世界を変えつつある気候リスクの中でも、極端な暑さは健康、インフラ、経済の安定にとって最も深刻な脅威となりうる。
極端な暑さは、今後10年間で産業全体の有形固定資産損失の72~73%を引き起こす可能性がある。
保険業界は、行動変容を促し、リスク低減を後押しすることで、この拡大するリスク環境の管理において極めて重要な役割を果たすことになる。
2024年、地球は重大な節目に到達した。過去10年がいずれも観測史上最も暑い年となったのである。12か月間の世界平均気温が初めて産業革命前の水準より1.5℃上昇し、現在は1.62℃に達して、パリ協定の目標を超えている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、この状況を「地球沸騰化の時代」と痛烈に表現し、極端な暑さがもたらす激化かつ壊滅的な影響に対処することの緊急性を強調した。
世界を変えつつある多くの気候リスクの中でも、極端な暑さは人間の健康、インフラ、経済の安定にとって最も深刻な脅威となりうる。極端な暑さは、労働生産性、教育成果、メンタルヘルス、公益事業システム、交通網、移住、政治的安定に影響を及ぼす、極めて広範に及ぶ危険である。
保険業界は、この拡大するリスク環境の管理において重要な役割を果たすことになる。生命、健康、財産、農業にまたがって事業を展開する保険会社は、インフラの損壊や作物の不作から死亡率・罹患率の上昇に至るまで、極端な暑さの波及効果に直接さらされている。
保険会社は世界有数の資産保有者でもあるため、極端な暑さに関連する重大な投資リスクにも直面している。2035年までに、極端な暑さは上場企業において年間2.4兆ドルの生産性損失と、年間4,480億ドルの固定資産損失を引き起こすと予測されている。リスク低減への支出1ドルごとに長期的に13ドルの便益がもたらされるという実証済みの投資収益率があるにもかかわらず、災害対応資金の88%は依然として災害発生後の対応に充てられている。
この急速に変化する脅威に対しては、保険業界による次のような変革的な行動が求められる。
極端な暑さのリスクに特化した革新的な商品・サービスを開発すること。
レジリエンスおよび適応戦略への投資のリスクを低減すること。
熱に強い社会を構築するため、セクターを横断する協働を主導すること。
極端な暑さがもたらす影響の拡大
2023年5月から2024年5月にかけて、世界人口の5分の4にあたる63億人が、少なくとも1か月間、異常な高温を経験した。インド、スペイン、米国の労働者や、ハッジ(巡礼)の期間中に1,000人を超える巡礼者が、極端な暑さによって命を落とした。
現在、推定48万9,000人が極端な暑さにより毎年死亡しており、これは最も致死性の高い気候リスクとなっている。洪水、ハリケーン、地震を合わせた死者数よりも多くの命を奪っている。2050年までに、世界人口のほぼ半数が、年に少なくとも1か月間は危険な暑さに直面することになる。
経済的な影響も同様に甚大である。2050年までに、気候リスクによって世界経済は23兆ドル縮小する可能性があり、適応のための資源が限られているグローバル・サウスでは、損失が不均衡に大きくなる。米国だけでも、2050年までに、熱に起因する労働生産性の損失によって、建設業の総生産が3.5%(年間1,190億ドル)、製造業が1.7%(年間900億ドル)、農業が3.8%(年間130.7億ドル)減少すると予測されている。
行動のためのロードマップ
以下の5つの目標が、極端な暑さの影響と根本原因に対処するためのロードマップを示している。
1. 極端な暑さに関する共通言語を構築すること。この課題は定量化し、効果的に伝達しなければならない。これには、社会と経済が極端な暑さにさらされている度合いの把握、その広範な影響に対する認識の向上、そして米国環境保護庁(EPA)の「Let's Talk About Heat(暑さについて話そう)」キャンペーンのような公的な取り組みの支援が含まれる。熱波に名称を付けて順位づけすることや、最高熱対策責任者(Chief Heat Officer)を任命することといった政策措置は、備えを強化し、脆弱な個人やコミュニティを守る上で効果が実証されている。
2. 保険業界の役割を変革すること。保険会社は、保険金の支払いにとどまらず、リスク予防を積極的に支援しなければならない。AIやGoogleのNeuralGCMのような技術を活用することで、気候予測や革新的な引受アプローチを強化できる。ますます不安定化する気候リスク環境の中で、これらのリスクを「保険不可能」として切り捨てることは、長期的に有効な解決策ではない。
3. 適応とレジリエンスを加速させること。保険会社は、その専門知識と資本を投入することで、遮熱舗装、冷却システム、エネルギー効率の高い建物といった、影響の大きいソリューションへの投資を促進できる。重点は、事後的な対策から、測定可能な成果を伴う予防的な取り組みへと移すべきである。
4. 政策と規制を支援すること。保険会社は、極端な暑さへのさらされ方を低減する、より強固な建築基準、都市計画政策、その他の措置を提唱すべきである。気候リスクの高い地域社会において、利用しやすく手頃な価格の保険環境を維持するためには、規制の整合性が不可欠である。
5. 官民パートナーシップを強化すること。極端な暑さへの対応には、幅広い利害関係者の関与が必要である(公益事業者、科学者、公衆衛生当局者、インフラ計画者、メディア、市長・地方自治体、不動産、農業、建設、製造業など、影響を受けやすいセクターの指導者を含む)。これにより、コミュニティに根ざした、かつセクター別の熱に対するレジリエンス戦略を策定する。
世界経済フォーラムは気候危機にどのように取り組んでいるか?
保険業界の極めて重要な役割
世界の気象関連損失のうち保険でカバーされているのは60%未満であり、極端な暑さによる経済的負担は、政府や地域社会にとって持続不可能なものとなっている。保険会社は、対象範囲を広げ、予防的な適応に重点を置くことで、社会的価値を拡大できる。これには、行動変容の促進、リスク低減の後押し、垂直型の都市農業やAIを活用したパラメトリック保険などの革新の推進が含まれる。
極端な暑さという増大する課題には、協調的かつ予防的な行動が求められる。人命、経済的損失、社会の混乱で測られる不作為のコストは、あまりにも大きい。今日下される決定は、将来、温暖化が急速に進む世界にどれほどうまく耐え、適応できるかを左右するだろう。決断力のある行動を取ることで、保険業界は、より強靭で持続可能な未来に向けた取り組みを主導できる。




