「私たちはこの地域のリスクを知っている。私たちはこの地域の出身であり、ここは私たちの地域だ…」
Souq.com CEO、ロナルド・ムシャワル
中東では地政学的緊張の高まり、世界で最も高い若年失業率、石油依存型経済からの転換が進んでいる。こうした状況において、スタートアップの成功は地域全体の成功を大きく左右しうる。すでに、中東唯一のユニコーン企業であり、配車アプリを展開する「Careem は50万件を超える雇用を創出しており。同社は現在、6月に女性運転の禁止が解除されることを見越して、サウジアラビアで女性ドライバーの研修を行っている。
2017年5月、世界経済フォーラムは中東のトップクラスのアラブ系スタートアップ100社を集め、中東北アフリカ・サミットを開催した。サミットはヨルダンの死海で行われた。参加者は成長と改革に向けた共通の課題と機会について議論し、地域の主要CEOや政策立案者も加わった。
その後も、アラブ世界のスタートアップの動きは進化を続けている。スタートアップは大企業との提携を一層進めており、政府へのロビー活動でも成果を上げ、従来とは異なる資金源からの投資も確保している。同時に、地域の課題に対して地域発の解決策で取り組み続けている。
実際、世界経済フォーラムのDigital Arab Worldホワイトペーパーは、2018年のダボス会議で、シャルジャ投資開発庁(Shurooq)およびMENA地域ビジネス評議会の会長であるシェイカ・ボドゥール・ビント・スルタン・アル・カシミによって発表されたもので、この地域がスタートアップの成長と発展が可能な強固な起業家エコシステムを構築するうえで独自の強みを持つ理由を論じている。
中東がデジタル革命を取り入れるなか、スタートアップの動きには3つの注目すべき潮流が現れている。
1. 既存企業がスタートアップとの提携を模索している
企業は、スタートアップと提携することで、自社の事業を形作る新鮮で革新的なアイデアに触れられると同時に、地域社会を支援する姿勢を示せることに気づき始めている。ベイルートでは、通信会社のZainが、選抜された6社の拡張性の高いスタートアップに、オフィススペース、メンタリング、販売支援を提供する革新プログラムを支援している。
マッチングプログラムも同様の成果をもたらしている。シャルジャで開催されたArab Supply Chain Impact Initiativeでは、企業が中小企業と16件の覚書(MoU)に署名した。一方、世界経済フォーラムの地域ビジネス評議会(RBC)のメンバーは、同地域を代表する企業を含み、2020年までに年間調達予算の10%を中小企業、スタートアップ、起業家に振り向けることを約束している。
「大企業がスタートアップと提携することは、ウィンウィンの関係であると認識されるようになった」とシェイカ・ボドゥールは述べた。「それによって、大企業は社会経済の進歩に貢献するだけでなく、無限ともいえる革新の源にもアクセスできるからだ。一方でスタートアップは自らの価値を証明することに意欲的であり、大企業に優れたサービスと最先端のソリューションを提供している。」
2. スタートアップが政策立案を形作っている
スタートアップは、ボトムアップの政策立案を目指して政府へのロビー活動で成果を上げ始めている。現地の起業家グループによる2年間の取り組みと主要閣僚の支援を経て、チュニジア政府は最近、Startup Reform Actを可決した。これは、チュニジアのスタートアップの創設、発展、国際化を支援する20項目からなる法律・法的枠組みである。
エジプトでも、Startups Manifestoとして知られる同様の取り組みが注目を集めている。RiseUpのCEOであるAbdelhameed Sharaは次のように書いている。「究極の目的は、エジプトにおいて活気ある起業家エコシステムを実現することだ。現在の課題を明らかにし、具体的な解決策を提案することで、関係するすべての利害関係者の間の継続的な対話を可能にすると同時に、改革の基準点となることも目指している。」
Lamsaは、アラビア語を話す子どもの発達を支援するため地域全体で事業を展開する、アブダビ拠点のスタートアップである。同社は最近、アラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ラーシド・イノベーション基金と提携した。5億5,000万ドル規模のこの基金は、財務省が構想・支援する、現地のイノベーターを支援するための取り組みである。同基金は、Lamsaが成長と影響力を加速させるために必要な資源を提供することになる。
首長国内の他の地域では、ドバイ未来財団が、Area 2071、Dubai 10x、そして12週間のアクセラレータープログラムなど、数多くの革新的なプロジェクトを立ち上げ、スタートアップにとって育成的な環境を提供している。
バーレーンでは、政府が起業家、投資家、学術機関と協力し、Startup Bahrain構想を創設した。この構想は、起業家に事業の立ち上げと拡大に必要なツールと資金を提供するとともに、新たに創設されたフィンテック・サンドボックスを活用する機会も提供している。
オマーンでは、政府が意思決定の過程にスタートアップを参加させることさえしている。最近、政府機関の理事としてスタートアップの起業家を任命しており、その中にはオマーン中小企業開発公社も含まれる。Akkasa Production の CEOであり、オマーン最大のスタートアップ向けファンドであるAl Ruffed Fundの理事を務めるMohammed Salim Al Harthyは、次のように書いている。「これにより、政府はスタートアップのニーズを理解し、オマーンにおいて人々に力を与え、エコシステムを可能にする環境を整えることができる。」
3. 地域のeコマースが活況を呈している
スタートアップは、地域の課題に地域発の解決策で取り組んでいる。地域内外の企業による競争も激しさを増している。過去1年間、eコマース分野では、外部の多くの人が予想しなかった形で、この傾向が特に顕著となっている。
2017年7月、Amazonはそれまでの方針とは異なり、単独で新市場に参入するのではなく、記録的な5億8,000万ドルでSouq.comを買収した。Goldman Sachsは、この取引を「アラブ世界における史上最大の技術M&A取引」と評した。この買収は、地域におけるeコマースの実現可能性を実証しただけでなく、物流や決済システムなどの関連分野も後押しした。
実際、この発表は、eコマース分野における広範な動きの一部であった。2017年3月にドバイのEmaar Mallsが発表した、同社の会長でドバイの不動産大手Mohammed Alabbarの下で、eコマースのファッションサイトNamshiの51%の株式を1億5,100万ドルで取得したという発表の直後のことであった。その数か月後、Alabbar氏とサウジアラビアの公的投資基金は、地域でAmazonと直接競合するeコマースプラットフォームであるNoon.comに対し、10億ドルの資本を投じることを発表した。
買収された企業は、この地域ですでに実績のあるビジネスモデルを持っていた。例えば、Souq.comの買収にはPayfortが含まれていたが、これは同地域で既に広く利用されているオンライン決済ゲートウェイである。
しかし、この地域を一括りに語らないよう注意しなければならない。実際、Amazonの買収の背景の一つは、アラブ世界の国々の間にある豊かな多様性と違いにある。あるスタートアップは次のように述べている。「我々は共通の歴史と文化を共有しているが、隣国への進出は、米国への進出よりも困難な場合さえある。」あるに国で成功する方法が、他の国への進出においても必ずしも万能の解決策になるとは限らない。スタートアップは、成長する中で事業モデルを適応させ続ける必要がある。
これは地域にとって何を意味するのか。
中東から生まれたアイデアと事業は、同地域のスタートアップ・エコシステムへの新たな関心と投資と相まって、アラブ世界を無視できない勢力として位置づけつつある。
しかし、こうした課題は、残った人々に制度の中でどう立ち回るかを創造的に考えることを迫っている。多くの起業家によれば、それがより良い企業を生み出し、新たな機会を渇望する若者のための場を生み出すという。ある創業者は次のように述べている。「私たちの若者はもはや施しを求めていない。自分たちの未来を築きたいのだ。」アラブの起業家たちは、自らの未来と国の未来を、確かに自らの手に取り戻しつつある。



