2015年3月、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加申請を発表した際、EU内で調整が欠如していたことは、中国に対応するための統一した声を見いだすうえでEUが長年抱えてきた難しさを改めて浮き彫りにした。統一戦線は一般に考えられているほど重要ではないが、短期的な国益のために欧州の戦略的利益が犠牲になるのを避けるには、協議と意思疎通を強化することを優先すべきだ。
理想としては、統一された対中政策には意義があり、アナリストが指摘してきたように、それによってEUの影響力は増すだろう。しかし、現在のEU内部の力学を考えれば、それはまったく現実的ではなく、欧州の政策立案者はまずこのことを認めるべきだ。そうしなければ、欧州は中国に関して、実現可能な場合の結束と、加盟国間の二国間競争を既定路線とする姿勢という二つのモードでしか行動できない。この後者のシナリオは、ますます一般的になる可能性がある。欧州の利益、そして加盟国の長期的な利益は、この二つの間に位置する代替的な仕組みを考案することで、よりよく守られるかもしれない。
中国が米国やアジアの近隣諸国との関係を明らかに優先しているとはいえ、最近のハイレベル交流の頻度を見ると、欧州は北京にとって、2008年の危機直後に欧州の権威が低下したことで示唆された以上に、再び重要な存在となっている可能性がある。この関心は、昨年、習近平がEU機関を訪問したことで象徴された。中国の国家主席による訪問は初めてだった。
こうした状況を踏まえ、北京はEUに統一した声がないことを問題視しており、連絡窓口を一本化することを望んでいるという見方がある一方、中国は加盟国とEU機関の間で「分割統治」を狙う冷笑的な駆け引きをしているという見方もある。どちらも的を射ていない。英国をはじめとする欧州諸国が3月にAIIBの創設メンバーとなるための申請を発表したことは、EU内の調整不足を反映したものであり、中国がEUを分断しようとした結果ではない。また、中国が少なくとも一部の問題で欧州の結束を促そうとしている兆候はあるものの、北京はEUの意思決定プロセスの複雑さに、誰にも劣らず対処できるように見える。
主要課題に柔軟に対応する
今後、EUと加盟国は、中国外交政策の継続的な変化や、権力の分布の移り変わりに対応するため、柔軟性と適応力を必要とするだろう。共通の政策的立場を策定できない場合であっても、AIIBをめぐる対応時より意思疎通と調整を強化すれば、少なくとも加盟国間の既定路線としての競争を超える立場を形づくる助けとなる。このアプローチは、現在の三つの課題に適用すべきだ。
第一に、習近平の看板となる外交政策構想がある。シルクロードに着想を得た「一帯一路」、すなわちアジア、欧州、アフリカを結ぶ陸上・海上の物流・通信網だ。ユーラシア大陸の西端にある欧州が、この構想に明らかに含まれている。構想の地理的範囲から見て、とりわけ中欧(陸路、すなわち「帯」)と地中海(海路――紛らわしいことに、こちらが「路」)に関係が深い。中国の現在の外交政策においてこの構想が重要であることを踏まえ、加盟国の対応を、欧州レベルでの積極的な議論と協議によって補完すべきだ。
第二は、変化する貿易・投資アジェンダだ。欧州にとっての課題は、国内改革と経済の高度化に商業を役立てたいという中国の意向にどう対処するか、そして欧州への中国投資が今後も増加すると見込まれることにどう対応するかである。こうした増加は、国有の巨大企業よりも、民間企業や中規模企業によってもたらされる可能性が高まっている。EUが当面優先すべきなのは、投資促進が各国レベルで行われるという事実を踏まえつつ、EU・中国二国間投資協定の交渉で可能な限り最良の合意を目指すことだ。
第三に、AIIBに対する欧州の対応は、EU加盟国の利益がおおむね一致していながら、ワシントンの方針とは異なった事例だった。中国の台頭が欧州にとって脅威よりも機会を生み出すにつれて、米国との戦略的緊張がより頻繁に表面化する可能性があり、その影響についてEU内で、また米国との対話の中でも、より踏み込んだ議論が必要だ。
これらの課題にはそれぞれ異なる力学があるが、いずれについてもEUが包括的な共通の立場を見いだすのは難しいだろう。しかし、6月末のEU・中国首脳会談を前に、また5月初めに新たなEU外交政策上級代表フェデリカ・モゲリーニが初めて北京を訪問したことを受け、EU当局者が中国に対する、より機敏で焦点の定まった政策をどう策定するかを検討することは、これまで以上に重要だ。
この記事は チャタムハウスとの協力のもとで掲載されています。記事の掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
アジェンダの最新情報を受け取るには、 週刊ニュースレターにご登録ください。
著者: ティム・サマーズ は、アジア・プログラムのシニア・コンサルティング・フェロー(香港在住)です。
画像:上海の浦東金融地区で、2014年1月24日、最近春節の飾りとして設置された赤い提灯の下を歩く人々。REUTERS/Aly Song。



