過去5年間の出来事は、世界経済に潜むリスクと国家間の相互連関を、国際社会に強く再認識させた。各国間の波及効果に対処するため、財政・金融・金融システム政策をどのように組み合わせるのが最適か、またそうした政策をどこまで協調させられるかについて、活発な議論が起こっている。こうした中、IMF第15回ジャック・ポラック年次研究会議のテーマは「国境を越える波及効果」とされた。¹ 本稿では、会議の主な論点を紹介する。
エレーヌ・レイによるマンデル=フレミング講演
エレーヌ・レイは、マンデル=フレミング講演(Rey 2014)で議論の土台を示した。講演の主な論点は二つだった。
世界経済は「グローバル金融サイクル」に特徴づけられる。
つまり、先進国と新興国の間で、資本フロー、リスク資産価格、信用の伸びが大きく連動して変動する。
各国は、為替レートの柔軟性によってこのサイクルから自国を遮断することはできない。
米国の金融政策の変更を契機に生じる資本フローと評価額の変化の影響を検討し、レイは、住宅ローン金利スプレッドへの影響が、政策金利を調整した国としなかった国でほぼ同じであることを示した。このことは、伝統的なマンデル=フレミング・モデルとは異なり、ドルが国際的に広く利用されることに結びつく資本フローと評価額の変化が、為替レートへの影響とは別に、資金受入国の国内金融システムに重大かつ複雑な影響を及ぼすことを示唆している。このためレイは、グローバル金融サイクルから十分に自国を守れるのは、マクロプルーデンス政策と資本規制だけだと結論づけた。
個別の波及効果
非伝統的金融政策を扱った2本の論文は、グローバル金融サイクルを動かす波及効果の一部を、より詳しく検討した。Gilchristほか(2014)[RB1]は、米国の伝統的金融政策と非伝統的金融政策が海外の国債利回りに及ぼす影響を比較した。
米国の伝統的金融政策に関する予想外の動きは海外の利回り曲線をスティープ化させる一方、非伝統的政策は海外の利回り曲線をフラット化させることを示した。
Fratzscherほか(2014)は、欧州における非伝統的金融政策の活用を検討した。
ECBの政策は幅広い国々の株価にプラスの波及効果をもたらしたが、利回りへの影響はユーロ圏に限られ、とりわけイタリアとスペインで顕著だった。
ECBの政策は市場の信頼感を高めた(すなわち、インプライド・ボラティリティならびに国債・銀行のスプレッドを低下させた)が、国際的なポートフォリオ資金フローへの影響は小さかった。
財政面では、AuerbachとGorodnichenko(2014)が、政府支出の増加による為替レートへの影響をめぐる理論と実証結果の矛盾を研究した。モデルは一般に、支出増加によって為替レートが上昇すると予測する一方、実証的な証拠は逆の結果を示唆している。
彼らの仮説は、理論が正しく、実証研究の知見が誤っている(ショックのタイミングを適切に特定できていないため)というものだ。
具体的には、既存研究で用いられた支出ショックは投資家に予測されていた可能性が高く、発表の時点で既に通貨高がデータに表れていたと考えられる。この問題を回避するため、彼らは予測されていた可能性がはるかに低い支出ショック、すなわち米国の国防支出コミットメントの日次データに焦点を当てた。この新しい方法を用いると、理論の予測どおり、支出ショックは実際にドル高をもたらす傾向があった。
世界的なサプライチェーンの発展などを背景に、貿易のつながりは時とともに変化してきた。Boehmほか(2014)は、2011年の日本の津波と地震による波及効果を検討した。日本での混乱が、米国にある日系企業の輸入と生産に強い影響を及ぼすことを実際に見いだした。主な結論は、少なくとも短期的にはサプライチェーンは非常に硬直的であり、混乱がサプライチェーン全体に影響し得るということだ。
波及効果の抑制
Korinek(2014)は、波及効果が懸念の原因となる、あるいはならない条件と、市場均衡が効率的となる条件を明らかにする分析枠組みを提示した。彼の結論は単純な形で整理できるものではない。しかし例えば、資本フローへの対応として、各国が外国為替介入を用いて貿易財部門に保険を提供する世界では、効率的な資源配分が実現し得ることを示した。
ChamonとGarcia(2014)は、ブラジルにおける資本規制の有効性を検討した。規制によってブラジルの国内金融市場を世界市場から切り離し、類似資産の国内価格と海外価格の間に価格差を生じさせられることを示した。当初の措置は為替レートの上昇抑制に限られた効果しかなかったが、2011年半ばに導入されたデリバティブの想定元本に対する課税は、大幅な通貨下落を引き起こした。これは、以前の措置との補完性に加え、金融緩和サイクルの始まりにも支えられた可能性が高い。
BenguiとBianchi(2014)は、資本規制の実施に伴う課題を分析し、規制されていない主体の存在による漏れがあっても、金融危機を防ぐことによる安定化の便益は依然として大きいと指摘した。
最後のパネルでは、金融統合の進展に伴う政策課題(政策の自主性をどこまで確保できるかを含む)と、政策協調が可能な分野について議論した。
Obstfeld(2014)は、金融の開放がプルーデンス政策の手段に必然的に課題を突きつけると強調した。効果的な金融政策があり、為替レートに柔軟性があっても、資本勘定が開放された状況では金融安定上の課題への対応は難しいと述べた。
国境を越える融資は国内信用を管理する能力を制限し、どのような為替レート制度の下でも「金融のトリレンマ」が生じる。すなわち、世界市場が金融面で統合されているとき、金融規制に対する国家の統制と金融安定は両立しない。ここから重要な結論が導かれる。
国際的な政策協調が必要かどうかは、金融安定上の課題に対処するマクロプルーデンス政策の有効性に大きく左右される。
将来の協調にとって重要な分野として、金融規制、資本規制に関する明確な共通ルール、そして外貨準備の総額を積み増すことの不利益を相殺するための、主要通貨建て国際流動性支援制度の強化を挙げた。
Boivin(2014)は、政治レベルでの協調は複雑であり、戦略について合意するための重要な前提条件は、国レベルで、国際的な波及効果が経済状況に及ぼす重要性を認識することだと強調した。Torres(2014)は、非伝統的政策によって世界経済は未知の領域に入り、不確実性と意見の相違が協力を難しくしたと指摘した。波及効果について明確化し、合意形成を促すうえで、IMFは重要な役割を担うと論じた。最後にVines(2014)は、完全な協調の実現は難しすぎる可能性があるとして、「協調的な一方的改革」を提唱した。これは、一部の国での改革が生み出す機会が、他国が自国の改革を進める程度に影響するという戦略であり、G20が採用した。
非同期の金融政策サイクル:危機から各国が順次脱却
会議の知見が直接応用できる例の一つは、現在進行中の、非伝統的金融政策からの非同期的な脱却である。各論文を総合すると、米国とユーロ圏の金融政策が異なるタイミングで脱却することは、重大な政策課題を招き、真剣な政策対話を必要とする可能性がある。特に、次の条件が成り立つ。
米国の金融政策の影響は、資産価格、リスクプレミアム、住宅ローン金利スプレッドなどにおける世界的なサイクルを動かす。また、米国の金融政策が世界の流動性に及ぼす影響は、将来の短期金利の変化による影響よりも強い(Rey 2014が強調したとおり)。そして
非伝統的なECB金融政策が資本フローと世界の流動性に及ぼす影響は、米国の非伝統的政策よりも穏やかである(Fratzscherほか(2014)の論文が示唆するとおり)。
この政策対話は、先進国の中央銀行関係者の間で特に重要となる。
参考文献
[国際通貨基金がワシントンD.C.で2014年11月13~14日に主催した第15回ジャック・ポラック年次研究会議で発表。http://www.imf.org/external/np/res/seminars/2014/arc/index.htm]
Auerbach, A J and Y Gorodnichenko (2014)、「グローバル化した世界における財政ショックの影響」。
Bengui, J and J Bianchi (2014)、「資本規制に漏れがある場合の資本フロー管理」。
Boehm, C, A Flaaen, and N Pandalai (2014)、「投入連関とショックの伝播:2011年東北地震に関する企業レベルの証拠」。
Boivin, J (2014)、「国境を越える波及効果と国際的な政策協調」に関するパネル討論への寄稿。
Chamon, M and M Garcia (2014)、「ブラジルの資本規制:有効か?」。
Fratzscher, M, M Lo Duca, and R Straub (2014)、「ECBの非伝統的金融政策措置:市場への影響、国際的な波及効果と波及経路」。
Gilchrist, S, V Yue, and E Zakrajšek (2014)、「米国の金融政策と海外の債券利回り」。
Korinek, A (2014)、「国際的な波及効果と政策協力の指針」。
Obstfeld, M (2014)、「為替レートと金融のグローバル化」。
Rey, H (2014)、「国際的な信用経路と金融政策の自主性」。
Torres, H (2014)、「国境を越える波及効果と国際的な政策協調」に関するパネル討論への寄稿。
Vines, D (2014)、「協調的な一方主義について:より高い世界成長率はどう実現できるか?」。
脚注
[1] すべての論文はダウンロードでき、各セッションの動画も以下で視聴できる。http://www.imf.org/external/np/res/seminars/2014/arc/。
共同掲載: VoxEU
著者:Olivier BlanchardはIMFのチーフエコノミスト。Luc Laevenは国際通貨基金調査局の主任エコノミスト。Esteban VesperoniはIMFのシニアエコノミスト。
画像:2012年5月11日、東京の証券会社の外にある株価表示板を見る男性。REUTERS/Toru Hanai


