自然と生物多様性

ウェアラブルデバイスのデータは、全体像を捉えているか

2021年1月17日、英国ロンドンのリッチモンド公園を早朝に走るランナー。現代のウェアラブル機器は生理機能を追跡しますが、環境要因は無視しています

現代のウェアラブル機器は生理機能を追跡しますが、環境要因は無視しています Image: REUTERS/Toby Melville

Will Hicks
Co-Founder and Chief Scientific Officer, Air Aware Labs
Louise Thomas
Co-founder and Chief Executive Officer, Air Aware Labs
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 自然と気候
  • ウェアラブル機器は、パフォーマンスや回復、健康に大きく影響する大気汚染、熱、騒音などの環境要因を間もなく計測できるようになるでしょう。
  • 研究によると、短期的な大気汚染曝露は心拍数変動性の低下、心房細動リスクの増加、競技記録の低下と関連しています。
  • 環境曝露を認識するプラットフォームは、個人の能力強化、公平性の向上、都市計画への情報提供、大規模な予防医療の実現を可能にします。

私たちは、個人の生理機能を追跡する時代に入りました。ウェアラブルデバイスは、心拍数、睡眠、最大酸素摂取量(激しい運動時に身体が利用できる酸素の最大量)を驚くべき精度で計測します。ただし、それらは物語の半分しか捉えていません。

データを表示するダッシュボードは、体内で起きていることを教えてくれますが、環境という健康の要素が欠落しているため、その根本的な原因を説明することはできないからです。

健康と幸福に重大な影響を及ぼすにもかかわらず、見過ごされがちですが、清潔な空気は、健康的な生活の基本です。通勤時の大気質、ランニング時の気温、花粉量、信号待ちで吸い込んだディーゼル微粒子など、目に見えない環境要因が、私たちの体調、パフォーマンス、レジリエンスを形作っているのです。

ウェアラブルデータの盲点

このデータの盲点は根本的な分析上の欠陥であり、ウェアラブルAIの可能性を大きく制限しています。

研究では繰り返し、微小粒子状物質(PM2.5、すなわち直径2.5マイクロメートル未満の空気中の微細な固体または液体粒子)への短期曝露が、心臓の健康状態を示す重要な指標である心拍変動の急激な低下と関連していることが示されています。

別の研究では、二酸化窒素(NO2)への短期曝露が、心房細動による通院の増加と関連していることが示されています。さらに、大気汚染レベルが高い時にトレーニングや競技を行うアスリートは、レースタイムが遅くなる傾向があります。

このデータは、アスリートが経験からすでに知っていることを裏付けています。同じアスリートが同じレースプランで走っても、外部環境によって結果が大きく異なることがあるのです。これは、ウェアラブルデバイスのデータでは捉えられません。

このような背景を考慮しなければ、原因の誤認、トレーニングプログラムの過剰な修正、あるいは回復に過度に集中するといったリスクが生じます。真に効果的な解決策は、より安全なルートへの変更、トレーニング時間の調整、あるいは耳栓の着用をリマインドするシステムの導入など、根本的な対策を取ることです。

ウェアラブル機器側の適応

よりホリスティック(全体論的)かつ先を見据えたデバイスは、わずかなパフォーマンス向上よりも健康を優先することができるデバイスです。例えば、NO2濃度が低い静かな裏道を通る、少し遠回りのルートを提案する、有害な騒音への曝露を減らすためにノイズキャンセリングヘッドホンの使用を推奨するなどが考えられます。

また、通勤で汚染度の高いルートを通り、心拍変動の低下が発生した場合、プラットフォームはこれを正しく解釈し、一般的な「休息日」アラートではなく、特定の栄養摂取、水分補給、あるいは単に曝露回避といった、対象を絞った個別対応策を助言することができるでしょう。

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価値を複合化する方法

環境健康負荷は均等に分布しているわけではありません。ただし、曝露データの統合により、真に個別化された公平なガイダンスが可能となります。

例えば、ウェアラブルデバイス事業者ストラバの「ストラバメトロ」は、匿名化された移動データを集約し、ビッグデータとして提供。都市計画者や研究者は都市設計に影響を与えるために必要な洞察を得られ、人々がどのように、どこを移動しているかを都市が理解する手助けをします。

陸上競技の国際競技連盟、ワールドアスレティックスは、ナイジェリアのラゴスとポーランドのワルシャワにおける「ランニング・フォー・クリーンエア」キャンペーンに同データを活用しました。また、英国のグラスゴーでは、ストラバメトロのデータが研究者によるクリーンで安全なサイクリングルートの投資効果最大化地点の特定に役立ちました。

この同じ原理が、AIを活用して健康データを分析するエア・アウェア・ラボ(Air Aware Labs)の取り組みの基盤となっています。環境曝露データをストラバの活動データと連動させることにより、アスリートは過去の曝露状況を振り返り、よりクリーンなルートを選択できるようになります。

環境と健康に向けた具体像

幸いなことに、環境と健康を追跡し、統合するための新たなウェアラブルデバイスは不要です。エア・アウェア・ラボでは、高解像度の大気質モデリングを、健康に関連する知見と日常生活や運動における曝露を意識したガイダンスに変換する、モバイルアプリ「AirTrack」を開発しました。

同アプリは、個人、企業、ぜんそくと肺疾患のための資金調達を行う公益法人「Asthma + Lung UK」のランナーたちによって、すでに利用されています。データは、APIを介して既存のウェアラブルデバイスやアプリに直接入力可能。これにより、個人の環境健康データが心拍数、睡眠、トレーニングデータと並んで表示されます。

私たちのアプローチは、以下の通りです。

  • 曝露を可視化する:すべての移動経路にシンプルな「曝露スコア」を追加。空気質曝露を直感的に示す指標として、重要な意識向上を促します。
  • 「場所」と「時間」を導くコーチ機能:例えば「明日の午前7時~9時は午後5時~7時よりも空気がきれいでしょう」といったマイクロナッジを提供し、汚染を避けた計画立案を支援します。
  • クリーンな選択を容易に:時間・労力・予測曝露量を考慮したルート提案を提供し、よりクリーンな経路を選択したユーザーを評価します。
  • 市民参加型のフィードバックループ構築:匿名化データを活用し、雇用主や都市計画担当者が健康被害の大きな地域を特定する支援を行います。
  • 信頼に基づく設計:機能はオプトイン方式とし、透明性とプライバシー保護を最優先とします。

個人の健康から公衆衛生へ

ここがスケールするポイントです。

雇用主・保険会社・自治体は共通の目標を共有します:実際に活用される予防策の実現です。曝露を反映したリーダーボードは、大気汚染を抽象的なリスクから共有可能なゲーミフィケーション化された課題へと転換し、健康状態や生産性指標に直接結びつけることが可能です。

ただし、より大きなインパクトは公衆衛生分野に表れます。

大気質の悪化は、グローバルな早期死亡の第四の主要リスク要因です。英国の国民健康保険サービスであるNHSのアプリや類似のプラットフォームが、予防的な介入を提供すると想像してみてください。ぜんそく患者が登校前に大気質警報を受け取る、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者が汚染レベル上昇時に予防的に吸入器使用を提案される、などです。

これが「データ駆動型予防医療」です。急性症状の回避、入院削減、レジリエンスの構築を実現するでしょう。

大学は科学的研究を継続し、俊敏なスタートアップ企業が検証・展開を担います。国家システムが拡大準備を整えるまで、研究と実社会での活用を橋渡しする役割です。

「見えないもの」の可視化

ウェアラブルデバイスとデジタルプラットフォームは、私たちの動き方だけでなく、どこで動くか、いつ動くかについても助言することが可能になりました。

研究者や都市計画者は、こうした知見を健康的な都市設計へと転換することができます。雇用主や保険会社は、健康増進の一環として曝露を意識した選択を評価し、ループを閉じる役割を担えます。エア・アウェア・ラボのようなスタートアップは、このギャップを埋める接続組織、アルゴリズム、APIを構築しています。

生理学は「何が起きたか」を、環境保健学は「なぜ起きたか」を解明します。 パフォーマンスから予防へ焦点が移る時、手首に装着したデバイスのデータが、より健康で長寿な人生の設計図となるのです 。

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