消費者のサステナブルな選択は、なぜ難しいのか

消費者にサステナブルな製品に割増料金を支払う意思があっても、そうしないのはなぜでしょうか。 Image: Unsplash/Getty Images
- 多くの消費者は、意識が高く、サステナブルな製品には追加料金を支払う意思があると述べていますが、実際の購買行動は異なる現実を示しています。このギャップは「意図と行動のギャップ」として知られています。
- 市場は構造的に従来の商品が有利になるように設計されており、消費者にとってサステナブルな代替品を選ぶことは「流れに逆らって泳ぐ」ような感覚を伴います。
- 2026年3月15日の「世界消費者権利デー」のテーマは、「Safe Products, Confident Consumers(安全な製品、自信を持って選択できる消費者)」です。これは、消費者には信頼が不可欠であり、サステナビリティに関する主張への確信がなければ、慣れ親しんだ製品に戻ってしまうことを強調しています。
例えば、あなたがスーパーマーケットで買い物をしているとします。乾燥パスタのパッケージに手を伸ばしますが、普段選んでいるものの隣に、見たことのない製品があります。価格は少しだけ高く、オーガニックのラベルが貼られており、責任ある調達とリサイクル包装を約束しています。よりサステナブルな選択を心がけているあなたは、どちらのパッケージを選ぶでしょうか。
この日常的なジレンマは、2026年の「世界消費者権利デー」にあたり、表面化しつつある大きな課題を象徴しています。持続可能性への意識はかつてないほど高まっており、商品の持続可能性に関する主張も広く見られるようになりました。では、消費者が持続可能性を重視しているにも関わらず、なぜ持続可能な選択は依然として「例外」であり、「常識」ではないのでしょうか。
高いサステナビリティ意識と限定的な市場の変化
近年、消費者がより情報に基づいた選択をするのに役立つ、持続可能性に関する主張が拡大しています。欧州では、2005年から2020年にかけて、サステナブルな食品理念を掲げる新規消費財の割合が5%から50%近くまで上昇。調査によると、消費者の最大80%が、持続可能な方法で調達された製品に対して追加料金を支払う意思があることが示されています。
一方、市場シェアと購買決定を支配するのは、依然として従来の製品です。このことは、消費者の矛盾や非合理性として捉えられるかもしれませんが、実は、市場がどのように構成されているか、そして製品が消費者の手元に届くはるか以前から、意思決定がどのように形成されているかを反映しています。
サステナブルな選択を阻む要因
1. 意図と行動のギャップ
行動経済学の論文では、この現象を「意図と行動のギャップ」と表現しています。これは、表明された価値観と観察される行動との間の認知的な不一致を指します。これは、個人のコミットメントが足りないためではなく、価格シグナル、利便性、社会的規範、そして認識されるリスクによる予測可能な結果なのです。
価格と損失回避
例えば、パスタに上乗せされている価格は、目に見え、即座に実感でき、具体的です。一方、排出量の削減や土壌の健全性の維持といった健康、社会、環境上のメリットは、遠く離れた抽象的なものと感じられ、定量化が困難です。
損失回避の心理がこのメカニズムを説明する一助となるでしょう。つまり、小さな即時の損失は、将来の利益よりも重くのしかかるのです。その結果、すぐに目に入る価格の高さが、不釣り合いなほど大きな影響を及ぼします。
利便性と認知的負荷
スーパーマーケットでの意思決定は、自動的かつ習慣的なものです。慣れ親しんだブランドから、持続可能性に関するラベルが付いた代替品に切り替えることは、労力と摩擦を伴います。原材料表示を比較する、サステナビリティに関する主張を読み解く、信頼性を評価する、QRコードをスキャンして情報を確認する、そうした製品を探して店内の異なる売り場に移動する、などです。
研究によると、行動はわずかなデザインの変更にも敏感に反応することが示されています。英国での調査によると、植物由来の代替肉を食肉売り場に並べることで、その売上が平均23%増加したことが判明しました。
パスタの棚においては、配置、表示の明瞭さ、そして視認性のすべてが、消費者が意識的に判断を下す前に、購入の結果を左右します。
社会的規範
消費者は、規範として認識されるものにも影響を受けます。大多数の買い物客が従来の製品を選ぶ場合、サステナブルな代替品は実験的でニッチなものとして目に映るでしょう。無意識のうちに、それらを選ぶことに余計な手間がかかり、規範から逸脱するように感じられるかもしれません。
こうした行動パターンは予測可能です。ただし、それらは孤立して作用するわけではありません。より広範な市場環境によって選択が形作られています。
意図と行動のギャップを解消するには、経済的インセンティブと消費者保護の枠組みを整合させる必要があります。
”2. 市場の設計と選択肢の制約
個人の行動を超えて、構造的な市場のシグナルが結果に強く影響を与えます。
環境的、社会的外部性
温室効果ガスの排出、生態系の劣化、労働条件などが、製品価格に反映されることはほぼありません。これらの外部性が価格に反映されないままでは、持続可能性の低い商品が手頃な価格に見えてしまいます。より高い基準を内部化している製品には、明らかな価格プレミアムがついているからです。
小売設計がシグナルを強化する
従来のブランドは、規模の経済、目立つ棚の配置、プロモーション価格の恩恵を受けています。つまり、「いつもの商品」として位置付けられているのです。サステナブルな選択肢は存在しますが、構造的優位性はありません。
こうした状況下で、例えばオーガニックパスタを選ぶことは、単に個人的な意思決定の結果ではありません。それは、従来の製品を優遇する、市場に組み込まれた価格シグナルや「当たり前」に逆らって行動することを意味します。課題は、消費者がどのように振る舞うかだけでなく、市場が彼らの目の前に提示する選択肢をどのように形成するかという点にあります。
信頼できる安全な製品、自信を持って選択する消費者
では、オーガニックパスタのラベルの信頼性、その持続可能性に関する主張の真実性、そして基準の比較可能性について、さらなる疑念が生じたと想像してみてください。
研究によると、不確実性は人々を「慣れ親しんだもの」へと向かわせる傾向があります。サステナビリティに関する主張に信憑性が欠けていれば、行動は停滞します。消費者は、安全性、品質、あるいは信頼性に疑問を抱いている限り、サステナブルな製品を選ぶことはないのです。
ここで、2026年の「世界消費者権利デー」とそのテーマである「Safe Products, Confident Consumers(安全な製品、自信を持って選択できる消費者)」が重要な意味を持ちます。大規模かつサステナブルな消費を実現するためには、強力な消費者保護の枠組み、信頼できる基準、そして効果的な実施が不可欠です。
信頼がなければ、持続可能なパスタは依然としてリスクを伴う選択のままとなるでしょう。信頼があれば、自信がためらいを和らげます。
3. 意図を行動に変える構造的な解決策
サステナブルな選択肢が依然として高価で、目立たず、手間がかかるものであれば、意識を高めるだけでは市場は変わりません。意図と行動のギャップを解消するには、意思決定が行われる環境を再設計する必要があります。
これは、個人への「ナッジ(後押し)」にとどまらず、経済的シグナル、規制、インフラを整合させる方向へ進むことを意味します。
持続可能な選択を簡単かつ直感的に
表示の明確化と統一が、混乱を軽減します。また、手に取りやすさの改善は、サステナブルな選択肢を当たり前のものにするでしょう。さらに、段階的な製品基準を定めることにより、最も持続可能性の低い製品を徐々に排除し、消費者が複雑なトレードオフを繰り返し迫られることを防ぎます。
こうした再設計が有効であることを示すエビデンスがあります。ドイツでは、オプトアウト制度の下で再生可能電力が標準となった結果、加入者が69.1%に達しました。これに対して、再生可能電力を任意に選択するオプトイン制度下では、わずか7.2%でした。
インセンティブとインパクトの整合
環境コストを価格に組み込み、有害な補助金を改革し、グリーンプレミアムを削減することにより、歪んだシグナルを是正することができます。ロンドンの渋滞料金のような政策ツールは、コスト構造を調整することで、行動を変容させつつ、持続可能な代替案への資金調達が可能になることを示しています。
目的は選択肢を排除することではなく、価格とシグナルが実際のコストを反映し、消費者が自身の価値観に沿って行動できるようにすることです。
サステナブルな選択を自然な選択に
持続可能な消費は、意識向上だけでは拡大しません。意図と行動のギャップを解消するには、経済的インセンティブと消費者保護の枠組みを整合させる必要があります。
パブリックセクターと企業がシステムを再設計し、持続可能な選択肢が「困難な代替案」ではなく、簡単で、目に見え、手頃な価格の標準品、すなわち、自然な選択のできる選択肢になれば、これが完全に実現されるでしょう。
サステナブルな選択を「自然な選択」にするということは、責任を消費者に転嫁することではありません。それは、ゲームのルールを再設計することです。基準が信頼でき、インセンティブが整合され、標準が再調整されれば、市場は消費者の意図に逆らうのではなく、それに沿って機能するようになるでしょう。
2026年の「世界消費者権利デー」は、消費者の信頼は情報だけで築くことはできず、信頼を合理的なものにし、サステナブルな選択を現実的なものにする仕組みによって築かれるということを、改めて意識する機会です。
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