イノベーションが変革する、ギリシャのエネルギーシステム

化石燃料からのエネルギー転換に成功したギリシャの事例は、戦略的かつ他国における再現が可能なモデルを提供しています。 Image: Unsplash/Ivan Karpov
- ギリシャは主要な褐炭事業拠点を、大規模なクリーンエネルギーと技術革新のハブへと転換中です。
- この野心的な国家エネルギー転換は、労働者の社会的公平性を維持しつつ、経済的実現可能性と気候目標を優先しています。
- 化石燃料からの転換を図るギリシャの事例は、他国に転換を促す戦略的かつ再現が可能なモデルとなるでしょう。
数十年にわたり、ギリシャは家庭への電力供給、北部都市の暖房、経済活動の燃料として低品位炭である褐炭に大きく依存してきました。化石燃料の環境コストと代替エネルギーの実現可能性が明らかになってきたことから、同国は持続可能なエネルギーへの断固たる転換に乗り出しました。この転換の驚くべき経緯は、化石燃料に依存した過去が、いかにクリーンエネルギーの現在と未来へと転換できるかを示す教訓となります。
出発点は褐炭、コスト、気候変動への取り組み
褐炭は長い間、ギリシャの電力構成の中核を担ってきました。2010年には電力消費量の60%以上を褐炭由来の電力が占めており、国家電力システムの基盤となっていました。しかし、これには代償が伴いました。
褐炭はエネルギー含有量が最も低く、炭素強度が最も高いことから、最も非効率な化石燃料です。炭素排出にコストを課す欧州連合(EU)排出量取引制度(EU ETS)により、褐炭発電は採算が取れなくなりました。さらに、老朽化した発電所には多額の投資が必要でした。
一方、技術の進歩と規模の経済により、再生可能エネルギー(特に太陽光発電と風力発電)はコスト競争力を獲得しています。
こうした背景から、同国は最新の国家エネルギー・気候計画において、2028年までに褐炭発電を完全に廃止する目標を掲げました。国内最大の電力会社であるPPCは、経済的要因からこの期限を2026年へと前倒ししています。ただし、この課題は技術的な側面だけでなく、深く社会的な側面も伴っています。
課題は社会的、経済的転換
同国のコザニ市とその周辺地域は、褐炭生産の代名詞となっていました。何十年もの間、この地域の経済とアイデンティティは採掘と発電を中心に展開。バリューチェーン全体と地元企業、公共サービスのすべてがこの産業に依存していたのです。
褐炭の段階的廃止は様々な課題を生み出しました。数千の雇用が石炭産業に結びついており、地域暖房は発電所からの熱に依存し、同地域には同規模の代替産業が存在しません。住民にとって褐炭は単なる燃料ではなく、生活様式そのものでした。公正な移行には新たな電源だけでなく、人々に新たな機会を提供することが不可欠でした。
解決策はクリーンエネルギー、技術拠点への転換
同国のエネルギー転換の中核はコザニとその周辺地域にあり、今やこの地域は再生の象徴となっています。同社はこの変革を主導し、物理的な景観と地域の経済的未来を以下の様々な方法で再構築しています。
旧褐炭採掘地の再利用
広大な褐炭鉱山地域が、欧州最大級の再生可能エネルギークラスターへと転換中です。コザニ周辺の再生土地には2ギガワットを超える太陽光発電所が開発され、電力システムの柔軟性を確保するため蓄電池、揚水発電所、ガス発電所が併設されます。
インフラとテクノロジーへの投資
再生可能エネルギーに加え、同社はより広範なクリーンエネルギーエコシステムを支えるインフラにも投資しています。具体的には、先進的な送電網接続設備と、旧アギオス・ディミトリオス発電所跡地に建設中の最新鋭データセンターです。初期容量は300メガワット。専用電源を備えたこのデータセンターは、電力需要の増加が一般の電力消費者に影響しないようにしています。さらに、地域の成長だけでなく、EUの競争力とデジタル主権の強化にも寄与するでしょう。
新たな経済機会の創出
同社の投資計画は、建設期間中および長期的な運用、保守において、数千の雇用を創出します。また、以前の褐炭鉱山労働者が新たな役割へ移行できるよう、再訓練イニシアチブも支援しています。
包摂的な移行の確保
同プロジェクトでは、地域参加と共有価値創造のための革新的な仕組みが導入されています。同社はコザニ住民を対象とした500万ユーロのソーシャルボンドを発表。保証付きかつ8%の固定利回りを提供し、地域社会がクリーンエネルギー転換に直接投資し、その恩恵を共有することを可能にします。地域熱供給システムもクリーンな代替エネルギーで近代化され、基本サービスには手頃な価格維持が保証されます。
環境的便益の提供
旧褐炭採掘場を再生可能エネルギー拠点へ転換することで、明確な環境的利益がもたらされます。プロジェクトの実施を通じて、数百万トンの二酸化炭素排出を回避し、同国の脱炭素化目標達成に貢献することが期待されています。さらに同社は、8,000ヘクタールの土地の再生に積極的に取り組み、劣化した地域を持続可能な空間へと転換し、生物多様性と地域社会の活用を支援しています。
ギリシャの経験から得られる教訓
この事例は、石炭からの脱却が単に一つの燃料を別の燃料に置き換えることではないことを示しています。変革は、技術的、運営的なものにとどまらず、戦略的かつ深く文化的であると言えます。ここから得られる主な教訓は、以下のとおりです。
- 化石燃料からの移行には、ビジネスモデルと戦略的方向性の包括的な再設計が必要である。褐炭が重要な役割を担っていたモデルから、再生可能エネルギー、デジタルサービス、柔軟なインフラを中核としたモデルへと移行したことは、企業戦略の根本的な再構築を意味します。
- イノベーションと技術は、新たな成長源と価値を解き放つ重要な推進力である。鉱山を太陽光発電所へ再利用し、大規模蓄電システムを導入し、データセンターへ投資する事例は、テクノロジーによって既存資産を新たな成長エンジンへと転換できる好例です。
- 新たな事業分野を開拓し、必要な能力を構築するには、深い内部変革が不可欠である。75年にわたり、同社の使命は、ギリシャ社会の機能と発展を支える不可欠な電力インフラを構築することでした。今日、この卓越したエンジニアリングの伝統は、重要インフラ、クリーンエネルギー開発、デジタル接続性という新たな分野へと応用されています。
- テクノロジーの進歩と外部市場環境は、明確な市場シグナルを通じて企業の目標を支える必要がある。EU排出量取引制度などの仕組みは、炭素の環境コストが確実に市場に適切に反映されるようにするものです。競争力のある再生可能エネルギー技術と同時にこのような仕組みがあることにより、持続可能な投資条件が創出されるでしょう。
- 支援的な規制環境は極めて重要である。認可手続きの簡素化と新興テクノロジーに対する効果的なインセンティブが、抜本的な変革を可能にします。
コザニでは、かつての石炭採掘地が再生可能エネルギーの集積地、デジタルハブ、イノベーションの拠点として生まれ変わっています。この取り組みは進行中ですが、メッセージは明確です。イノベーションと投資により、ギリシャはエネルギー転換が成長を促進すると同時に、将来の世代に向けた繁栄と持続可能性を確保する好例となるでしょう。
本ケーススタディ『PPC Group: From lignite to innovation — Kozani’s just transition to a clean energy and technology hub(PPCグループ:褐炭からイノベーションへ ― コザニ市のクリーンエネルギー、技術拠点への公正な移行の事例)』は、世界経済フォーラムの「レスポンシブル・リニューアブルズ・インフラストラクチャ・イニシアチブ」と連携して実施されたものです。同イニシアチブは、責任あるインフラ整備の実践を主流化することにより、地域社会と自然環境に恩恵をもたらすと同時に、再生可能エネルギー基盤の迅速な整備を促進することを目的としています。ケーススタディの詳細は、こちら。
世界経済フォーラムによる石炭からクリーンエネルギーへのエネルギー転換推進に関する詳細は、こちら。
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