不確実な時代に、旅行・観光産業が生み出す成長と希望

2025年1月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会では、世界各国のリーダーたちやイノベーターが一堂に会し、アイデアや解決策を共有しました。その中で、旅行がもたらす変革の力、つまり単なる経済エンジンとしてだけでなく、人間の本質的な営みとしての価値を改めて認識する機会がありました。

私たちは様々な事例を耳にしました。南米の若き起業家が経営するエコロッジが、今や村全体を支える存在となっている話や、欧州のある市長がテクノロジーを活用して文化的遺産を後世に継承している例などです。

これらの事例が示すのは、観光は単なる産業ではなく、文化とコミュニティ、人々の夢をつなぐ架け橋であり、不確実な時代においても、希望の火を灯す原動力であるということです。

今ほど、この希望が必要とされる時はありません。2025年にはグローバル経済における3%の成長が見込まれています。この水準は、レジリエンスの高さを示す数字ではあるものの、パンデミック前の活気には及びません。

この成長の基盤となるのは、グローバルな国内総生産（GDP）の3分の2以上を占め、全雇用の半数以上を生み出すサービス産業です。一方で現在、このセクターには負担がかかっている兆候が見られ、2025年初頭時点での世界のサービス貿易における成長率は、前年比5%に鈍化しています。

このような状況下でも、旅行・観光は共有された繁栄を促進する力強い原動力であり続けています。2025年のグローバルな旅行・観光収入は過去最高の2.1兆ドルに達すると見込まれており、これらの数字の背後には何百万もの生活と数え切れないほどの個人の変容の物語が存在します。

現在、このセクターはグローバルGDPの10%以上を占め、世界中で3億5,000万人以上の雇用を支えています。世界経済フォーラムの最新調査によると、この数字は2034年には4億3,000万人にまで増加すると見込まれています。また、特に雇用機会へのアクセスが限られている地域において、女性や若者にとって重要な雇用源となっています。

一方、観光の可能性を最大限に引き出すためには、現実の課題に正面から取り組む必要があります。このセクターを規制する多くの枠組みは時代遅れであり、観光産業を支えている地域社会や労働者たちのニーズが見落とされている傾向にあるのです。

現在、主要観光地の大半で混雑が課題となっています。また、住宅不足、インフラの負担、社会的結束の弱体化は深刻化。さらに、不安定なエネルギー価格、労働力不足、デジタルインフラの整備状況の格差などが、成長のモメンタムを一層鈍化させる恐れがあります。

観光業が環境に与える影響にも、対処が必要です。観光が人々を魅了する目的地を守り続けるためには、単に環境への悪影響を最小限に抑えるだけでなく、積極的に自然資源の回復と保護に取り組む必要があります。責任ある低炭素型かつネイチャーポジティブな成長モデルは、今や単なる理想ではなく、不可欠なものなのです。

幸いなことに、革新的な取り組みがすでに各地で生まれています。ラテンアメリカでは、地域コミュニティ主導の観光事業が生物多様性の保護と雇用創出を同時に実現。アジアでは、新たなデジタルツールが小規模事業者やスタートアップ企業が世界中の顧客にアクセスする手助けをしています。

また、ヨーロッパ全域では、都市がテクノロジーと官民連携を活用し、観光客の体験価値向上と住民の生活の質向上の両方を実現しています。これらの事例は、ステークホルダーが連携することにより、課題をチャンスに変え、より持続可能かつ包摂的な繁栄を実現できることを示しています。

このような解決策を拡大するためには、セクターや国境を越えた協力が不可欠であり、経済成長と環境保護、社会的結束のバランスを取る必要があります。観光開発が気候変動対策の公約、地域社会の福祉、透明性の高いガバナンスと整合性を保つことは、信頼とレジリエンスを構築する上で極めて重要です。

旅行・観光業界に溢れるエネルギーとイノベーションは、確かな希望の源です。今こそ、政策立案者、ビジネスリーダー、旅行者、そして受け入れ側の人々が一丸となって取り組むべき時です。私たちが協力し合うことで、この素晴らしい産業は、文化や人々、そして多様な視点をつなぐ架け橋として、地域社会を支え、新たな機会を創出し、次世代への共有の進歩を促す梯子であり続けることができるでしょう。