簡単に言えば、炭素「インセッティング」は、バリューチェーン内で悪影響を減らすよりも、より多くの良い影響を生み出すことに重点を置きます。
炭素インセッティングとは、森林再生、アグロフォレストリー、再生可能エネルギー、再生型農業など、自然を活用した解決策を実施することです。
重要な手段ではあるものの、カーボン・オフセッティングは、企業による直接的な排出削減の代替策とはみなせません。
世界は、今世紀末までに地球の気温が2.7°C上昇する見通しです。排出量を半減させるまで10年を切るなか、温室効果ガス(GHG)排出量の削減を求める官民への圧力は日々高まっています。
民間企業に科学的根拠に基づく排出削減目標の設定を促す、SBTiなどの取り組みにより、企業の気候変動対策へのコミットメントは大幅に増加しています。
パリ協定の第6条など、共通の措置が正式に整備されるなか、炭素市場は、特に削減が困難なセクターにとって有望な道筋を示しています。
民間企業は、カーボンニュートラルを達成するため、カーボンクレジットを用いた自主的なオフセッティングへの依存を強めています。例えば、企業Aは、再生可能エネルギー事業を営む、または再生可能エネルギーを利用する企業Bからカーボンクレジットを購入し、避けられない排出を相殺できます。その見返りとして、企業Bは新たな太陽光発電所や風力発電所を建設します。この場合、Bはクリーンエネルギーの恩恵を受け、Aはカーボンフットプリントを削減できます。
別の方法として、企業Aが森林再生の取り組みを実施する企業Cに資金を支払うこともできます。この場合、企業Aは環境中への排出を再び相殺し、その見返りとして企業Cは、生物多様性の保護と、森林を管理する先住民コミュニティの雇用創出に貢献します。
しかし、この取引は単純に見える一方で、二重計上や追加性といった重要な要素により、炭素市場の影響がプラスからマイナスへと転じる可能性があります。例えば、企業Aがオフセット事業(再生可能エネルギー)に対して企業Bに支払い、両社がそれぞれの帳簿で削減した排出量を計上する場合、これを二重計上と呼びます。同様に、企業Aが、もともと実施予定だった森林再生の取り組みに対して企業Cに支払う場合、これは追加性に該当します。
したがって、企業も国も、堅牢な気候変動対策の方法論に準拠した高い信頼性を持つプロジェクトを見極めることが急務です。
炭素インセッティング:悪影響を減らすより、より多くの良い影響を生み出す
世界が2050年までのネットゼロ達成という差し迫った課題に取り組むなか、企業や国がカーボンオフセットを活用することは避けられません。しかし、組織が自らのバリューチェーンの脱炭素化に着手し、自然にプラスの影響をもたらす解決策や事業運営を取り入れなければ、気温上昇との闘いに勝つことはできません。簡単に言えば、炭素「インセッティング」は、自らのバリューチェーン内で悪影響を減らすよりも、より多くの良い影響を生み出すことに重点を置きます。
「インセッティング国際プラットフォーム」によると、自社のサプライチェーンからのGHG排出量削減を目的とするインセッティングとは、森林再生、アグロフォレストリー、再生可能エネルギー、再生型農業など、自然を活用した解決策を実施することです。インセッティングの活動には、その結果として先住民コミュニティの生計向上につながるものもあります。
例えば、インセッティングに取り組む企業はまず、自社のサプライチェーンを評価し、GHG排出量の大部分がどこで発生しているかを特定します。一般に、最初に注目すべきホットスポットはエネルギー源です。そのため、太陽光や風力などの再生可能エネルギー技術への投資が効果的な解決策となることがよくあります。
Ganniはデンマークを拠点とするファッション小売ブランドで、2025年までに石炭由来の熱やエネルギーを使用する第1~第3段階のサプライヤーとの取引を停止すると表明しています。その一環として、繊維のリサイクルや廃棄物削減など、循環型のプロセスを取り入れています。また、販売・マーケティング業務を支援する仮想ソフトウェアやアプリケーションも導入し、営業チームの航空機利用を減らして、出張による排出量のフットプリントを最小限に抑えています。
次に、原材料の調達先と調達方法も、インセッティングを最適化するための重要なポイントです。NespressoはNéstleグループの事業部門で、インセッティングの取り組みの一環として再生型農業を導入しています。コーヒーは日陰で育つとよく生育するため、同社はコーヒー農園内や周辺の景観に木を植えることに投資してきました。この取り組みは、水を蓄え、土壌を保全し、炭素を吸収して生態系を整えるだけでなく、果物や木材の販売を通じて農家に新たな収入機会をもたらします。
自主的炭素市場とは?
Accorは食品・飲料事業者で、再生型農業の実践の一環として、400か所の農地に700万本を超える木を植えました。この取り組みによる直接的な受益者は農家を含めて1万人を超えています。
目下の課題を客観的に捉えれば、オフセッティングとインセッティングの二者択一である必要はありません。重要な手段ではありますが、オフセッティングは企業による直接的な排出削減の代替策とはみなせません(その実現にインセッティングが重要な役割を果たします)。インセッティングの取り組みで具体的な進展を遂げている企業の事例から考えると、企業が両方の方法を採用すれば、世界は1.5°Cの気候目標を達成しやすくなるでしょう。




