地域社会を支える、新しい図書館のかたち

日本の図書館は、今や本を貸し出すだけの場所ではありません。 Image: Photo by Hendrik Schuette on Unsplash
- 図書館は今、社会的包摂を促進し、健康長寿を支え、社会全体のレジリエンスを高める基盤インフラとして再定義されつつあります。
- 単なる情報提供の拠点を超え、イベントや対話の場を創出することで、人々が家庭の外へと踏み出し、知的・身体的活動に参加する機会を広げています。
- こうした文化インフラとしての図書館は、コミュニティの結束を強化し、ウェルビーイングを高め、将来の不確実性に備える社会を構築するための戦略的アセットへと進化しています。
人と人のつながりを育み、地域に新たな活力を生み出す拠点として、いま日本の図書館が静かに進化しています。
厚生労働省が2023年に行った「国民健康・栄養調査」によると、日本において地域住民同士が助け合っていると感じている人は41.5%、「地域のつながりが強い」と感じる人は31.6%にとどまっています。これらは、2015年、2019年の調査結果より低い水準となっています。
65歳以上の人口が29.4%を占め、世界でも最も高齢化が進んでいる国のひとつである日本では、高齢者の健康寿命の延長が喫緊の課題となっています。その対策の一つとして、地域のつながりの強化があります。ある研究によると、地域活動に参加している人は、参加してない人に比べ要介護になる割合が約18%減少し、長寿の可能性が22%高まることが示されました。こうした結果から、地域交流は、コミュニティ運営だけでなく、健康状態にも影響を及ぼすことが示唆されています。
また、別の大規模調査によると、図書館資源が充実している地域ほど、要介護認定を受ける住民の割合が低い傾向にあることが示されました。京都大学と慶應義塾大学による同調査は、65歳以上の高齢者7万以上を対象に、7年以上の追跡調査を行なったもので、人口1人当たりの蔵書数が10冊多い地域では、機能障害リスクが約34%低い傾向がみられました。さらに、図書館が1館増えるごとに、機能障害リスクが48%低い傾向が確認されています。こうした結果の背景として、図書館が本やイベントを通じた情報を発信する場であること、人々の交流拠点となっていること、さらに外出のきっかけを生み出し、身体運動の機会を提供していることが指摘されています。
こうした背景のもと、日本では図書館が本を借りる場所にとどまらず、地域のつながりを育む拠点として再評価されています。社会のレジリエンスを支えるインフラとして再構想する試みも、各地で進んでいます。
地域交流を活性化する図書館の存在
山梨県富士川町では住民からの要望を受け、新たに完成した合同庁舎内に町として初となる町立図書館を開館しました。2023年7月の開館以降、同図書館は1日平均110人が訪れる地域の交流拠点となっています。さらに、合同庁舎のエントランススペースでは定期的に地域イベントも開催されており、住民の交流や多様な情報を発信する場として、地域全体に新たなにぎわいをもたらしています。
また、医療に関する情報発信を戦略的に行なっている図書館もあります。兵庫県豊岡市のコミュニティー図書館「大開文庫(だいかいぶんこ)」は、本を通じて誰もが気軽に集える「たまり場」を目指し、医師の森本陽一さんが2020年に開設。医療専門職による相談機能も備えており、相談者を地域活動やカフェなどにつなぐ「社会的処方」を実践しています。これまでの利用者は約1万9,000人、相談室の利用者は1,000人を超え、元利用者が運営に関わるなど、新たな役割や交流も生まれています。また、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)のプロジェクトでは、公共図書館と協力し、大学院生による健康相談会を共催しています。
また、「一箱本棚オーナー制度」を採用し、誰もが図書館作りに参加できる取り組みも注目を集めています。静岡県焼津市をはじめ、全国50箇所以上で展開する「みんなの図書館さんかく」では、自分の興味や関心を集めた本棚を作ることができ、本を読んだ人からのメッセージで新たなつながりが生まれ、交流が活発化しています。
企業との連携によりサービスを拡張
さらに近年では、企業との連携が、図書館サービスのさらなる充実を後押ししています。
子どもの居場所づくりを展開するNPO法人のカタリバは、2024年からサントリーホールディングスによる寄付を受け、ユースセンターの拡大やユースワーカーの育成を推進しています。その一環として図書館運営を行うTRCの協力のもと、東京都杉並区の公共図書館にてユースセンター活用の実証事業を開始し、全国展開可能なモデルの開発を目指しています。
また、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社は、沖縄県中部の読谷村に開設した読谷村立図書館の内装工事を担い、「賑わい」「集中」「学びへの誘い」「キッズ」といったコンセプトを空間で演出。さらに同図書館の運営をデジタル化し、携帯アプリとの連携によってサービスを効率化するほか、地域住民や近隣に位置する沖縄科学技術大学院大学や読谷村史編集室と年間150件以上のイベントを開催することで、さらなる地域の交流を促進するとしています。
図書館を通じて地域のレジリエンスを高める
地域の新たなつながりが模索される中、図書館の役割が本を貸し出すだけの場でなく、社会的つながりを創出するインフラが進化しつつあります。図書館を拠点として、地域の交流を再生・強化する取り組みは、より包摂的かつレジリエントな社会を実現するための具体的なモデルの一つとして、期待が高まっています。
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