HSBCとBCGの報告書によると、排出量削減を約束する大企業が増えているにもかかわらず、「スコープ3」への対応は依然として大きな課題です。
気候変動との闘いには、中小企業を支援し、サプライチェーン全体を移行させる新たな取り組みが必要です。
この移行のロードマップは7つの重要な原則に基づいており、主要なステークホルダーの各グループが取り組むべき具体的な行動があります。
気候変動を緩和する必要性は、かつてないほど明白です。しかし、その「方法」は明らかとは言えません。この課題は政府だけで対処するには大きすぎます。また、世界のサプライチェーンは総炭素排出量の最大80%を占めており、企業が関与する必要性は現実に存在し、期待も高まっています。COP26で方針転換が図られ、これまでの首脳会議では周辺にとどまっていた民間セクターが、中心的な役割を担うことになったのはそのためです。
私たちが話を聞くビジネスリーダーは、緊急性と責任の両方を理解しています。心強いことに、2020年初頭以降、企業によるネットゼロへのコミットメントが大幅に増えています。多くの組織が直接排出量への対応を急速に始めていますが、サプライヤーに由来するいわゆる「スコープ3」排出量を含む間接排出量の削減は、まだ十分に進んでいません。
HSBCとBCGでは、「サプライチェーン・アプローチ」を採用することで、企業がより全体的な視点を持てるようになり、気候変動対策を可能にする重要な要素となり得ると考えました。そこで私たちは、世界のサプライチェーンがネットゼロへ最も効果的に移行するには何が必要かを探るため、協力して取り組みました。
特に注目すべきことに、私たちの調査は課題の大きさを明らかにしました。ネットゼロのサプライチェーン実現に必要と推計される100兆ドルの投資のうち、25兆~50兆ドルもの資金を中小企業に振り向ける必要があることが分かりました。中小企業は一般に、社内の気候変動分野の専門知識が少なく、気候変動への転換を進め、資金を調達するための資本へのアクセスも限られているため、これが気候変動対策を一層複雑にしています。
それでも、実行手段はセクターによって異なる一方、調査では、移行のロードマップとしてあらゆるセクターに当てはまると考えられる7つのステップも明らかになりました。
1. 製品設計を見直す既存のプロセスを最適化するだけでなく、原点に立ち返って製品設計を見直しましょう。細部を少しずつ改善するだけではネットゼロのサプライチェーンは実現できず、人々が製品をどのように使い、どのように製造するかを根本から再評価する必要があるかもしれません。
2. 協働を推進する。サプライチェーンには偏りがあります。一方の端には最高水準の人材、教育、資源がある一方、チェーンの各所には支援を必要とする、小規模で比較的能力の限られた中小企業が数多く存在します。成功するには、知識、技術、投資、資源を共有するため、全員が協力する必要があります。
3. 変革に必要な能力を構築する。移行によってスキルや知識の不足が明らかになります。特に中小企業のサプライヤーで不足が顕著になるでしょう。能力開発と研修が移行の加速に役立ちます。
4. 気候テックに投資する。2050年までにネットゼロを達成するには、今すぐ研究開発に投資するとともに、産業界、科学界、金融界が緊密に連携し、イノベーションを市場に大規模に投入する取り組みを加速させる必要があります。
5. より優れたデータ基盤を整備する。サプライチェーン全体から業務データを収集し、透明性があり、比較可能で、一貫性のあるESG指標を整備して広く利用できるようにするシステムが必要です。これには最終消費者への情報提供も含まれ、購入時の意思決定に役立てることができます。
6. 政策と基準を包括的に考える。政策、基準、市場慣行に長年一貫性が欠けていたため、企業はパートナーから絶えず変わる要件を課され、複雑さとコストが増大しています。一貫性を実現する動きを加速させる必要があります。サプライチェーンは国境を越えるため、すべての関係者に高水準でありながら実行可能な共通基準を適用する政策が必要です。
7. 資金調達を可能にする。対象を絞り、用途を限定した、手頃な資本は重要な推進要因ですが、銀行だけで実現することはできません。銀行には、共同で取り組む仕組み(例:シンジケーション)へのアクセス、企業との共同投資、そして資金を最も必要とするところに届ける官民連携の形成が必要です。そのためには、資金の透明性と追跡可能性を確保する適切なデータ基盤が求められます。資金はどこに振り向けられ、どのように、誰によって使われているのでしょうか。
リーダーシップの坩堝
こうした変革には、複数の主体が関わる「リーダーシップの坩堝」が必要です。例えば、大企業が新たな基準を一方的に義務付け、サプライヤーにさらなる要求を課すだけでは、進展が限られ、目標を達成できないでしょう。そうではなく、サプライチェーン・ファイナンスを通じて共同投資し、流動性を提供すること、イノベーションや技術のサプライチェーン全体への普及を支援して規模拡大につなげること、移行に関する知識や資源を共有することが必要です。これには、排出削減の取り組みを支援できる組織への資金提供も含まれます。
政府は、経済的な均衡を取り戻すためのインセンティブを設けるか、情報開示などの分野における政策を通じて変革を義務付けるとともに、管轄区域をまたぐ整合性を確保する必要があります。小規模企業への要求を簡素化しつつ、開示の正確性を高められるよう配慮が必要です。
業界団体やNGOは、知識や資源を広め、変革を働きかける必要があります。現場で培った専門知識を生かし、サプライヤーを支援するとともに、業界基準の策定に情報を提供します。また消費者は、十分な情報に基づいて判断し、たとえ習慣を変えることになっても、行動で意思を示せるよう、必要なデータを求める必要があります。
銀行は、大企業から小規模企業まで、顧客を支援する独自の立場にあります。移行資金を用途別に確保することに加え、豊富なデータと経験を活用して効果の大きいプロジェクトを予測し、ネットゼロに向けたリスク管理の検討に情報を提供できます。
パートナーシップも重要です。第一に、持続可能なサプライチェーン・ファイナンスのプログラムで顧客と連携し、中小企業の資金調達へのアクセスを拡大します。第二に、政府、開発銀行などと連携して官民パートナーシップを構築し、中小企業からサプライチェーンの深層に位置するサプライヤーまで資金を拡大・活用すること、より良い政策立案に情報を提供すること、ネットゼロのサプライチェーンを支えるイノベーションやビジネスモデルを推進することを目指します。
ネットゼロへの移行の道のりは決して容易ではありません。しかし、気候変動問題に取り組む「理由」と「方法」への理解が深まるなかで、3つ目の重要な要素である「いつ」を見失ってはなりません。データと調査が示すことは明白です。先送りする余裕はありません。COPで交わされたコミットメントが示すように、野心を行動に移す時は今です。





