技術の進歩と明るい未来へ、基礎研究への投資が不可欠な理由

今日私たちがその恩恵を享受する重要なテクノロジーのほぼすべてが、基礎研究に根差しています。 Image: Unsplash/thisisengineering
- 各国政府は基礎研究への投資を削減しており、その穴を産業界が埋める必要に迫られています。
- トランジスタやインターネットなど、最も画期的なテクノロジーのいくつかは、基礎研究から発展したものです。
- 基礎研究には、各国政府、産業界、アカデミアの連携が不可欠です。4つの重点分野に注力するNTT Research, Inc.の例を取り上げます。
深く掘り下げてみると、バイオテクノロジー、ロボティクス、宇宙探査、量子技術といった分野において、私たちが画期的な進展だと考えているものは、実はそれほど画期的なものではありません。多くの場合、数十年前に実施された基礎研究にその起源をたどることができ、より正確には「進化的」と表現するのが適切でしょう。
量子技術は、まさにその一例です。『サイエンティフィック・アメリカン』誌によると、オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガー氏が画期的な方程式を発表してから1世紀が経過した今も、それは「物理学者が量子の世界を直接観察することのできる最も有力な手段」であり続けています。
今日私たちがその恩恵を享受する重要なテクノロジーのほぼすべてが、基礎研究に根差しています。一方、現在、基礎研究に向けた資金は不足しており、将来の世代が重要なブレークスルーを享受できなくなるリスクに直面しています。
危機に瀕する基礎研究への資金
その性質上、基礎研究には長い準備期間が必要であり、これは短期的な利益を重視する組織の関心と相反する可能性があります。これが、国家予算が伝統的に基礎研究の主要な資金源となってきた理由の一つです。政府には長期的な視点を持つ余裕があるからです。
一方で近年、基礎研究に対する政府予算は減少傾向にあります。この現実は昨年、米国国立衛生研究所(NIH)と米国国立科学財団(NSF)が、総額約30億ドルに上る3,800件以上の研究助成金を打ち切り、または凍結したことにより、浮き彫りになりました。
これらの削減措置の多くは現在、法廷で争われていますが、それらはある傾向の継続を象徴しています。21世紀初頭、米国における基礎研究の約60%は、連邦政府によって資金提供されていました。2022年までに、その割合は40%にまで低下。同様に、経済協力開発機構(OECD)加盟国においても、企業の研究開発支出は、政府の支出よりもはるかに急速に増加しています。
基礎研究と目的指向型研究開発の違い
これは驚くべきことではないかもしれませんが、企業は一般的に、新製品や製品・サービスの改良といった特定の目標に研究を集中させている点に留意する必要があります。その研究は、特定の目標を達成することを目的とするものです。
基礎研究は、これとはまったく異なる性質を持っています。根底にある考え方は、極めて知性の高い、実績のある科学者や研究者を採用し、彼らが興味を持つ研究テーマを追求させ、その結果がどこへ導こうとも追いかけるというものです。そうすることにより、最終的に、画期的かつ重大な成果にたどり着くという信念に基づいています。
どちらのアプローチにも価値はありますが、リスクとリターンのバランスは異なります。多くの企業は、明確な市場機会を追求し、限られたリソースを集中させようとするため、前者のアプローチを好む傾向にあります。これは理にかなっています。
後者のアプローチ、すなわち基礎研究は、成果が出るまでに時間がかかり、ビジネス上の価値が生み出されないリスクもはるかに高くなります。したがってより多くのリソースが必要となりますが、成果が出ればそれは広範囲に及び、数多くのものが生まれるでしょう。つまり、単一のプロジェクトが複数の派生分野へと広がり、そのそれぞれがそれ自体として価値を持つ可能性があるのです。そして、その影響は数十年にわたって続くことがあります。
基礎研究がもたらした成果
1947年にベル研究所で発明されたトランジスタを考えてみましょう。同研究所は、基礎研究組織の卓越した例です。同研究所は、電話交換システムや伝送システムにトランジスタを活用しましたが、この発明の影響はそれ以上の広範囲に及びました。
実際、トランジスタの可能性が完全に認識されるまでには数十年を要しましたが、それは固体電子工学、集積回路、メモリチップ、マイクロプロセッサの基礎となりました。この発明の潜在能力を最大限に引き出すには、政府、産業界、アカデミアの協力が必要でした。
もう一つの典型的な例は、インターネットです。これは、米国国防高等研究計画局(DARPA)の前身である米国連邦政府の機関、先進研究プロジェクト局(ARPA)で行われた研究から発展したものです。
1960年代、ARPAの研究者たちは、同機関のコンピューターを接続するための通信ネットワークを開発。このネットワークは、以前のコンピューター科学者たちの研究から発展した、パケット交換という新たなテクノロジーに基づくものでした。
1970年代、科学者のロバート・カーン氏とヴィントン・サーフ氏は、伝送制御プロトコル(TCP)およびインターネットプロトコル(IP)を開発しました。この「TCP/IP」は新たな局面を切り開き、個々のネットワークがどこに位置していようとも、パケットがネットワーク間で流れることを可能にしました。当初は学術利用のみでしたが、1990年代初頭に商用利用が開始されると、インターネットは爆発的に普及し、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)といった主要なアプリケーションが開発されました。
明日の画期的な成果を育む投資
これらすべての成功の鍵は、イノベーションの種をまく基礎研究と、それを何年もかけて木へと育て上げる (場合によっては、多種多様な木へと成長させる) 様々な人々との組み合わせにあります。例えば、カーン氏やサーフ氏は、自分たちの研究が産業を丸ごと一つ生み出すことになるとは、想像もしていなかったでしょう。
実際に、PC、スマートフォン、インターネット、Eコマース、AIなど、今日私たちが当たり前のように利用しているテクノロジーはいずれも、基礎研究という土台がなければ実現しなかったはずです。
従来、基礎研究はアカデミアが主導し、政府の資金提供を受けて行われることが多いものでした。一方、ベル研究所の事例に見られるように、企業もこうした取り組みに参画。それが、NTTで私たちが取り組んできたことです。同社はこれまで、大規模な研究開発組織を通じて研究に投資してきましたが、2019年にはさらに一歩踏み込み、シリコンバレーにNTT Research, inc. を設立しました。ここでは主に以下の3つの分野で基礎研究を行っています。
- 物理学と情報学(PHI Lab)
- 暗号学と情報セキュリティ(CIS Lab)
- 医療とヘルスインフォマティクス(MEI Lab)
その目的は、5年から10年後に新たなビジネスを創出することを目指し、新たなテクノロジーの基盤を築くことにあります。シリコンバレーを選択したのは、優秀な研究者、教育機関、テクノロジー企業、ベンチャーキャピタル企業など、そこに存在する豊かな情報技術エコシステムを活用するためです。
このモデルは成功を収めています。同社は最近、学術機関やベンチャーキャピタルと提携し、有望な技術を市場に投入するために、「テクノロジー・デベロップメント・インキュベーション・ハブ(TDIハブ)」という新たなグループを立ち上げました。
人類のより明るい未来へ
各国政府による基礎研究への投資が減少している中、基礎研究に投資する産業プレイヤーがさらに必要とされています。TDIハブが示すように、これは単なる利他的な取り組みではありません。基礎段階から産業界が関与することにより、スケールアップのプロセスを早期に開始することができ、開発をより迅速に進めることが可能となります。
もちろん、すべての企業に基礎研究に必要なリソースがあるわけではありませんが、多くの企業にはあります。また、特定のプロジェクトなど、独自の方法で貢献できるリソースや専門知識を持つ企業もあります。
今こそ、産業界のプレイヤーがこの課題に取り組み、より大きな公益のためにリソースを投じ、人類のより明るい未来を追求すべき時です。
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