スピード&スケール・トラッカーは、温室効果ガス排出削減に向けた世界目標の進捗を追跡する、新たな気候変動対策ツールです。
運輸、暖房、食料、産業などの分野で、2050年までにネットゼロ排出を達成する目標を扱っています。
電気自動車は特に進展が見られる分野ですが、私たちは依然として牛肉や乳製品を食べ過ぎています。
世界経済フォーラムも、産業界のネットゼロ達成を支援する新たな追跡ツールを立ち上げます。
世界は気候変動への取り組みを進めているのでしょうか。それとも停滞しているのでしょうか。
新たな気候変動対策トラッカーは、この問いへの答えを示そうとしています。スピード&スケール・トラッカーは、温室効果ガス排出を2050年までにネットゼロにし、2030年までにその道のりの半分を達成するという世界目標について、成果と後退の両面を示します。
運輸、暖房、食料、産業などの分野で、排出削減がどこまで進んでいるか、あるいは進んでいないかも取り上げています。
スピード&スケール・トラッカーは、2021年刊の書籍『スピード&スケール』に基づいています。著者は、エンジニアで米ベンチャーキャピタル企業クライナー・パーキンスの会長を務めるジョン・ドーアと、オバマ大統領の元テクノロジー顧問ライアン・パンチャサラムです。
スピード&スケール・トラッカーが特定した、ネットゼロへの道のりにおける3つの成果と5つの後退を紹介します。
電気自動車に強い勢い
電気自動車は、大きな進展が見られる分野です。電気自動車の販売台数は、世界の自動車販売に占める割合が2020年の4%から2021年には約9%へと、2倍以上に増えました。ネットゼロへの道筋に乗るには、この割合を2030年までに50%にする必要があります。そのためには、現在の年間400万台から数千万台へと生産を拡大する「即時かつ野心的な飛躍」が必要だと著者らは述べています。
発電は目標達成への道筋に
2025年までに、世界の電力の半分をゼロ排出電源で賄う必要があります。その割合は2035年までに90%へと高まります。この目標に向け、世界は大きく前進しており、2020年には電力の39%がゼロ排出電源によるものでした。さらに進むには、太陽光・風力発電設備、蓄電池、原子力・水力・地熱発電所を増やす必要があります。
ベンチャーキャピタルの目標はすでに達成
スピード&スケール・トラッカーの目標のうち、すでに達成されたのは一つだけです。それは、気候テクノロジーのスタートアップ企業への投資を拡大し、米国で年間500億ドルにすることです。この目標は2021年に達成され、投資額は2020年の170億ドルから537億ドルに増加しました。この資金の半分以上は運輸分野のソリューションに向けられました。「ゼロ排出の建物など、他の分野にも投資が切実に必要です」と著者らは述べています。
海洋保護の進展は限定的
2030年までに、少なくとも世界の海洋の30%を保護する必要があり、2050年までには50%にする必要があります。スピード&スケール・トラッカーによると、この目標の進展は限定的で、現在保護されている地球の沿岸海域は8%です。ネットゼロを達成するには、商業漁業で行われる深海底引き網漁を終わらせる必要があると著者らは述べています。この漁法では、重りを付けた網を海底に引きずるため、CO2が海水中、ひいては大気中に放出されます。
石炭とガスに「危険信号」
ネットゼロを達成するには、世界は新たな石炭火力発電所とガス火力発電所の建設を直ちにやめる必要があります。既存の石炭火力発電所は2025年までに、ガス火力発電所は2035年までに、排出ゼロにするか閉鎖しなければなりません。スピード&スケール・トラッカーがこれを「危険信号」とするのは、世界で現在、石炭火力発電所345基、ガス火力発電所438基が建設中だからです。化石燃料発電所の新設を「即時停止」し、既存の石炭火力発電所を閉鎖したうえで、天然ガスを可能な限り速やかに廃止する必要があると著者らは述べています。
食料消費の取り組みは大きく遅れ
家畜由来の排出を削減するには、世界で牛肉と乳製品の消費量を2030年までに4分の1、2050年までに50%減らす必要があります。この目標は現在、達成ペースを下回っており、スピード&スケール・トラッカーでは「危険信号」に分類されています。米国の週当たりの消費量は現在、牛肉が1.1ポンド、乳製品が3.8ポンドです。排出量の多いタンパク質から需要を移すには、牛肉やチーズに代わる植物由来食品を「改良し、規模を拡大」する必要があると著者らは述べています。
森林保護は機能していない
6秒ごとに、サッカー場ほどの広さの森林が失われています。2021年には、人間の活動によって失われた森林は合計375万ヘクタールに上りました。これも気候変動トラッカーで「危険信号」が示されている分野です。2030年までに、世界は森林破壊を止め、伐採や焼失で失うより多くの木を植えなければなりません。2021年11月、グラスゴーで開かれた国連気候変動会議COP26で、141か国が2030年までに森林破壊を終わらせると約束しました。すべての国が「強力な森林保護策」を実施し、促進する必要があると著者らは述べています。
鉄鋼は目標から大きく逸脱
鉄鋼メーカーは、鉄鋼製造工程からの排出を2030年までに半減させる必要があります。2040年までには、排出量を90%削減する必要があります。2040年の目標は、鉄鋼1トンの生産当たりの排出量を0.2トンにすることに相当します。鉄鋼業界は現在、鉄鋼1トンの生産当たり1.9トンのCO2を排出しているため、ここも「危険信号」が示される分野です。鉄鋼は、40億トンに上る排出量を生む、産業部門で最大の単一排出源です。
重工業への支援
鉄鋼業界とその他6つの重工業による排出削減を支援するため、世界経済フォーラムとパートナーは、ファースト・ムーバーズ・コアリションをCOP26気候サミットで立ち上げました。この取り組みは、世界の排出量の3分の1を占める一方、排出削減が最も困難な7つの重工業を対象としています。対象となるのは、アルミニウム、航空、化学、コンクリート、海運、鉄鋼、トラック輸送です。
米国大統領気候問題特使ジョン・ケリーとのパートナーシップである同連合の目的は、新たな脱炭素化技術の開発と導入を加速することです。ファースト・ムーバーズ・コアリションは8番目の産業分野として大気中の直接回収にも取り組み、大気から二酸化炭素を除去して世界のネットゼロ達成に役立つ技術の開発を加速させています。
フォーラムは、産業部門が2050年までにネットゼロ排出を達成できるよう、新たな追跡イニシアチブも立ち上げました。
ネットゼロ産業トラッカーは、重工業のネットゼロに向けた進捗を監視し、支援する新たな枠組みを設けます。業界が排出をどのように削減し、エネルギー効率を高めているかを測定する標準指標も盛り込まれています。また、単独の業界では制御できない共通目標への対応を支援するため、複数のパートナーによる協業に「新たなレベルの意欲」を求めています。
「画期的な解決策は、一つの企業や業界の内部だけで見つかることはほとんどありません」とフォーラムは述べています。「だからこそ、産業エコシステムは従来のパートナーシップを超えて協力する必要があります。」








