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信頼に基づく連携~都市がゼロからイノベーションを生み出す方法~

都市におけるイノベーションを成功させるためには、プロジェクトが共通の目的を持ってスタートすることが不可欠です。

都市におけるイノベーションを成功させるためには、プロジェクトが共通の目的を持ってスタートすることが不可欠です。 Image: Unsplash/Jean Claude Akarikumutima

Vivian Brady-Phillips
Head, Strategic Initiatives, Urban Transformation, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 アーバントランスフォーメーション
  • 都市におけるイノベーションを成功させるためには、パブリックセクター、企業、地域社会のあらゆるステークホルダーが目的を定め、共有し、目的に基づいてプロジェクトを開始する必要があります。
  • 世界経済フォーラムは、地域が主導し、信頼関係に基づく三つの官民連携プロジェクトを表彰しました。
  • 汚染問題、住宅問題、医療問題という三つの異なる課題に取り組む都市で、透明性の確保、地域コミュニティの参加促進、測定可能な成果を追求した単発的な取り組みから、持続可能なエコシステムへの発展がありました。

革新的な都市の発展には、技術革新や効率性、財政的な実現可能性、投資に対する適正なリターンなど、多くの要素が関係しています。

ただし、真に包摂的な変革をもたらすイノベーションは、パブリックセクター、企業、地域社会の全ステークホルダーが、何を建設すべきか、それがなぜ重要なのか、誰のためになるのかを共に考え、合意形成を図ることから始まります。

2025年10月21日に開催された「都市変革サミット」において、世界経済フォーラムが国連ハビタット(国際連合人間居住計画)と共同で運営する「地域投資のためのグローバル・パートナーシップ(Global Partnership for Local Investment)」は、三つの官民連携プロジェクトを表彰しました。

適切な協働は、単なる課題の解決にとどまらず、人々が次の課題に取り組む方法そのものを変えていくのです。

この三つの事例とは、エチオピアのハラール市における持続可能なプラスチック廃棄物管理、ルワンダのキガリ市における環境配慮型の手頃な価格の住宅開発、米国ニュージャージー州ジャージーシティにおける公平なデジタル医療ソリューションの提供です。いずれも画期的な取り組みが評価されました。

どの事例においても、変革の始まりは包摂的な発展に向けた共通のコミットメントであり、透明性のあるコミュニケーション、迅速な対応、目に見える成果を通じて信頼関係を築くことにより実現されました。この信頼関係がさらに成長、規模の拡大、継続的なイノベーションを促進する好循環を生み出しているのです。

サーキュラー・エコノミーが女性の社会進出を支援

長年にわたりプラスチック汚染に悩まされてきたエチオピアのハラール市では、限られたリサイクルインフラのもと、野心的なサーキュラー・エコノミーのパートナーシップが実現しました。

2024年、ハラール市当局はエチオピアのスタートアップ企業クビックと共同で、10年間にわたる官民連携を開始。3年以内にハラー市を「プラスチック廃棄物ゼロ都市」にすることを目指しました。

同市は用地提供、支援政策の策定、清掃作業員の派遣を通じて、収集ネットワークの構築を支援。クビックは投資資金、技術提供、およびリサイクルが困難なプラスチックを低炭素建築資材に変換する現地施設を提供しました。

回収されたプラスチックは、パネル材、レンガ、梁などの建築資材として再生。従来のものよりも低コストで、環境負荷も少ない設計です。こうした資材は、世界初のリサイクルプラスチック製図書館「リリー公共図書館」など、公共事業に活用されています。

現在、600人以上の女性が登録サプライヤーとして収入を得ており、分別済みプラスチックを同社に直接販売しています。この販売方式には保証購入制度が導入されており、この取り組みにより、多くの女性が収入を4倍に増やし、家族の生活や協同組合の運営、子どもたちの教育を支えることができるようになりました。

「ハラールのような都市を清潔に保っている何万人もの女性たちこそが、私たちが彼女たちに尊厳ある働き方と生活を提供するための取り組みを続ける原動力なのです」と、同社のCEO、キダス・アスファウ氏は述べています。

例えば、ドゥーニャという名のある女性が、1日に約75キロものプラスチック廃棄物を集めてきたことがあります。「彼女を真に際立たせているのは、集めた量ではなく、その心でした」と同氏。「8人の子どもを養子に迎えた後、彼女は協同組合を設立し、他の廃棄物回収女性たちを組織化しました。そして彼らが成功するために必要な支援を得るための強力な支援者となったのです。彼女の歩みは、地域社会への投資がもたらす可能性を示しています」。

その成果は明らかです。ハラール市では毎日収集されるプラスチック廃棄物の75%が埋め立て処分を免れ、新たに200の雇用を創出。約70万キログラムの二酸化炭素排出量が削減されました。

同社のデジタル追跡システムは、収集されたすべての廃棄物を管理。市の条例によって公平性と包摂性が確保されています。このプログラムの収益は地域インフラの整備に再投資され、同市の廃棄物の課題を透明性の高いサーキュラー・エコノミーへと転換し、すべての住民に恩恵をもたらすことを目指しています。

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デザインによる医療システムの改革

米国ジャージー州のジャージーシティでは、イノベーションそのものではなく、それを最も必要とする人々に確実に届けることが課題でした。医療技術が急速に進歩しているにもかかわらず、十分なサービスを受けられていない住民たちは依然として医療を受けにくい状況だったからです。

リバティ・サイエンス・センターが開発した「サイテック・シティ(SciTech Scity)」イノベーションキャンパス内のプログラムでは、アクセスしやすく、効果的かつ持続可能なデジタルヘルス・ソリューションの設計、テスト、拡大を支援する原動力を開発。この取り組みでは、テクノロジーから始めるのではなく、まず住民や医療従事者が本当に必要としているものは何かを問い、実際の臨床現場や地域社会においてパイロットプログラムを共同で設計しました。

初期のパイロットプログラムでは、保険に加入していない住民が救急受診後に適切なフォローアップケアを受けられるよう支援しました。その結果は顕著で、救急外来の再受診率と病院の再入院率が二桁台の大幅な減少を記録。さらに、プライマリケアや専門医療へのアクセスも改善しています。

効率性の向上という側面を超えて、こうした成果が人々を中心に据えたデザインの真価を証明しています。患者には個々の状況に合わせて確認のメッセージを送り、地域の保健スタッフが自宅を訪問し、テクノロジーは人間関係を補完する形で活用されています。

例えば、保険に加入していない妊娠リスクの高い女性が、このパイロットプログラムを通じて必要なケアを受けられるようになり、現在は安全な出産に向けて順調に経過しています。

「私たちは経済を変革するイノベーションの波に刺激を受けていますが、医療など人間の幸福にとって最も重要な分野では、いまだに遅れが見られることを認識しています」と同プログラムのエグゼクティブディレクター、アレクサンダー・リヒター氏は述べました。

同プログラムは年間最大12件のパイロットプロジェクトを実施する計画を立てており、慢性疾患から妊産婦保健まで幅広い課題に取り組むと同時に、地域のイノベーションエコシステムを育成。プロジェクトのそれぞれは実社会での導入を見据えて共同設計されており、医療提供者、保険会社、地域パートナーからの意見を取り入れつつ、スタートアップ企業、学生、臨床医がツールをリアルタイムで改良しています。

グリーン建築により地元建設業者の能力向上を支援

ルワンダの首都キガリでは、急速な都市化に伴い住宅不足が深刻化。多くの勤労世帯が気候適応型の正式な住宅を購入できない状況にあります。

「ブウィザ川沿岸住宅プロジェクト」は、ルワンダ政府と住宅開発団体ADHIが共同で進める事業であり、政策と連携した目的志向型のアプローチにより、手頃な価格で持続可能な居住環境の実現を目指しています。

ルワンダ政府が土地とインフラを提供し、同社はモジュール建築技術と、現地製の鉄骨フレーム、ドア、軽量コンクリート部材を生産する工場に投資しました。

現地に設立された研修施設では、40%が女性というルワンダ人も若者を対象に、環境配慮型建築技術の認定を行っています。また、100%の地元雇用を実現し、中小企業との連携による資材調達を行うことで、見習い職を含む1,000人分の雇用を創出しました。

第一期工事では247戸の住宅が完成し、そのほとんどが初めて住宅を購入する人々によって購入されました。各住宅はエネルギー効率と水資源効率において先進的な認証(IFC EDGE)を取得。これにより光熱費の削減と建設時の炭素排出量の低減を実現しています。同プロジェクトでは雨水を地中に浸透させる「スポンジシティ」設計を採用しており、完成時には2,000戸を超える住宅が整備される予定です。

今後5年間でさらに2,000戸の住宅が供給されます。「ブウィザ川沿岸住宅プロジェクト」のモデルはすでにベナン、コートジボワール、ナイジェリア、ソマリア、ウガンダ、ザンビアなどで再現が進められています。

ADHIアフリカ・ホールディングのハッサン・アダン・ハッサンCEOは次のように述べています。「プロジェクトの第一期開発を通じて、私たちはプロセスを信頼することの大切さを学びました。開発業者は環境配慮型のイノベーションを恐れるべきではありません。パブリックセクターが適切な環境整備を行えば、協力関係がさらなる発展の原動力となるでしょう」。

同プロジェクトは数字以上に、キガリ市の都市生活そのものを変革しつつあります。緑地スペース、商業施設、保育施設が地域コミュニティの交流を促進し、62%が手頃な価格で38%が市場価格という混合所得層向けの設計により、活気に満ち、誰もが暮らしやすい街区を形成。これまで不安定な住宅事情に苦しんでいた家族が、今では市内中心部近くの安定かつ効率的な住宅を所有できるようになりました。

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今、この取り組みが重要な理由

これらの都市では、各セクターが連携することでイノベーションが生まれています。人々が実際に直面する問題を実際の場所で解決し、包摂性、透明性、約束の履行を通じて信頼を築いているのです。

ハラール市では、リサイクルされたプラスチックボトル1本1本が、共有された取り組みの証となっています。ジャージーシティでは、すべての患者がより適切に医療サービスとつながるようになったことが、信頼がいかに拡大するかを示しています。キガリでは、ブウィザ地区の各住宅が、環境適応力と経済的尊厳の象徴となっています。

これらのプロジェクトは適切な協働が単なる課題の解決にとどまらず、人々が次の課題に取り組む方法そのものを変えていくという、より深い真実を明らかにしています。共有された行動を通じて築かれた信頼は、継続的な進歩の基盤となるでしょう。

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