ボストン・コンサルティング・グループの調査によると、地政学的混乱や経済的不確実性の時代には合弁事業の重要性が高まり、企業戦略において従来の合併・買収よりも重視されるという見方もあります。
多くの企業は、地政学的な課題に直面しても既存の合弁事業への取り組みを維持しています。しかし、自社が変化する世界に十分備えられていないと考える企業も少なくありません。
企業は合弁事業戦略を見直し、地理的な重点を移すこともあります。また、新たな提携に「法的な枠組みによらない」保護策を組み込むことを検討する企業も多くあります。
ここ数年、国際ビジネスに伴うリスクは増大しています。戦争、気候変動、パンデミックをはじめとする世界的な危機により、世界は近年のほぼどの時期よりも複雑になりました。新たに生じた地政学的リスクの多くは、国境を越えた合弁事業に携わる企業にも影響を及ぼします。
国境を越えた合弁事業とは、共同所有の法人であり、現地に関する知見と相互補完的なリソースや能力を組み合わせることで、企業が新市場により効果的に参入できるようにするものです。
こうした合弁事業は、過去15年間にわたり政治的混乱や景気後退の中でも高い回復力を保ってきました。2023年7月、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は調査を実施し、国境を越えた合弁事業が現在の世界情勢にどのように対応しているかを尋ねました。
合弁事業の明るい将来
世界各地で合弁事業を展開する企業の幹部159人を対象とした調査では、過半数(58%)が、現在の地政学的情勢では合併・買収よりも合弁事業の設立が有利だと考えていました。同程度の割合(60%)が、合弁事業は景気後退への対応においてより回復力のある手段だと答えました。特に合弁事業に楽観的だったのは、次の6業種の回答者です。
金属・鉱業。
自動車・モビリティ。
消費財。
電気通信。
メディア・テクノロジー。
航空宇宙・防衛。
例えば、航空宇宙・防衛分野の回答者は、業界の機微性を合弁事業設立の重要な理由として挙げました。

参加者の3分の2は、課題に直面しても既存の合弁事業戦略への取り組みを維持すると答えました。一方、世界的な緊張を受け、かなりの割合(33%)が、異なる地域での合弁事業に重点を移す、条件を再交渉する、特定の提携から撤退するといった変更を検討しています。
北米と欧州の企業は、地政学的リスクにさらされていると感じる傾向が最も強くなっています。調査対象では、合弁事業に占める外国企業との提携の割合が約70%と高いためです。これに対し、中国企業の合弁事業全体に占める国境を越えた事業の割合は約30%、インドおよびアジア太平洋地域のその他の企業では約50%です。
地図上での重点地域の移動
今後の合弁事業は、これまでとは異なる地域に重点を置く可能性があります。例えば、北米や欧州の企業は、中国での提携を減らそうとしています。この重点の見直しには、地政学以外にも、国内総生産(GDP)成長率の鈍化や、一部業種では中国で事業を営むために外国企業が合弁事業を設立する必要がなくなったことなど、複数の要因が反映されている可能性があります。
同時に、北米や欧州の企業は、国家安全保障、グリーンエネルギー、産業政策上の優遇措置を背景に、より自国に近い地域での提携も検討している可能性があります。
中国とインド以外のアジア太平洋諸国の多くも、北米、欧州、中東および自地域で合弁事業を増やす計画です。一方、ラテンアメリカ企業は、北米、欧州、そしてラテンアメリカ地域内での事業拡大を検討しています。こうした計画には、地政学的な変化と成長機会の両方が影響していると考えられます。

戦略の強化
急速に変化する世界で機会とリスクを検討する幹部のうち、地政学的リスクが高まる中で既存の合弁事業を運営し、将来の目標を実現する準備が十分にできていると答えたのは23%にとどまりました。過半数(70%)は、ある程度の準備はできていると答え、8%はまったく準備ができていないと答えました。
将来の成功を最大化する最善の方法は、回復力を組み込んだ戦略を立てることです。今後締結する国境を越えた合弁契約には、何らかの保護策を盛り込むべきです。また、既存の合弁事業でも、すべてのパートナーを守る新たな仕組みを整えることができます。特に、現在の国際環境で国境を越えた合弁事業のパートナーが成功するため、次の5つの実践策を推奨します。

1. 起こり得る地政学的変化を踏まえ、合弁事業戦略と事業計画をストレステストする
既存の提携における選択肢を検討する場合も、新たな合弁事業の実現可能性を評価する場合も、より不安定な将来を想定したシナリオ分析を、意思決定プロセスの重要かつ継続的な一部とすべきです。
2. 国境を越えた合弁事業のあり方は地域によって異なると認識する
パートナーは、各国固有の社会的、政治的、法的、財務的な枠組みを理解する必要があります。合弁事業における文化の違いは長期的な影響を及ぼす可能性があり、初期段階の交渉から提携期間全体にわたって作用します。
3. 法的枠組みによらない保護策とエスカレーション経路を備えた強固なガバナンス体制を構築する
法的な合弁契約の範囲を超える保護の仕組みは、国境を越えた合弁事業において最も価値の高い安全策の一つです。調査対象の幹部のうち32%は、こうした保護策が過去10年間で重要性を増したと答え、44%は、法的な保護策と同等以上に重要だと考えています。

4. 現地の管轄地域で深い個人的関係を築く
外国側のパートナーは、現地の相手との関係が悪化した場合に備え、政府機関に加えて、他の顧客やサプライヤーとも直接的な関係を築く必要があります。
5. 各当事者の明確な撤退計画を契約で定める
どのパートナーも実行可能な撤退手段を失ったり、価値を取り残したまま撤退を余儀なくされたりしないようにするうえで、撤退計画はかつてないほど重要になっています。すでに提携していて、リスクが高まる世界では撤退計画が不十分だと感じる場合、機会を捉えて当初の合弁契約を再交渉することもできます。例えば、パートナーと新市場への進出を望むなら、それをきっかけに特定の条件を変更し、より強固な撤退の仕組みを策定できます。
強固な体制を備えた合弁事業は多くのストレスに耐えられますが、すべてのパートナーは十分に保護されていることを確認し、過去のルールを将来の不確実な世界に合わせて見直す必要があると認識しなければなりません。


