AIの進化に合わせて必要性を増す、人間のクリエイティブ

クリエイティブ産業の専門家には、AIをより健全な方向へと導き、より良い文化的成果をもたらす責任があります。

クリエイティブ産業の専門家には、AIをより健全な方向へと導き、より良い文化的成果をもたらす責任があります。 Image: Unsplash/Kelly Sikemma

Yasuharu Sasaki
Global Chief Creative Officer, dentsu
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2026
  • 2026119日から23日にかけて、世界経済フォーラム年次総会に世界のリーダーたちが集結し、AIをはじめとする新興テクノロジーの倫理的な活用が、現実世界の課題解決にどのようにつながるかを議論します。
  • 安易なAIの活用がブランドの画一化を招く恐れがあり、アルゴリズムではこれを防げません。これに対処するには、より深い創造性と人間的な資質が求められます。
  • クリエイティブ人材は、AIと人間性の両方に精通した存在であるべきです。自動化を活用すると同時に、人間性を探求し、驚きに満ちた人間中心のイノベーションを生み出すことが求められます。

AIで誰でも簡単に文章や動画が作れる時代になりました。一方、ソーシャルメディア上にはAIによる美しい創作物だけが並ぶわけではなく、偽動画や、品質の低い広告も溢れています。

AIは産業革命やインターネットの誕生に匹敵する大きな変化であり、「AIスロップ(AI slop)」は変革の幼年期にありがちな課題なのかもしれません。紙とペンが発明されたときにも、同じような問題は起きていた可能性があります。しかしクリエイティビティ産業に携わる者としては、この変化をただ眺めているのではなく、より健全な方向に、良い文化につなげていく責任があると感じます。

均質なAIの危険性

AIはマーケティングの効率を高めることができる重要な道具になりました。しかし安易なAIの活用は、効率化だけでなく「均一化(sameness)」にもつながります。アルゴリズム時代において、平均的であることは最も避けるべきことですが、このままではAIによって似たような広告表現、似たようなプロダクト、似たような生活提案が並び、人々はあっというまにそのようなものに飽きていくでしょう。アルゴリズムが最適化しているのは、生活者の今この瞬間の要求に対するものでしかなく、長く続くブランドへの「Love」を生み出すことにはつながりにくいのです。

電通では毎年、世界中のChief Marketing Officer(CMO)へのヒアリング調査を行っていますが、今年の結果からは、CMOたちの危機感が感じ取れます。79%のCMOが「AIでアルゴリズムに最適化することで、どのブランドも似かよったものに見えてしまうリスクがある」と同意しており、87%のCMOが「現代の戦略には、より高度なクリエイティビティや人間性が必要になる」と感じています。

AIの議論はテクノロジーと効率の話になりがちであり、クリエイティブに関わる者はその議論に加わらないことも多いですが、それは将来的に大きな問題につながる可能性があります。私たちはAIの到来を楽観視せず、より積極的にAI議論やAI開発にコミットして、人間の個性、文化的共鳴、感情的知性が中心であり続ける未来の創造を目指すべきです。

クリエイティビティにおけるリーダーシップの再定義

商業的効果と文化的影響のバランスを保ち、ブランドの長期的な成長をサポートするために、私たちは広告コミュニケーションのクリエイティビティのリーダーシップを再定義する必要があります。

今後クリエイティブに関わる者は、AI-NativeかつHuman-Nativeになるべきです。AIを深く理解し、AIが生活者にもたらす気持ちの変化や、AIによる文化の変容を予測できるように急ぐ。その上で、AIの活用によって余った作業時間をさらなる人間性や文化の探求に用い、これまで触れられていなかった深い感情の機微に触れられるように、人中心の驚きのあるイノベーションを迅速に創造できるようにならなければなりません。マーケティングの短期的効率化だけでなく、長期的にブランドが愛されるようになるために動くべきなのです。

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AIが高度化するほどに、私たちは「人間らしさ」を切望するようになるでしょう。これからのブランドも、短期的に効率よく成長をしつつ、長期的に人々から愛される存在であるために、「人間らしい」側面を持つべきです。すなわち、「必ず良い未来をつくる」というようなブランドの強い意志、不完全であるけれども愛せるキャラ、意外性のあるストーリー、そしてそのブランドらしい文化を持つことで、より信頼が深まります。ブランドを信頼し、愛した人たちからは、積極的な参加や行動を引き出すことができるでしょう。

そのために、クリエイティブの仕事は、表現をつくる職人としてだけでなく、ブランドの人間らしさを構築する「建築家」的な仕事に進化していきます。AIを使い倒し、人の気持ちを深く理解し、クライアントの経営層にブランドに人間性を持たせるための戦略を語り、事業領域からコミュニケーション領域まで幅広い領域で意外なイノベーションを生み出す。そうすることで、「商業における勝利」と「文化における勝利」という二つの必須要件のバランスを保つことができるのです。

これからはAIがすべてを完璧に整えていきます。我々の仕事は、その整いすぎて少しつまらなくなったものを、人間らしく再構築して面白くすることに集中するべきなのです。

AIやテクノロジーを活用しつつ、短期的な効率の向上ではなく、社会や文化、人間性を重視した事例はいくつかあります。たとえば、以下のようなものです。

  • 人々とAIがインフレと戦いながらも毎日の食卓を楽しくできるプロジェクトInflation Cookbook
  • 障害を持つ方々のクリエイティビティをテクノロジーで解放するProject Humanity
  • 7年前から今も続くプロジェクトであり、AIでマグロの流通を量から質へと変革させ、資源保全にもつなげようと試みるTuna Scope

AIと人間の協業についても今後は一段階深く進めなければなりません。ただAIに尋ねるだけでは、いくらプロンプトを工夫しても似たような表現だらけになりますが、人が持つノウハウをAIに教えることで、より独特なアウトプットが生まれるようになります。経験豊富なコピーライターが自分の力だけでコピーを書いた場合と、ChatGPTを利用して書いた場合に、どちらが性能の良いコピーを書けるかを調べた私たちの調査データによると、以下のことが明らかになりました。

  • ChatGPTを使用したときのほうが、コピーの性能スコアが下がった。
  • コピーライターのノウハウを教えたAIをつくり、そのAIと人が協業すると、人だけで書くよりも性能が高いコピーが生まれやすくなった。
  • AIと人、お互いが高め合うことが重要なのです。

人間中心のクリエイティブへ

企業やブランドはこれからも、効率を追い求めるだけでなく、人に驚きと感動を与える存在であってほしい。そのためにクリエイティブは、AIと人間の協働を深めつつも、つねに人間中心に考えるのです。美しい表現をつくるだけでなく、未来社会のハピネスのためにテクノロジーを使う。これらの考え方は、WEFの理念にも一致しているはずです。

クリエイティビティ高くAIを使えば、テキストや画像を生成するだけでなく、社会価値な価値やイノベーションも生成できるでしょう。この領域はまだまだ未開拓であり、クリエイティブな人たちこそ率先してチャレンジするべきなのです。

AI時代においては、人間的で予測不能な要素こそが最大の差別化要因となり、世の中で共有される価値となります。「AI Perfects, We Disrupt.」。これからはAIがすべてを完璧に整えていきます。我々の仕事は、その整いすぎて少しつまらなくなったものを、人間らしく再構築して面白くすることに集中するべきなのです。これまでも、クリエイティビティは文化とともにあり、文化と遊んできました。そしてAIはもはや文化の一部となりました。あとは、我々がそのAI文化をもっと遊ぶだけです。

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