金融危機の際、投げ売りや資産の強制売却は、市場参加者のバランスシートを損なうため、金融の脆弱性を悪化させる要因として指摘されます。では、市場参加者はなぜ投げ売りを抑えるための行動を取らないのでしょうか。また、資産の強制売却を回避または減らすことのできる金融構造はあるのでしょうか。
投げ売りの定義
強制売却において資産が本源的価値を下回る価格で売却される場合、投げ売りが生じます(Shleifer and Vishny 1992)。強制的な資産売却に伴う価格の乖離は外部性を生み、それが資産価値に跳ね返って、特に担保付き融資が行われる流動性の低い市場で、価格下落と債務不履行の悪循環を引き起こします。こうした市場で資産の清算が資産価格の下落スパイラルを招き、他の市場参加者のバランスシートを損なうのであれば、貸し手が担保の清算を避ける行動を取らないのはなぜかという重要な問いが生じます。Shleifer and Vishny(2011)も指摘するように、意外にもこの問いに関する理論・実証研究は乏しいのです。
投げ売りが起こりにくいのはどのような場合か
最近の論文(Favara and Giannetti 2015)で私たちは、強制的な資産売却が生む負の波及効果を内部化する動機を持ち、そのため清算に踏み切りにくい貸し手がいるかどうかを探る課題に取り組みました。担保付き債務残高の大きな割合を保有する貸し手は、清算の判断が担保価値に及ぼすフィードバック効果を内部化するため、価格下落と債務不履行の悪循環を避けるべく、債務条件の再交渉により前向きになる可能性があると論じます。2007~2010年の米国住宅危機における差し押さえと住宅価格のデータを用い、こうした動機が実際に働いており、経済的にも重要な規模であることを示す証拠を見いだしました。
2007~2010年の米国住宅価格の崩壊に続いて、住宅ローンの債務不履行が劇的に増加し、それがしばしば差し押さえにつながりました。実証的証拠によると、差し押さえは近隣住宅の価格下落と関連しています(Campbell et al. 2011)。差し押さえ物件の管理不全が近隣住宅の質に影響するため(Harding et al. 2009)、あるいは流動性の低い市場で差し押さえにより住宅供給が増えるためです(Anenberg and Kung 2013)。このように、住宅価格の下落が住宅の純資産価値が負となった借り手のさらなる債務不履行を引き起こすため(Elul et al. 2010)、差し押さえは負の外部性を生みます。
差し押さえと住宅価格のフィードバック・ループは、貸し手が未返済住宅ローンに占める割合の大きい地域で緩和されると私たちは論じます。地域内の住宅ローン損失に貸し手が直接どの程度さらされているかは、債務不履行となった住宅ローンを差し押さえるか、条件を再交渉するかという貸し手の動機に影響します。そしてこれは、その地域における住宅価格と銀行損失の動向に影響を及ぼします。
信用供与が分散している場合、差し押さえの判断は個別に行われ、小規模な貸し手は自らの判断が地域の住宅価格に及ぼす金銭的外部性を内部化しません。こうした市場では、流動性に起因する債務不履行が住宅価格の下落を招き、さらに戦略的な債務不履行につながる場合があります。純資産価値が負でも返済能力のある借り手にとって、債務不履行を選ぶことが最適となるためです。
これに対し、地域内の未返済住宅ローンの大きな割合を保有する貸し手は、清算判断の悪影響を内部化し、債務不履行となったローンの条件を再交渉する動機がより強くなります。再交渉が増えれば、住宅需要に対する負のショックの悪影響が軽減され、住宅価格の下落率が低下するとともに、他の借り手が戦略的に債務不履行を選ぶ動機も弱まります。その結果、未返済住宅ローンの集中度が高い地域では、債務不履行となった住宅ローンを差し押さえる小規模銀行でさえ、損失が小さくなります。
私たちは、こうした推測を裏付ける実証的証拠を見いだしました。貸し手が地域で再交渉を行う動機を測るため、郵便番号地域ごとの未返済住宅ローン集中度指数を作成しました。この指数が分布の下位十分位から上位十分位へ上昇すると、他の条件が同じなら、米国の平均的な郵便番号地域における差し押さえ率は40%超低下します。さらに、集中度指数が分布の下位十分位から上位十分位へ移ると、米国の平均的な郵便番号地域における住宅価格の下落率は22%低くなります。これらの結果は、郵便番号地域の幅広い特性、借り手の信用力の代理指標、地域の住宅・所得・人口統計特性に関する標準的な統制変数を考慮したうえで得られました。郵便番号地域単位とローン単位の双方で追加検証を複数行い、これらの知見を因果関係として解釈することを強く裏付けています。
政策への示唆
私たちの知見は、政策に重要な示唆をもたらします。
第一に、差し押さえの判断にあたり、貸し手は自らのバランスシート上の未返済住宅ローンの影響を受けます。
所得ショックによって借り手の返済能力が制約される場合、同様のエクスポージャーを持つ経営難の貸し手の統合を促す措置は、未返済債務の集中度を高める可能性があります。こうした措置は、すべての貸し手の損失総額を減らすと期待されます。債務不履行となったローンの再交渉を促す動機が強まる傾向があること、また、清算の負の波及効果を内部化しない貸し手がより高い価格で清算できるようになるためです。危機時に不良債権を買い取るバッドバンクを設立することでも、同様の効果が得られる可能性があります。
第二に、貸し手が分散した市場では投げ売りの外部性が生じやすいことを示すことで、信用市場の競争が金融安定性を損なう可能性がある理由も明らかにしています。
免責事項:本稿は著者の見解を示すものであり、連邦準備制度またはその理事会の見解を示すものではありません。
参考文献
Anenberg, E and E Kung(2013)「近隣の差し押さえによる価格下落の規模と要因の推計」、Finance and Economics Discussion Series 2012-84. Board of Governors of the Federal Reserve System.
Campbell, J.Y, S Giglio, and P Pathak(2011)「強制売却と住宅価格」、 The American Economic Review 101, 2108-2131.
Elul, R, N Souleles, S Chomsisengphet, D Glennon, and R Hunt(2010)「住宅ローンの債務不履行を引き起こすもの」、 The American Economic Review 100, 490-494.
Favara, G and M Giannetti(2015)「強制資産売却と未返済債務の集中度:住宅ローン市場からの証拠」、CEPR Discussion Paper 10476.
Harding, J P, E Rosenblatt, and V W Yao(2008)「差し押さえ物件の伝染効果」、Journal of Urban Economics 66, 164-178.
Shleifer, A and R Vishny(1992)「清算価値と債務能力:市場均衡アプローチ」、 Journal of Finance 47,1343–1366.
Shleifer, A and R Vishny(2011)「金融とマクロ経済学における投げ売り」、 Journal of Economic Perspectives 25(1), 29-48.
この記事は、 Vox EUとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:Giovanni Favaraは、連邦準備制度理事会の研究・統計部門の上級エコノミストです。Mariassunta Giannettiは、ストックホルム商科大学の金融学教授であり、CEPRリサーチ・フェローです。
画像:シンガポールの中心業務地区で、男性が建物の前を歩いている。REUTERS/Nicky Loh



