欧州は量的緩和をどのように実施すべきか?

欧州は量的緩和をどのように実施すべきか?
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欧州がデフレに近づくなか、欧州中央銀行(ECB)は、国債の購入を通じてマネタリーベースを拡大する本格的な量的緩和(QE)へと徐々に歩みを進めている(Draghi 2014)。しかし、こうした購入の実施には問題がある。購入対象となるユーロ圏の「国債」は存在しない。ECBが全加盟国の債務を購入すれば、バランスシートに大量の債務を抱えることになり、非常に大規模な再分配を引き起こさずに、ある国が債務不履行に陥ることは不可能になる。したがって、QEは実質的に、ECBが民間部門にソブリンリスクに対する保険を提供することを意味する。債務再編の脅威がなくなるため、市場規律も失われることになる。

提案

これに対する代替案としては、QEの対象を最上位格付けの国に限る方法(QEの効果を大幅に制限する)や、過去のECBプログラムのような条件付きQEを用いる方法(QEの目的には適さない)が考えられる。

ここでは別の代替案を提案する。各国国債を一定の比率で組み合わせた合成債のシニア・トランシェを利用する方法である(Brunnermeier et al. 2011a, 2011bの提案に沿う)。1 これにより、市場規律を維持するという目的を達成すると同時に、ユーロ圏の重要な未解決問題、すなわち各国銀行が自国国債を過剰に保有している問題を解決できる。

私たちの提案には、相互に補完し合う二つの側面がある。一つは金融政策に関するもので、もう一つは規制・監督政策に関するものである。

金融政策の側面

  • ECBは、QEオペレーションにおいて、ユーロ圏諸国の債務を各国のGDPに応じた一定比率で組み合わせた合成債のうち、シニア60%トランシェで構成される債券のみを使用すると発表する。

  • ECBはトランシェ化には関与せず、この金融商品を使用すると発表するだけとする。

市場は直ちに、この資産の創出に取りかかるだろう。

Brunnermeier et al.(2011)の提案とは異なり、欧州債務庁やその他の仲介機関が関与する必要はない。その代わりに、(小規模な)ECBの部署が、基準を満たすシニア合成債を「適格ユーロ安全債」と認定する。これは、米国のFannie MaeやFreddie Macが、一定の融資額対担保価値比率や格付けなどを満たす住宅ローンを適格と認定する役割に似ている。

銀行規制の側面

ECBと単一監督メカニズム(SSM)は、こうして作られる証券のシニア・トランシェのみを、リスク加重計算および流動性カバレッジ比率の算定においてリスクフリーとして扱うと発表する。これは、これらの目的に関するソブリン債の現行の扱いを変更することを意味する。あるいは、ECB/SSMが自国ソブリン債のリスク集中上限を設け、これらのシニア債をその制限の対象外とする。

提案のこの第二の柱は、第一の柱を成功させるために必須ではない。しかし、次に論じるように、QEの勢いを活用して、いくつかの根深い構造問題を解決できる。

提案の利点

この提案により、次のことが可能になる。

  • 安全資産が(規制上)欧州全域で共通のものとなるため、安全資産への逃避に伴う地理的偏りを大幅に減らす。

  • 現行の制度が生み出すモラルハザードを解消する(この世界では、銀行が影響から守られるため、政府は債務不履行に陥ることができる)。その結果、市場はECBの(救済)意図を先読みするのではなく、政府を監視するようになる。

  • 経営難に陥ったソブリンが自国の銀行(分散ポートフォリオのシニア・トランシェを保有する)を危険にさらさなくなるため、銀行と政府の間の悪循環を断ち切る。

  • ユーロ圏の金融市場における地理的な分断を縮小する。

さらに、いずれの解決策も大規模な安全資産を生み出すという利点がある。CaballeroとFahri(2014)は、Barclay’sの試算を引用し、イタリアとスペインへのショックに加え、AAA格付けの資産担保証券および政府機関債の減少によって、安全資産の供給が世界GDPの36.9%から18.1%へと大幅に縮小したと論じている。ユーロ圏全域を対象とする大規模な証券の創出は、この傾向を反転させ、経済を「貯蓄過剰」とその歪曲的な影響から遠ざける一助となる。

ここで強調しておくべきなのは、この合成債務が、各国政府間のリスク共有や債務の相互化を伴わないという点である。各政府は引き続き自国の債務を発行し、市場で自国の金利に直面する。また、ジュニア・トランシェには債務不履行リスクが反映される。

移行措置

この規制体制への移行にはコストが伴う。例えば、周縁国の銀行では、利回りの高い債券の一部をリスクフリーの合成債に置き換えるため、利益が減少する可能性がある。こうした特別利益が過度な集中の結果である限り、その減少は歓迎すべきだろう。さらに、ECBの包括的評価を経て、銀行の資本は現在十分であり、この所得減少が自己資本比率を大きく損なうことはないはずだ(ただし、過度な集中から生じるものなので、収益性には影響しうるし、影響すべきである)。具体的には、欧州の最上位層(資産1兆ドル超)の銀行2において、完全適用後のCET1資本に対するソブリン債エクスポージャーの最大値は、UniCreditの105%である。この銀行でさえ、静的シナリオに基づく私たちの提案による純利益の減少は約1億ユーロと推計され、CET1資本399億ユーロと比べれば、容易に吸収できる。

さらに、ソブリン債に正のリスクウェイトを適用すれば、脆弱な国々の資金調達コストが上昇し、公的債務水準が高い国々で債務返済能力への懸念が再燃する可能性がある。このリスクに対しては、高債務国にも大きな便益をもたらすQEの存在が、緩和要因となる。総合的に見れば、各国はいずれもこの提案から個別に利益を得る。

結び

この提案により、QEはECBが達成を目指すも実現できずにいるインフレ目標の達成を助けるだけでなく、ユーロ圏の金融安定に貢献し、ユーロの構造的な「生来の欠陥」のいくつかを解決する。その方法は、(1)一般債に相当する公開市場操作の手段を導入すること、(2)銀行の自国ソブリンへのエクスポージャーを減らし、銀行リスクとソブリンリスクの連関を断つ助けとすることである。したがって、私たちの「市場安全債」提案はQEを容易にし、同時にQEによって実現しやすくなる。

参考文献

Brunnermeier, M, L Garicano, P Lane, M Pagano, R Reis, T Santos, D Thesmar, S Van Nieuwerburgh, and D Vayanos, (2011a)「European safe bonds (ESBies)」. http://euronomics.princeton.edu/esb/

Brunnermeier, M K, L Garicano, P R Lane, M Pagano, R Reis, T Santos, D Thesmar, S Van Nieuwerburgh, and D Vayanos(2011b)「ESBies: A realistic reform of Europe’s financial architecture」, VoxEU.org, 10月25日. http://www.voxeu.org/article/esbies-realistic-reform-europes-financial-architecture

Caballero, R J and E Fahri(2014)「On the role of asset shortages in secular stagnation」, C Teulings and R Baldwin(編), Secular Stagnation: Facts, causes and cures, VoxEU.org 電子書籍.

Draghi, M(2014)「Unemployment in the Euro Area」, 8月22日、ジャクソンホールで開催された年次中央銀行シンポジウムでの講演. http://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2014/html/sp140822.en.html.

脚注

1 私たちは、この提案について議論するにあたり、Jeromin Zettelmeyerに感謝する。また、優れた調査支援をしてくれたAlberto Carusoにも感謝する。

2 対象銀行は、BNP Paribas、Credit Agricole、Deutsche Bank、Societe Generale、Santander、BPCE、Unicredit、INGである。

共同掲載: VoxEU

著者:Luis Garicanoは、London School of Economicsの経営学部および経済学部に所属する経済学・戦略論教授。Lucrezia Reichlinは、London Business Schoolの経済学教授であり、Now-casting economicsの共同創設者兼ディレクター。

画像:2012年11月6日、フランクフルトの欧州中央銀行(ECB)本部の隣にユーロの通貨記号が見える。REUTERS/Lisi Niesner

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