量子コンピューティングは大きな機会をもたらす一方、サイバーセキュリティ上のリスクも伴います。
NISTの新たな耐量子暗号(PQC)標準は、量子安全な経済への移行に向けた重要な足掛かりとなります。
量子サイバーセキュリティに取り組む組織には、一貫した長期戦略が必要です。
量子コンピューティングは、計算能力を大幅に高められることから、経済と科学に計り知れない機会をもたらします。しかし、量子力学を用いて複雑な計算問題の一部を解く量子コンピューティングは、現在使われている暗号アルゴリズムの一部を時代遅れにし、深刻なサイバーセキュリティ上のリスクを招くおそれもあります。
量子技術は全体としてまだ黎明期にありますが、短期・長期の予測からは、サイバーセキュリティ分野に新たな機会を開く可能性が大いに示されています。量子コンピューターはなお開発段階にあるものの、専門家は今後10年以内に暗号を破る能力を備えると見込んでおり、「個人、組織、そして国家全体の安全とプライバシー」を脅かす可能性があります。
量子現象の発見と活用は、半導体、レーザー、医療用画像システムなど、長年にわたる多くの技術革新への道を開いてきました。今日、「量子」は主に次の3つの柱を指す言葉として使われています。量子コンピューティングのユースケース、量子鍵配送(QKD)や量子乱数生成(QRNG)などの量子対応セキュリティ技術、そして耐量子暗号(PQC)です。
このほど、米国国立標準技術研究所(NIST)は、量子コンピューターによるサイバー攻撃に耐えるよう設計された、待望の耐量子暗号アルゴリズム標準を3つ発表しました。これらの標準は、「機密メールから現代経済を支える電子商取引の取引まで、幅広い電子情報の保護に活用できる」と、米商務省傘下のNISTは声明で述べています。
PQCはこの量子コンピューティングの脅威をどう軽減するのでしょうか?
量子コンピューティングが急速に発展し続けるなか、NIST標準の発表は重要な節目であり、とりわけ組織が量子安全な移行を進めるうえで欠かせない一歩となります。
PQCでは、新たな数学的手法に基づく公開鍵暗号アルゴリズムを用います。これらはショアのアルゴリズムによる攻撃に耐えるよう設計されています。これらの標準は、現在の暗号アルゴリズムを、(現時点で知られている)量子攻撃に対して安全なものへ更新するのに適しており、既存のインフラ内でソフトウェアベースのソリューションとして実装できます。これにより、明確で国際的に通用し、審査・認定された標準に基づいて、既存インフラ全体へほぼ直接導入できます。暗号アルゴリズムを量子安全なものに移行するのに適している一方、現時点では性能面で一定の欠点が生じる可能性があります。また、将来、古典的および量子的な攻撃(暗号解析)が進展し、これらの方式の安全性に影響を及ぼす可能性もあります。
QKDやQRNGなど、他の技術は量子の脅威を軽減するうえでどのような役割を果たせるでしょうか?
量子の脅威を軽減するため、複数の取り組みが進められています。これらの技術は万能策ではありませんが、用途やユースケースによっては、単独または組み合わせて活用できます。PQCに加え、注目を集めている他の技術として、量子が公開鍵暗号にもたらすリスクの軽減に役立つ可能性のあるQKDとQRNGがあります。
QKDは、物理学に基づく量子技術を用いて安全な通信路を生成し、暗号鍵の配布に利用します。このプロトコルは、計算能力が無限であっても総当たり攻撃を受けないと考えられており、「重ね合わせ」の原理を使って、盗聴者が気づかれずに通信を傍受できないようにします。このプロトコルは秘密鍵を交換するために設計されており、交換した鍵はその後、量子安全なアルゴリズムを使った通信の暗号化に用いられます。そのためQKDは、量子リスクの軽減に役立つ可能性があり、安全な鍵配布の手段を提供することで、PQCや他の暗号アルゴリズムを補完できます。セキュリティ上の利点は大きい可能性がある一方、QKDの利用には専用ハードウェアへの多額の投資が必要で、通信距離に制約があり、別個の認証チャネルも必要です。
QRNGは、量子の基本的な性質を利用して、エントロピーの高い乱数を生成します。乱数は暗号に欠かせない要素です。QRNGは、従来のプロセスよりも検証済みのエントロピー源を生成できる可能性があり、特定の条件下でセキュリティを高めることができます。乱数の生成は、暗号鍵の生成にも一部のアルゴリズムにも、暗号において重要な役割を果たします。古典的な乱数生成器(RNG)が熱雑音など何らかのエントロピー源をもとにするのに対し、QRNGは本質的にランダムです。そのためQRNGは、暗号システム全般のセキュリティを高める可能性がありますが、量子の脅威を特に軽減するものではありません。また、用途によっては再現性が求められますが、QRNGでは実現できません。
ハイブリッドソリューションは、将来への道筋をどのように築けるでしょうか?
多様なソリューションの中から、用途に応じて量子耐性セキュリティを採用する組織は、従来型と量子対応型のアプローチを組み合わせたハイブリッドソリューションを活用できます。ハイブリッドソリューション(従来型の暗号と量子ベースの暗号化要素を併せ持つシステム)を導入する組織は、暗号標準とソリューションを継続的に進化させる能力を築くため、暗号アジリティも高める必要があります。この暗号アジャイルなアプローチには、暗号ガバナンスを改めて見直し、暗号アジャイルなソフトウェアの枠組みやアーキテクチャを導入する新たな方法を探ることが求められます。何より重要なのは、組織が今すぐ戦略とロードマップを策定し、量子時代に向けたサイバー対応の道のりを歩み始めることです。

量子時代への備えに向けた5つの原則
量子安全なソリューションとハイブリッドアプローチは、組織が量子安全な移行に取り組む助けとなりますが、その成功にはサイバーセキュリティの基盤と基本が整っている必要があります。上記の5つの指針は、組織が量子安全な移行をどのように始めるかを理解するための実践的なガイダンスとなります。組織が現状を把握し、量子安全を実現するための準備における不足を特定し、量子セキュリティに向けた初期の取り組みを改善する助けとなります。
フォーラムは、世界的なサイバーセキュリティの課題にどう取り組んでいるのでしょうか?
サイバーセキュリティセンターは、リーダーが集まり、変化するサイバーリスクとそのシステム全体への影響を理解するための信頼できる場を提供しています。相互接続がますます進むデジタル世界において、理解と信頼の構築に取り組んでいます。
分野横断的な連携と知見の共有を促すことで、同センターはパートナーのサイバーレジリエンス強化を支援し、共同での対応が必要な課題に取り組みます。

