地政経済と政治

地政学的変動の時代に、企業の果たす重要な役割とは

地政学的要因は企業に影響を与えると同時に、企業によって形成される側面もあります。

地政学的要因は企業に影響を与えると同時に、企業によって形成される側面もあります。 Image: Unsplash/Basma Alghali

Sofiane Khatib
Strategic Adviser to the Chief Executive Officer, Trafigura Group
Caroline Berson
Vice-President, Global Government Relations, PepsiCo
本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合2025
  • 地政学的要因は企業にますます大きな影響を及ぼしています。地政学的な情報収集能力を高め、各国政府と積極的に連携する企業は、この混乱をよりうまく乗り切ることができるでしょう。
  • 企業はパートナーシップや契約を通じて地政学的な結果形成に重要な役割を果たすことができます。各国政府は外交政策を策定するにあたり、企業を建設的なパートナーとして意識的に考慮しなければなりません。
  • 本寄稿文は世界経済フォーラムの「グローバル・フューチャー・カウンシル - 地政学」のメンバーにより執筆されました。同カウンシルは、官民連携を通じたグローバル安全保障協力メカニズムの特定と強化に焦点を当てています。

近年、地政学は商業的成果形成においてますます重要性を増しています。国家安全保障を背景とした貿易政策や地政学的な変動は、従来の経済サイクルよりもインフレや供給網の混乱を大きく引き起こす要因となっています。さらに、世界はますます地域化、ローカル化しており、ブレトン・ウッズ体制のような国際的な合意は過去のものとなりつつあります。

このような状況下での不確実性の高まりが、企業にとって複雑性の増大とコストの上昇をもたらしています。企業は、制裁遵守から物流コストの上昇、ボイコットに至るまで、多くの法的、業務的、商業的要件に対処しなければなりません。

こうした動向の一部は、規模の大きい企業に有利に働きます。こうした企業は通常、より確立されたコンプライアンス体制を持ち、規模の経済を活用する能力に優れているからです。一方で、より機敏で政治的な影響を受けにくい小規模企業に有利な動きも存在します。どの業界も影響を受けないわけではありませんが、これらの動向がどのように顕在化するかは、業界特性や企業の種類、事業環境によって異なります。

地政学的動向とサプライチェーンに関するインテリジェンスを蓄積してきたビジネスリーダーたちは、地政学的ダイナミクスを形成する上でより積極的な役割を果たすことが可能です。

企業は、影響を受ける当事者であると同時に、地政学的変動を形成する主体として、地政学的な変動期において建設的な役割を果たすことができるでしょう。こうしたインテリジェンスを外交政策のインプットとして適切に活用することで、企業は以下のような形でグローバル安全保障を支えることができます。

  • 二国間関係の解体を困難にし、形成を迅速化する。
  • サプライヤーや業界関係者との垂直的、水平的連携を強化する。
  • 各国政府との効率的なコミュニケーションを確保する。

企業は、地政学的なフォルトライン(断層線)をまたぎ、複雑なサプライチェーンを管理する上で、現場の実情に基づいて培われた「地政学的対応力」を必要としています。

こうした対応力は、市場の動向や貿易の流れを深く理解することにつながり、紛争や大国間の力学がもたらす不安定性やリスクの影響を最小限に抑える助けとなるでしょう。

企業はこの種の地政学的対応力を意図的に構築する必要があり、各国政府は意識的に企業を巻き込む必要があるのです。

断層を越えたパートナーシップの構築

世界的な競合としてバランスが取れた、安定した法域にある企業との間で戦略的パートナーシップを構築する企業は、大国間の力関係や、より広範な地政学的緊張に対するレジリエンスを強化することができます。

例えば、シンガポールの政府系ファンドと共同所有する重要鉱物の製錬所、中立的なハブに位置する造船所、あるいは湾岸協力会議(GCC)加盟国の国営企業と合弁で運営されるコンテナターミナルなどは、地政学的変動に対してより大きな保護が得られるでしょう。

こうした取り決めは、適用される法律や制裁に完全に準拠した形で構築されている限り、市場アクセスの突然の変化や政治的圧力を軽減することができます。

企業はまた、購入契約を通じて取引の重要な要素となることや、進捗状況を監視する役割を担うことで、二国間関係をより強固なものにすることが可能です。

「ブルージーンズ外交」は、消費財が政治を超えて人と人との結びつきを築く好例です。冷戦期には、西側のジーンズが規制を受けながらも東欧で「開放性」の象徴となり、日常的な商取引が非公式な外交として機能し得ることを示しました。

今日では、法令遵守や地域社会への利益を伴う取り組みが、混乱に対する政治的コストを引き上げています。実際、業界ごとの関税除外措置は、貿易交渉を前に進めるために政府が機微な分野を切り分けて扱っている例です。2025年の日米貿易枠組みでは、自動車業界が例外を勝ち取り、統合的な生産システムを守りました。このように業界が足並みをそろえることで、関税除外や補填措置、段階的な導入といった仕組みを確保し、政策の転換期でも事業の継続性を保つことができます。

これらは抜け道ではなく、安全弁としてサプライチェーンの適応時間を稼ぎ、外交の推進力を維持するものです。その見返りとして、業界側には信頼性が高く監視可能な行動が求められます。

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企業はまた、各国政府に対して共通の懸念事項を示すことにより、フォルトラインを越えた広範な協力関係を築くことができます。例えば、海賊行為や物流が集中する海上要衝での安全保障上の課題などに関し、共通理解を形成する手助けができるでしょう。

世界経済フォーラムのネットワークのような中立的なプラットフォームは、各国政府、企業、シンクタンク、その他のステークホルダーを関与させることで、こうした対話を促進し、視点の調整を支援します。

垂直的、水平的連携の強化

ビジネスリーダーたちは、サプライチェーンを垂直方向に連携させるとともに、競合他社と水平方向に協力することで、共通したレジリエンスのメカニズムを設計し、変動性の影響を緩和する上で重要な役割を果たすことができます。

このような不安定な時代において、海上輸送や物流ハブへのアクセスは、ますます戦略的な優位性となるでしょう。サプライチェーンを最終市場に近づけるためには、サプライヤーとの連携強化が不可欠です。サプライチェーンの細分化が進む中、企業は戦略的な在庫を蓄積し、物流の柔軟性を高めることで、単一調達ではなく複数調達を確保する必要があります。

断固とした立場を取り、地政学的な影響力を育むには、組織全体で新たなスキルセットを育成することが求められます。

同様に、外部の混乱に直面する中で、同一業界内の企業間連携もますます重要になります。例えば、グローバル海運企業は、脅威を軽減し、コスト非対称性による競争上の不利を回避するため、情報共有メカニズムの導入や迂回航路の調整方針の統一を図っています。

ビジネスリーダーはまた、戦略的備蓄の蓄積や貿易制限・制裁の意図しない影響への対応など、地政学的な変動の影響緩和を目的とした政府政策への対応においても、業界横断的なアプローチで考えることが求められます。

各国政府との効果的なコミュニケーション

今、競争優位性の源泉となっているのは、各国政府との効果的なコミュニケーションです。ビジネスリーダーたちは、政策担当者が実行可能な形で課題を提示する必要があります。企業は、自社の経験を政策立案や優先順位付けのプロセスに的確に反映させることで、この点を上手に実現してきました。

各国政府は常に、国民や国家の政策目標にとって最大の価値を創出するという観点から、外交政策課題に取り組みます。ただし、外交政策の実施においては、意図しない商業的影響を回避するため、微妙な調整や個別対応が求められることもあります。

不確実性を低減する体制強化

地政学的な変動性が高まる状況下で、企業が組織内の能力向上を図ることで、より効果的に仲介、緩衝の役割を果たすことができるでしょう。具体的には、地政学的リスクの評価能力を高め、その動向を監視し、影響を評価するスキルを磨くことが重要です。

地政学的動向とサプライチェーンに関するインテリジェンスを蓄積してきたビジネスリーダーたちは、地政学的ダイナミクスを形成する上でより積極的な役割を果たすことが可能です。これにより、自社がこうした動向を直接的に乗り切ることで利益を得られる可能性を高めるとともに、より安定したシステムからも恩恵を受けられるようになるのです。

断固とした立場を取り、地政学的な影響力を育むには、組織全体で新たなスキルセットを育成して、これらの安定化メカニズムを見いだし実施するための評価フレームワークを精緻化する必要があります。

また、自社の事業運営や戦略に対するグローバルまたは地域的な地政学的動向の潜在的影響を、企業内部に浸透させることも求められます。上級幹部や経営陣は、地政学的評価に関する感覚を研ぎ澄まさなければなりません。

これらのスキルを組織のDNAに組み込むことで、企業はより精緻なリスク分析と緩和策を講じることができるようになるでしょう。

これは方程式の半分に過ぎません。各国政府もまた、外交政策決定の商業的影響に耳を傾け、組織的に理解する必要があります。

世界経済フォーラムの「グローバル・フューチャー・カウンシル - 地政学」や、国連総会などのマルチステークホルダー・プラットフォームは、新たなアイデアを育成し、パートナーシップを深める重要な機会を提供します。

こうしたプラットフォームは、各国政府の政策課題を推進し、企業からのフィードバックを外交政策の意思決定プロセスに積極的に統合すると同時に、企業が各国政府と専門知識や視点を共有することを奨励するものです。

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