過去25年間でOECD諸国の労働力参加率の男女格差は縮小したものの、起業する女性の割合は依然として低い。
新たな報告書「OECD・欧州委員会『Missing Entrepreneurs 2017』」によると、2016年には、自営業者である割合は男性のほうが女性より平均1.7倍高かった。OECD諸国では、この格差はメキシコとチリの1.1倍から、アイルランドの3.1倍まで幅があった。同様に、起業に関する国際的な世帯調査であるグローバル・アントレプレナーシップ・モニターは、新たに事業を始める人の割合は男性のほうが女性より1.6倍高いと推計している。
また、自営業の女性は平均して、男性とは異なる種類の事業を営む傾向がある点にも留意が必要だ。こうした違いは、多くの場合、従事する業種によって説明できる。自営業の女性のほぼ4分の1は、医療・社会福祉分野や、繊維製品の洗濯・クリーニング、美容院・美容施術、身体の健康維持活動などのサービス分野で事業を営んでいる。自営業の男性でこれらの分野に従事する人はわずか5%だ。その結果、女性が所有・経営する事業は平均して、高い成長を達成し、他者のために相当数の雇用を創出することをあまり重視していないように見受けられる。
さらに、自営業の女性は男性より小規模な事業を営む傾向がある。従業員を雇用したり、チームで事業を運営したりする割合は、男性の3分の2にとどまる。また、女性起業家は平均して、男性起業家より週当たりの労働時間が短い。
それでも、女性が所有する事業は男性が営む事業と同程度に持続可能だ。多くのOECD諸国では、女性が所有する事業の存続率は男性が所有する事業とおおむね同じであり、ほかの国々でも存続率の格差は小さい。
起業における男女格差の原因は何か
女性の起業への関与が男性より少なく、女性起業家は男性とは異なる種類の事業を営むことが多いのは明らかだ。しかし、その背景にある理由はそれほど単純ではない。
女性は起業を選ぶ動機が男性とは異なることが多く、そのため目指すものも異なる。仕事と生活のバランスをよりうまく取るために柔軟性を求める人もいれば、雇用の場で直面することのある「ガラスの天井」を避けるために事業を始める人もいる。
文化や社会的な意識も、女性の起業を形づくるうえで重要な役割を果たす。伝統的な性別役割意識によって、女性が起業活動を「女性向け」とされる職業、業種、事業分野に自ら限定することがある。さらに、性別役割意識は、人的・金融的・社会的資本など、女性起業家にとって重要な資源へのアクセスを制限することもある。
市場の失敗も、女性が起業し、成功することを難しくする。多くの起業家が挙げる最大の課題の一つは、起業に必要なスキルの不足だ。女性起業家は通常、自営業の経験が少なく、その結果、平均して経営スキルの習得が進んでおらず、事業上のネットワークも小さい。
もう一つの大きな課題は、資金調達へのアクセスだ。女性起業家は一般に資本が少なく、男性より自己資本に頼る傾向が強い。また、業種や事業規模などの特性を考慮しても、担保要件や金利がより厳しいといった、性別による融資条件の違いを指摘する研究が数多くある。女性は、創業資金を利用できると回答する割合も低い。その結果、融資を受けられないと思い込み、申請しない「借入を断念した人」になりやすい。

政策立案者に何ができるか
労働市場で個人が幅広い選択肢を持てることは重要だが、女性には実現されていない潜在的な起業能力がある傾向がある。政策立案者は、この潜在力を引き出す手助けができる。目標は、男女の起業家のあらゆる違いをなくすことではなく、動機や意図に影響する制度的要因を取り除き、女性の起業を妨げる市場の失敗を是正することだ。OECDの新たな政策概要[リンク挿入]は、政策によって起業における男女格差に対処する5つの方法を示している。
1. 制度的環境を改善する。起業家はロールモデルや社会的な環境から大きな影響を受ける。そのため、女性起業家をロールモデルとして広く紹介し、教育制度がジェンダー中立で、女性がSTEM分野(科学、技術、工学、数学)に進むことを妨げないようにすることが重要だ。家族政策や税制も重要な要素であり、女性の労働市場参加と起業の促進を目指すべきだ。
2. 起業スキル習得プログラムへのアクセスを改善する。起業スキルの習得を支援する従来の政策には、起業研修、コーチングやメンタリングのプログラム、起業家ネットワークの構築支援などがある。こうしたプログラムは、女性が直面する特有の障壁に合わせて設計され、女性のみを対象とするグループに提供されることが多い。
3. 融資保証の活用を拡大する。女性起業家の資金調達へのアクセスを改善する政府の政策の多くは、助成金、融資、マイクロクレジットを提供する施策に重点を置いている。融資保証を通じて銀行融資へのアクセスを改善する動きも広がっている。カナダで女性を対象とした融資保証を評価したところ、一般的なプログラムよりも多くの雇用を生み出すことが示唆された。また、欧州連合諸国のプログラムも、プラスの効果を示す傾向がある。
4. 女性が事業の成長可能性を実現できるよう支援する。起業政策では、高い成長可能性を持つ事業を立ち上げ、成功裏に運営するために必要なスキルを女性が習得・向上できるよう支援することが重視されつつある。一つの方法は、女性のみを対象とするビジネス・インキュベーターやアクセラレーターのプログラムを通じて、ニーズに応じた支援を提供することだ。こうしたインキュベーターは通常、施設、ネットワーキングの機会、研修、ワークショップなど、一般的なビジネス・インキュベーターの支援を提供するが、女性起業家のニーズに合わせて内容を調整し、支援を受けやすくする。米国での経験からは、女性に特化したインキュベーターのほうが、男性中心のネットワークに依存し、女性のネットワークに働きかけず、男性が大半を占める選考委員会で起業家を選び、女性のニーズに対応しないジェンダー配慮に欠けるプログラムを提供する一般的なインキュベーターよりも効果的である可能性が示唆されている。
5. 女性起業家のリスク資本へのアクセスを改善する。ベンチャーキャピタル市場もエンジェル投資市場も男性が主導しており、投資はSTEM関連分野のような男性が多い業種に集中する傾向がある。米国での実験では、投資提案の内容が同じでも、投資家が男性起業家に投資する可能性は女性起業家より60%高いことが示されている。これは、投資家に事業を売り込む女性起業家は、性別を理由に成功の可能性が低くなると見込まざるを得ないことを示唆している。男女の均衡を改善する方法として、従来のベンチャーキャピタルやエンジェル投資家のネットワークに女性投資家やアドバイザーを増やすこと、女性が主導し、女性が所有する企業への投資を特に目的とした女性向けベンチャーキャピタルファンドを設立することが挙げられる。たとえば、女性が所有または主導する新興企業、立ち上げ初期段階や事業拡大段階の企業への投資に対するマッチング資金を提供するなど、女性に重点を置いたベンチャー投資の設立を促す公共政策による支援も期待できる。


