世界金融危機以降、経済パフォーマンスの大きな格差が株式市場の相当な変動につながってきた。いま、従来の指標で見ると株価は比較的高い水準に達しており、投資家の間には不安が広がり始めている。
問題は、株式のバリュエーションが将来の収益力に照らして過大かどうかだ。答えは二つの重要な変数、割引率と将来の利益成長率に左右される。割引率が低いほど、また期待利益成長率が高いほど、より高い株式評価が正当化される。
S&Pの過去12カ月の株価収益率(P/E)は20近くで、長期平均の15.53、中央値の14.57を上回る。過去10年間の平均実質利益(インフレ調整後)に基づくシラーP/Eレシオは27.08で、平均値と中央値はそれぞれ16.59、15.96だ。また2月には、経営陣の将来利益見通しを用いる12カ月先予想利益P/Eが11年ぶりの高水準となる17.1に達した。5年および10年平均は約14、15年平均は16となっている。
株式市場の最近の好調は、多くの中央銀行が進めてきた非伝統的な金融政策によるものとされることが多い。こうした政策は意図的に国債のリターンを低下させ、投資家は利回りを求めて、株式、格付けの低い債券、外国証券など、よりリスクの高い資産の市場に向かわざるを得なくなった。
標準的な定式化によれば、株価は、推定将来利益(その利益の成長を含む)の現在価値に近づく傾向があり、その価値は、いわゆる「無リスク金利」に株式リスクプレミアムを加えて割り引かれる。より正確には、予想利益利回り、すなわちP/Eレシオの逆数は、無リスク金利に株式プレミアムを加え、利益成長率を差し引いた値に等しい。(もちろん市場は、たとえば非合理的な高揚感、バリュー投資家の影響力の一時的な低下、あるいは時機を逸した逆張り取引などに左右され、道筋を外れることもある。)
金融政策は二つの経路のいずれかで株価を押し上げた可能性がある。株式リスクプレミアムを圧縮して割引率を下げたか、あるいは単に無リスク金利を十分長く低く抑え、株式の現在価値を高めたかだ。いずれの場合も、株価はいずれ横ばいになり、利益が追いつくか、あるいは下方修正される余地が生じるはずだ。
しかし、金融政策による説明には説得力があるものの、確実とは言い切れない。実際、別の要因が現在の株式市場の動向を説明している、あるいは少なくとも一因となっている可能性がある。
重要な要因の一つは利益成長だ。長期的には、売上高の伸びは経済成長とおおむね一致すると考えるのが妥当であり、現状ではこの面で加速の兆しはほとんどない。企業がコストを削減したり、投資を減らしたりすれば、利益は長期間(ただし無期限ではない)売上高を上回るペースで伸びる可能性がある。この傾向は時間とともに減価償却費を押し下げる。理論上、法人税の減税も同じ効果をもたらし得る。
さらに、経済の均衡条件が変化し、総利益が国民所得に占める割合を高める可能性もある。先進国ではいま、労働力を節約するデジタル技術の普及やサプライチェーンのグローバル化が所得の伸びを抑えるなかで、実際にそうしたことが起きているという証拠がいくつかある。
とはいえ、利益成長率の見通しに逆方向の影響を与えている可能性のある傾向もある。S&P 500の利益の5分の2を超える部分は海外市場から生じているが、その一部である欧州や日本はほとんど成長しておらず、中国など他の市場では成長が鈍化している。
ドル高は、輸出企業に逆風となり、ドル建てで報告される企業の海外利益を減少させるため、米国市場の状況をさらに悪化させる。生産性の伸びの鈍化に加え、過剰なレバレッジと公共部門の継続的な投資不足も、中期的な潜在経済成長率を損なっている可能性がある。
利益成長の加速期待が高いP/E水準の一因となっている可能性は十分あるが、現状は、控えめに言っても複雑だ。確かなのは、高い利益成長への期待のほうが、株式リスクプレミアムの抑制よりも、P/E水準に持続性のあるプラス効果をもたらすということだ。
P/Eに影響するもう一つの重要な要因は無リスク金利だ。金融政策の正常化が進むにつれ――米国ではすでに始まっている――無リスク金利は、安定した2%のインフレ率と整合する水準まで上昇すると予想される。それはさらに、ある水準の失業率に対応する。しかし、具体的にどの水準となるかは依然不確かであり、展開しつつある成長パターンのほぼあらゆる側面から影響を受けるため、極めて特定しにくい。
それでも、現在の成長パターンには際立った特徴がいくつかある。過剰な生産能力、根強い高レバレッジ、財・サービス生産における労働投入の低下、そして労働と資本の間、さらには貯蓄率が異なる労働所得層間で広がる所得格差だ。これらが相まって、総需要が成長を制約する期間が長引く可能性がある。供給側に成長の制約がなければ、インフレ圧力はほとんど生じず、非インフレ的な完全雇用と整合する中立金利は、以前より低い水準に長期間とどまる可能性がある。
では、ここから何が言えるだろうか。私の見解では、この環境で利益成長が大幅かつ持続的に加速すると強く主張するのは難しい。つまり、成長だけでは現在の株式評価を正当化できない。しかし、割引率が低下するという議論にはより説得力があり、経済の基礎的条件や中央銀行の使命とも整合する。
とはいえ、このように複雑な環境では、投資家の見解は大きく分かれると予想され、それによって市場の変動は続き、さらに拡大する可能性もある。
この記事は Project Syndicateとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムがその見解を支持していることを意味するものではありません。
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著者:マイケル・スペンスは、ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスの経済学教授。
画像:ニューヨーク証券取引所の前に掲げられたウォール街の道路標識。REUTERS/Lucas Jackson



