加と結びついているように見える。
最近の論文で私たちは、2007年に始まり、いくつかの指標によれば今日まで続いている労働市場の長期的な不振を説明するうえで、長期失業者の経験がいかに重要かを示している(Kroft et al. 2014)。ここで、またKrueger et al.(2014)において重要な要素となるのは、長期失業者の低い就職率と、彼らが労働力から退出する高い割合である。興味深いことに、Krueger et al.(2014)が示すように、長期失業者が仕事を見つけても、その仕事は不安定で、賃金が低く、パートタイムであることが多い。
したがって、長期失業者を対象とする労働市場政策が、彼らを労働市場に再び結びつけるうえで有効なら、労働市場全体のパフォーマンスに大きな好影響をもたらす可能性がある。短期失業者と比べた長期失業者の経験の違いは、短期失業者に有効な労働市場政策が、長期失業者には有効でない可能性も示唆している。では、長期失業者を労働市場に再び結びつけるうえで、積極的労働市場政策がどれほど有効かについて、何が分かっているのだろうか。
積極的労働市場政策と長期失業者
先進国は、失業者を対象とする職業訓練や賃金補助などの積極的労働市場政策に多額の資源を投じている。Kluve(2010)によれば、2002年には米国と英国の支出は比較的少額(GDPの0.13%と0.4%)だった一方、大陸欧州の主要国とスカンディナビア諸国は、労働市場政策にGDPの0.5~2%を支出した。こうした政策全般の有効性、特に長期失業者を対象とした政策について、何が分かっているだろうか。
2つのメタ分析が、多数の研究結果を要約している。Card et al.(2010)は、1997~2007年を対象とする積極的労働市場政策の97件の研究から、199の推定値を分析した。Kluve(2010)は、欧州19か国の137件の評価を検討した。1
この2つの研究は、介入の種類や研究対象集団によって結果にばらつきがあることを強調している。積極的労働市場政策の有効性について、証拠から単純な結論を導くことはできない。Kluve(2010)によると、検討した137件の研究のうち、75件は統計的に有意なプラス効果、29件は統計的に有意なマイナス効果を見いだし、33件は統計的に有意な効果を報告していない。全体として積極的労働市場政策はプラスの効果をもたらす傾向があるが、プログラム間のばらつきは大きい。Card et al.(2010)も、短期的に統計的に有意なプラス効果とマイナス効果が、それぞれ約3分の1の研究で確認されたと報告している。また、求職支援政策は再就職の促進に短期的なプラス効果をもたらす傾向がある一方、職業訓練プログラムは中期的により大きなプラス効果を示すことも明らかにしている。しかし、多くの積極的労働市場政策はプラスの成果を生まないばかりか、対象者に悪影響を及ぼすように見えるものさえある。
Card et al.(2010)とKluve(2010)は、政策の設計によってプログラムの有効性が異なるかどうかも検討している。職業訓練を含むプログラム、主に求職支援に重点を置くプログラム、雇用補助を重視するプログラムを比較している。Kluve(2010)によると、職業訓練プログラム70件のうち38件でプラスの効果が確認された。興味深いことに、民間部門の雇用への補助金はプラスの効果が見られることが多い(23件中17件)のに対し、公的雇用への補助金は有効でない傾向がある(26件の評価のうちプラス効果は7件)。Card et al.(2010)は、職業訓練や求職支援のほうが、民間または公的雇用への補助金より有効な傾向があると報告している。
Card et al.(2010)とKluve(2010)の証拠を私たちなりに読むと、積極的労働市場政策のプログラム間で有効性には大きなばらつきがあり、そのばらつきを生む要因について分かっていることは比較的少ない。特に、そのばらつきが政策の設計に結びついているのか、対象集団に結びついているのかは、ほとんど分かっていない。この証拠の読み方は、英国の雇用維持・向上実証事業(ERA)に関する実験的証拠によっても裏付けられる。
雇用維持実験は、長期失業者のグループを含む3つの異なる集団を対象とした。2 中期的に見ると、介入が有効だったのは長期失業者に対してのみだった。彼らへの介入は主に、求職活動と、仕事が見つかった後の雇用継続に対する金銭的報奨で構成されていた。この介入は、5年間の調査期間にわたり雇用と所得にかなり大きな効果をもたらし、費用対効果も高いことが分かった。
したがって、雇用維持・向上実証事業の証拠は、金銭的インセンティブが長期失業者の労働市場への再統合を助ける可能性を示している。しかし雇用維持実験は、プログラムの有効性が対象集団によって大きく異なることも示している。
政策の置き換え効果
ここまでは、積極的労働市場政策が対象者に直接もたらす効果を検討した研究を要約してきた。マクロ経済の観点から重要なのは、こうした政策が、対象とならない他の求職者を犠牲にして、一部の求職者を助けるのかという点である。こうした置き換え効果は、少なくとも短期的には起こりうる。固定投入が規模の不経済を生み、雇用者数が増えるにつれて労働の限界生産物が全体として低下する場合があるためだ。Crepon et al.(2013)は、二段階のクラスター無作為化実験デザインを用い、求職支援プログラムについてこの問題を検証している。求職支援を受けた人々は、実際に仕事を見つける可能性が高かった。また、地域ごとに実験的に介入対象者の割合を変えることで、より多くの人々が介入を受けた地域で置き換え効果があるかどうかも検証できた。この点に関する報告結果の精度は高くないものの、点推定値は、そのような置き換え効果が存在し、労働市場が弱い地域ではより大きい可能性を示唆している。全体として、こうした置き換え効果は積極的労働市場政策の社会的便益を低下させ、景気後退期に政策を通じて労働市場を刺激することは可能でないかもしれないことを示唆している。
全体として、積極的労働市場政策の有効性が失業者のサブグループ間でどう異なるか、また特に長期失業者を対象とする積極的労働市場政策がどれほど有効かについて、文献から確かな結論は得られない。求職支援や金銭的インセンティブが対象集団を効果的に支援できるという証拠はあるが、特に労働市場が弱い時期には、置き換え効果によって、社会全体から見たこれらのプログラムの便益が大きく損なわれる可能性がある。現時点の(弱い)証拠に基づく推測の一つとして、景気後退の最も深刻な局面では長期失業者への失業給付と長期訓練の提供に重点を置き、景気回復に伴って労働市場が引き締まるにつれ、長期失業者の再就職を目指して、求職支援や採用補助などの積極的労働市場政策をより積極的に活用する方法が考えられる。
答えよりも多い問い
したがって、現在の文献の状況は、積極的労働市場政策、特に長期失業者を対象とする政策の設計という観点からは満足できるものではない。どの集団がこうした政策から最も大きな恩恵を受けるのか、確信をもって分かっているわけではない。同様に、職業訓練、雇用補助、求職支援のどれを重視すべきかについても、十分な知見がない。景気循環への対応を考えるうえで重要なのは、景気循環を通じて積極的労働市場政策がどう機能するか、あるいは置き換え効果が重要なのかについて、情報があまりに少ないことである。したがって政策立案者には、景気後退期とその後に長期失業者を労働市場に再統合するため、より有効な積極的労働市場政策の設計に役立つ、信頼性の高い証拠がさらに必要である。
しかし、各国がこれらの政策に多額の資源を投じていることは、こうした問いに答えることが大きな社会的便益をもたらすことを示唆している。私たちは政策立案者に、新規または既存のあらゆる政策に、できれば無作為化デザインに基づく評価要素を加えるよう求める。また、こうした無作為化実験を評価する人々には、社会制度に関する状況情報と、特定の集団が直面する課題を取り入れた行動モデルおよび構造モデルに評価を組み込むよう勧める。実験的証拠と、状況情報を用いるこうした行動モデルを組み合わせることで、さまざまな状況で得られた結果を総合し、長期失業者のような労働市場の周辺にいる集団の労働市場での成果を向上させる、今後の積極的労働市場政策を設計する助けとなる。
参考文献
Card, D(2013)、「積極的労働市場プログラム:これまでに分かったこと」
Card D, J Kluve, and A Weber(2010), “Active Labor Market Policy Evaluations: A Meta-Analysis”,The Economic Journal, Vol.120 November, pp. 452-477.
Crepon B, E Duflo, M Gurgand, R Rathelot and P Zamora(2013), “Do Labor Market Policies Have Displacement Effects? Evidence from a Clustered Randomized Experiment”, The Quarterly Journal of Economics, Vol. 128, No. 2, pp.531-580.
Ghayad R and W Dickens(2012), “What can we learn by disaggregating the unemployment-vacancy relationship?” Federal Reserve working paper, Public Policy Briefs.
Gordon R J(2013), “The Phillips curve is alive and well: Inflation and the NAIRU during the slow recovery”, NBER working paper, No. 19390.
Hendry, R, J A Riccio, R Dorsett, D Greenberg, G Knight, J Phillips, P K Robins, S Vegeris, and J Walter(2011), “Breaking the low-pay, no-pay cycle: Final evidence from the UK Employment Retention and Advancement (ERA) demonstration”, Department for Work and Pensions, UK, Experiment on job search assistance and incentive for work programs. Low effectiveness on single parents. Effective on LTU, No. 765.
Kluve J(2010), “The effectiveness of European active labor market programs”, Labor Economics, Vol.17, Issue 6, p 904-917.
Kroft K, F Lange, M Notowidigdo and L Katz(2014), “Long-Term Unemployment and the Great Recession: The Role of Composition, Duration Dependence, and Non-Participation”, The Journal of Labor Economics, forthcoming.
Krueger A, J Cramer, and D Cho(2014), “Are the long-term unemployed on the margins of the labor market?”, Brookings Papers on Economic Activity, Spring.
Watson M W(2014), “Inflation Persistence, the NAIRU, and the Great Recession”, The American Economic Review, Vol.104, No.5, pp. 31-36.
脚注
[1] Card(2013)でDavid Cardは、積極的労働市場政策の有効性について分かっていることと、この分野の研究で最も急を要する課題について、自身の見解を示している。
[2] 残る2つのグループはいずれもひとり親のグループで、一方は失業中、もう一方はパートタイムで働いていた。これら2つのグループへの介入には、重要な要素として就職指導と職業訓練が含まれていた。ERAは、これらのグループ内で介入効果に異質性があることを示す証拠をいくつか見いだした。特にERAは、教育水準がより高い失業中の親に所得面でプラスの効果があったと確認した。
次との共同出版: VoxEU
著者:Lawrence F. Katzはハーバード大学のElisabeth Allison経済学教授であり、全米経済研究所の研究員である。Kory Kroftはトロント大学経済学部および公共政策・ガバナンス学部の助教である。Fabian Langeはイェール大学の経済学助教である。Matthew Notowidigdoはノースウェスタン大学の経済学准教授であり、政策研究所のフェローである。
画像:2009年4月1日、トロントの就職フェアで掲示された求人掲示板を見る男性。REUTERS/Mark Blinch(カナダ・ビジネス)。


