ヘルスとヘルスケア

日本における、がん医療の進化と社会のレジリエンス強化

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Image: Felipe Queiroz Alves on Unsplash

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 日本ではがんの生存率は安定しているものの、さらなる向上に取り組んでいます。
  • 政府は、がん検診受診率の改善と治療のイノベーションを通じ、生存率の改善を目指しています。
  • また、企業と連携し、治療の質の向上と、がん診断後も円滑に生活や就労を続けられる環境の整備に取り組んでいます。

がんの治療法や早期発見につながる検査の開発、さらに健康な生活習慣の啓蒙活動の進展により、がん患者の予後は改善しつつあります。2026年2月、厚生労働省はいくつかのがんにおいて、5年生存率が向上していることを報告しました。2018年に新たにがんと診断された成人(15歳以上)の全国の5年生存率は、前立腺で92.5%、乳房(女性)で88.4%、子宮頸部で71.4%に達し、2016年の調査とほぼ同じ水準を保っています。一方、膵臓、多発性骨髄腫、肺においては2016年と比較して5%以上の上昇がみられ、改善の進展を示しています。

一方、がんは依然として主要な死因の一つであり、日本では死因の第一位です。1980年代以降、日本のがんの罹患数は男女とも増加し続けており、厚生労働省の2025年の報告によると、がんによる死亡は、約38万人と、全死亡数の23.9%を占めています。このような状況を踏まえ、政府や自治体、企業が連携し、がんの早期発見やより効果的な治療法の開発、さらには治療中の支援に取り組んでいます。

がん検診の推進

がんの早期発見を推進するため、日本政府は2023年度から2028年度にかけて第4期がん対策推進基本計画を実施しています。この計画は、「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」の3分野で罹患率の低減と生存率の向上を目指しています。

「がん予防」の分野では、予防と早期発見に向けた検診受診率の向上が重視されており、受診率60%以上、精密検査受診率90%以上が目標とされています。一方、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、受診率は上昇傾向にあるものの、多くの検診で目標に届いていないのが現状です。特に乳がんや子宮頸がん検診は諸外国と比べても低い水準にとどまっています。

日本におけるがん検診は、主に職場や居住地域で実施されています。受診率の向上には、企業や自治体との連携が不可欠であり、自治体では紙ベースの手続きのデジタル化など、受診の障壁を下げる取り組みが進められています。

こうした課題に対応するため、企業同士が連携し、自社および他社の従業員をがんから守るための実践的な対策を推進する「企業コンソーシアム」も設立されています。事例共有を通じて企業内の課題解決を図り、具体的な行動につなげることで、職域におけるがん対策を社会全体へ広げることを目指しています。同コンソーシアムに参加している旭化成では、がん検診の申し込みの時期に合わせてがん予防や仕事の両立支援に関するe-ラーニングを実施し、95.7%の受講率を達成しています。

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次世代治療の開発

新たな治療法として、光免疫療法やウイルス治療などの開発も急速に進んでいます。薬剤アキャルックスとレーザー光を用いてがん細胞を選択的に破壊する治療法である光免疫療法は、日本では切除不能な頭頸部がんに対し保険適用されています。また、がんのウイルス治療は、遺伝子改変したウイルスががん細胞に感染・増殖して選択的に破壊する治療法で、正常細胞への影響を抑えつつ、免疫反応を高める効果も期待されています。岡山大学発のバイオベンチャーであるオンコリスバイオファーマは、こうした治療法の実用化に向けた承認申請を行っており、早ければ2026年中の実用化が見込まれています。

さらに、より効率的かつ選択的なドラッグデリバリー技術として、スタートアップ企業であるジェリクル株式会社による高生体適合性「テトラゲル」も注目されています。体内での分解時間を精密に制御できる特性を持ち、抗がん剤を必要な部位に届ける新たな手法として期待されています。

治療と仕事の両立支援

がんの治療により仕事を辞めざるを得ない状況は、収入の喪失につながります。一方、近年では職場での支援拡充により、がんの治療と仕事を両立するケースが増えています。厚生労働省の調査によると、通院しているがん患者の約半数が就労を継続しており、66.2%が職場から何らかの配慮を受けたと回答しています。

さらに、高度な治療へのアクセスも改善しつつあります。その一例が、量子科学技術研究開発機構が開発した、世界初となるトレーラーハウス型の移動型がん治療設備です。この設備は必要な病院へ移動可能で、高額な専用建屋を必要とせず、従来の約10分の1のコストで導入できるため、アルファ線を用いた標的アイソトープ治療をより広く提供することが可能になります。

社会のレジリエンスを支えるがん対策

これらの取り組みは、がんと診断された後も働き続けることを可能にし、個人のウェルビーイングの向上にとどまらず、労働参加の維持や生産性の向上を通じ、社会全体のレジリエンス強化にも寄与しています。早期発見の推進、治療技術の進展、職場での支援の拡充により、「がんと共に生きる社会」への転換が進みつつあります。がん対策の強化は、持続可能かつ生産性の高い社会の基盤となり、こうした取り組みを進める上で、政府、企業、医療機関を含む官民の連携は不可欠です。

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