欧州の電力網の近代化は、大陸のエネルギー転換を進め、競争力を維持するうえで不可欠だ。
欧州のエネルギー転換目標を達成するには、今後10年間で5,840億ユーロを超える投資が必要となる。
必要な投資規模を踏まえると、公的資金だけでは不十分だ。民間部門も役割を果たさなければならない。
欧州がクリーンエネルギーの未来に向けて急ぐなか、電力網の近代化は重要な課題となっている。EUの送電網行動計画は昨年公表され、今後6年間で約6,000億ユーロの投資を目指すもので、重要な一歩だ。しかし、クリーンエネルギーの未来を実現するには、資金面の取り組みだけでは足りない。
再生可能エネルギーの導入拡大、脱炭素化、経済成長を可能にするには、国境や部門、関係者を越えた前例のない協力が不可欠だ。
送電網の近代化:欧州の未来の鍵
電力網は、クリーンエネルギーの普及に欠かせず、社会や産業の電化を促進するうえでも重要だ。欧州の電力網は、エネルギー安全保障だけでなく、経済競争力とイノベーションも支える基盤へと進化している。
欧州委員会によると、欧州では今後10年間で5,840億ユーロを超える投資が必要となる。これは、「Fit for 55」の目標である、2030年までに再生可能電力の比率を42.5%にするためだ。
さらに、イタリアのマリオ・ドラギ元首相が作成した報告書「欧州の競争力の未来」は、競争力を維持するには、エネルギーのイノベーション、柔軟性、インフラなどの主要分野への投資を大幅に増やす必要があると指摘した。また、脱炭素化とデジタル化のニーズに応えるには、EU全体の投資対GDP比率を年5%引き上げる必要があると強調した。これは1960年代、1970年代以来の水準となる。
送電網の近代化は、欧州を競争力と持続可能性を備えたビジネスの場とする取り組みの要だ。朗報は、すでに取り組みが始まっており、ENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)などの組織が欧州の電力網における大規模投資を調整していることだ。
ENTSO-Eの主な調査結果によると、電力網への投資は社会に大きな利益をもたらす。2040年まで国境を越えるインフラに年間60億ユーロを投資すれば、発電コストを年間90億ユーロ削減できると見込まれる。さらに、この投資により、再生可能エネルギーの出力抑制を毎年42 TWh回避し、再生可能エネルギーの利用を最適化できる。これによりCO₂排出量は年間3,100万トン削減され、気候目標の達成と環境の持続可能性向上に貢献する。
世界経済フォーラムは、クリーンエネルギーへの移行をどのように促進しているのか。
エネルギー・素材センターは、エネルギー、素材、産業システムを変革する複雑な移行を理解するため、リーダーたちをつなぐ。エネルギー安全保障、手頃な価格、持続可能性がどのように交差するかを探る場を提供している。
バリューチェーンや地域を越えた協力を通じて、同センターはパートナーが連携し、安全で低炭素かつ公平な移行に向けた実践的な解決策を見いだせるよう、共通の道筋を築く。
送電網拡張の事業性を確立する
政府は、強固な経済的根拠を示すことで、大陸の電力網整備に必要な大規模投資への支持を高められる。そのためには、クリーンエネルギー導入拡大の直接的な影響に加え、経済、技術、社会、環境面の間接的な便益も考慮する必要がある。例えば、雇用創出、技能開発、健康改善、経済成長の加速、異常気象へのレジリエンス強化などが挙げられる。
政府は機会費用も考慮し、何も対策を講じない場合の影響を見積もらなければならない。これには、送電網の混雑による再生可能エネルギーの出力抑制コストや、電化の遅れによる化石燃料輸入の年間コストが含まれる。
必要な投資規模を踏まえると、公的資金だけでは不十分だ。そのため、送電網投資の事業性を確立することも重要となる。
民間企業が投資するのは、期待される収益が少なくとも他の選択肢と同等の場合に限られる。官民が協力し、強固な経済的根拠をもとに事業性を高める戦略を推進できる。
送電網投資に向けた協力
欧州のクリーンエネルギーの未来を実現するには、資本と投資だけでは足りない。欧州各国が結束し、規制の枠組みを整合させ、統合エネルギー市場への揺るぎない政治的支援を示す必要がある。
IEAの分析によると、規制の調和、投資戦略の整合、国や部門間の相互依存関係の認識は、進展を加速させ、ボトルネックを回避するうえで極めて重要だ。欧州のエネルギーインフラにいつ、どこで、どのように投資すべきかについて、十分な情報に基づく判断を下すには、協調的なアプローチが欠かせない。地理的な境界を越え、送電、配電、運輸、産業の計画を連携させる姿を思い描いてほしい。これは効率的なだけではなく、必要なことだ。電化によって需要が拡大し、クリーン水素が視野に入るなか、欧州と世界のエネルギー情勢が変化するにつれて、計画も進化しなければならない。
協力が成果をもたらす事例の一つが、ENTSO-E、EU DSO Entity(欧州配電系統運用事業者協会)、Europacable(電線、ケーブル、付属品メーカーを代表する業界団体)、T&D Europe(欧州の送電網技術プロバイダーを代表する業界団体)の取り組みだ。各組織は協力して、サプライチェーンのプロセスを効率化し、陸上・洋上双方の重要インフラプロジェクトへの投資の見通しを高めることを目指している。この協力により、欧州はエネルギー転換への備えを整えるだけでなく、その先頭に立つことができる。
協力モデルのイノベーション
さらに注目すべき分野は多い。投資リスクを分担し、エネルギープロジェクトの資金調達におけるイノベーションを促す柔軟な融資モデルが必要だ。今後、大規模なインフラ投資が見込まれるなか、エネルギーを利用しやすく、手頃な価格に保つため、料金体系を見直す必要がある。急速に発展するデジタル技術を活用し、部門や関係者間の協力を強化して、インフラ整備を加速させることも必要だ。縦割りを解消し、隔たりを乗り越えて新たな協力関係を築くことが、クリーンで公平な未来に不可欠となる。
エネルギー転換は、電線や鉄塔を整備するだけではない。欧州のエネルギーの未来を形づくる投資を支える、安定した環境を築くことでもある。送電網運用者、規制当局、消費者団体、技術革新を担う人々は、「今そして未来にふさわしい電力網」という共通の目標に向けて、それぞれの見解を調整しなければならない。
詳細については、クリーン電力・送電網・電化イニシアチブをご覧ください。詳細な分析については、世界経済フォーラムの最新のブリーフィングペーパーをお読みください。

