資本が国境を越えてますます容易に移動できる世界では、政府は資本所得から歳入を得ることが次第に難しくなり、その結果、負担をより移動しにくい課税基盤へと移さざるを得なくなる可能性がある。こうした資本課税競争の激化は、21世紀における不平等の推移について、Piketty(2014)がよく知られた悲観的予測を示した理由の一つである。
政府の課税と集積に関する理論
しかし、資本課税をめぐる「底辺への競争」という見方に対する有力な留保は、Baldwin and Krugman(2004)らによって提起されている。彼らは、集積またはクラスター化の力によって、企業は考えられているほど簡単には移転しない可能性があると指摘した。実際、彼らの議論によれば、産業クラスターを抱える地域の政府は、低税率の競争相手に直面してもクラスターを維持できる限度まで、事実上移動できない課税基盤から財政的レントを引き出すことができる。
政府が実際に集積レントに課税しているかどうかをめぐる既存の証拠は、集積がある場所や経済活動の密度が高い場所では、観察される税率も実際に高いことを示唆している。たとえばBuettner(2001)は、人口の多いドイツの自治体ほど高い地方事業税率を設定していることを見いだした。またCharlot and Paty(2006)は、市場へのアクセスがより良いフランスの自治体ほど高い事業税率を設定していることを明らかにした。より最近の分析では、地方税と企業の集積との因果関係が双方向に働き得るという実証上の問題を克服しようとしている(例:Luthi and Schmidheiny 2014)。これらの研究も、集積が高い税率と関連していることを示している。
しかし、企業クラスターは、政府が集積の便益の一部を課税によって取り上げるのではなく、企業側が交渉上の立場を利用して政府から優遇措置を得られるなら、地方税にまったく逆の影響を及ぼす可能性がある。政治経済学の文献は、こうした「政策捕捉」が国レベルよりも地方レベルで強いことを指摘している。また、既存の衰退企業や産業が新規参入者よりも多くのロビー活動を行う可能性がある理由を示し、地理的に集中した産業は政策への影響力行使に特に積極的であることを示唆している。
新たな証拠
Brülhart and Simpson(2015)では、これら相反する理論を比較し、産業集積の存在に政府の政策がどのように反応するかを検証する。英国の主要な立地ベース補助金制度の寛大さを分析する。この制度は、経済的に立ち遅れた、主として遠隔地の地域、すなわち通常は既存クラスターから離れた場所に企業を立地させ、雇用を生み出すことを目的としていた。補助金は負の税と考えることができる。集積度の高い産業の事業所に対し、政府が雇用1件当たりにより多額または少額の補助金を支給するのか、またそのような産業の補助率が既存の産業雇用からの地理的距離に応じてどう変化するのかを問う。さらに、政策決定を行う行政階層、地域・産業の特化度、申請企業の特性に応じて補助金の提示額がどう異なるかも検討する。これらはいずれも、政治経済学モデルの政策捕捉に関する予測を評価する補完的な方法である。
集積度の高い産業の企業は雇用1件当たりの補助金をより多く申請し、実際により多く受け取るという一定の証拠が見つかった。しかし、クラスターには課税できる(または補助金を減らせる)という理論が予測するように、産業雇用の大半から離れた場所ほどこの傾向が強まるという証拠はなかった。ただし、行政階層ごとに区別すると、分権化された地方自治体は、産業雇用の集中度が高い地域において、集積度の高い産業の既存雇用を優遇し、維持しようとする形で補助金の提示額を設定しているようだ。
つまり、企業が申請した金額を条件として、産業雇用の密度が高い地域では、集積度の高い産業に対して政府がより多額の補助金を提示する。
さらに、この現象は、該当産業の雇用が相対的に減少している地域で最も顕著である。
総合すると、これらの結果は、政府が集積の便益に課税するというより、地域の主要な既存産業による「政策捕捉」をめぐる理論と整合的である。
原理的には、産業クラスターを抱える地域で下位行政機関がより多額の補助金を提示するという知見には、別の説明もあり得る。地方自治体は、地域に大きな集積便益をもたらす可能性のある事業所を誘致するために補助金を使っているのかもしれない。また、こうした外部便益は、申請企業の産業への特化度がすでに比較的高い地域で、より顕著である可能性がある(たとえばGreenstone et al. 2010)。しかし、Brülhart and Simpson(2015)が用いた研究対象にこれが当てはまるとは考えにくい。助成金を申請する事業所から周辺地域の既存企業へ及ぶ集積便益は、大規模プロジェクトで意味を持つ可能性が高い。したがって、これは、参入企業が既存企業に大きな便益をもたらすことを示したGreenstone et al.(2010)の研究対象である「100万ドル規模の工場」には当てはまると考えられる。一方、対象プロジェクトの規模が平均してその約100分の1である英国の政策環境では、このメカニズムは妥当とはいえない。新たな雇用を生み出す新規参入者ではなく、既存雇用の維持を目指す既存事業所により多額の助成金が提示されているという知見は、将来のクラスター形成よりも政府の捕捉が有力なメカニズムであるという結論を補強する。
これらの結果は、成長産業を対象としているとされる補助金政策が、実際には相対的に衰退している産業や地域を志向しているという先行研究の知見を想起させる(Beason and Weinstein 2005, Martin et al. 2011)。また、財政分権の最適な度合いは、政策が地域の支配的で根強い利害関係者に捕捉される可能性の程度に左右されるという見方を支持する(Bardhan 2002)。
結論
この研究は政策論議にどのような貢献をするのだろうか。地方レベルの財政政策決定について、Glaeser(2002)が論じるように、既存の産業クラスターによる政策捕捉は「税制優遇措置が空間的な歪みを生むと示唆する唯一の理論」である。したがって、地方の政策捕捉の余地が大きいほど、財政権限の分権化は経済効率性を損なう。
資本課税競争をめぐるより広い議論において、私たちの結果は、集積の力が底辺への競争を抑えるどころか、資本に有利な方向へ競争条件をさらに傾ける世界を示している。移動可能な企業は最も低い税率を求めて各地を比較し、それによって政府は税率を引き下げざるを得なくなる。一方、移動できない(大規模または集積した)企業は、地方政府との交渉で特に強い立場にあるようだ。別の言い方をすれば、集積の力は比較的小さな空間スケールで主に作用することが示されているため(Rosenthal and Strange 2004)、国際的な税競争にはほとんど影響しない一方、国より下位の行政レベルでの課税に影響を及ぼす可能性がある。政策捕捉が支配的な力であれば、それは資本に有利に働く。
もちろん、これは強い推測であり、誇張されている可能性もある。国税当局と地方税当局の戦略的相互作用、そしてそれらと空間的に集積した産業との相互作用について、さらなる研究が明らかに必要である。
参考文献
Baldwin, R E and P Krugman(2004)「Agglomeration, Integration and Tax Harmonisation」European Economic Review、48(1):1-23。
Bardhan, P(2002)「Decentralization of Governance and Development」 Journal of Economic Perspectives、16(4):185-205。
Beason, R and D E Weinstein(2005)「Growth, Economies of Scale, and Targeting in Japan (1955-1990)」 Review of Economics and Statistics、78(2):286-295。
Brülhart, M and H Simpson(2015)「Agglomeration Economies, Taxable Rents, and Government Capture: Evidence From a Place-Based Policy」、CEPR Discussion Paper 10578。
Buettner, T(2001)「Local Business Taxation and Competition for Capital: The Choice of the Tax Rate」 Regional Science and Urban Economics、31(2-3):215-245。
Charlot, S and S Paty(2007)「Market Access Effect and Local Tax Setting: Evidence from French Panel Data」 Journal of Economic Geography、7(3):247-263。
Greenstone, M, R Hornbeck and E Moretti(2010)「Identifying Agglomeration Spillovers: Evidence from Winners and Losers of Large Plant Openings」 Journal of Political Economy、118 (3):536-598。
Luthi, E and K Schmidheiny(2014)「The Effect of Agglomeration Size on Local Taxes」 Journal of Economic Geography、14(2):265-287。
Martin, P, T Mayer and F Mayneris(2011)「Public Support to Clusters: A Firm Level Study of French ‘Local Productive Systems」 Regional Science and Urban Economics、41:108-123。
Piketty, T(2014) Capital in the Twenty-First Century、Harvard University Press。
Rosenthal, S and W Strange(2004)「Evidence on the nature and sources of agglomeration economies」所収:Henderson, J V, Thisse, J-F(編) Handbook of Regional and Urban Economics、第4巻。Elsevier、Amsterdam。
本記事は、 VoxEUとの協力により掲載されています。掲載は、World Economic Forumが見解を支持することを意味するものではありません。
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画像:シンガポールの中央ビジネス地区で建物の前を歩く男性。REUTERS/Nicky Loh。



