サイバーセキュリティ

空間データとは何か、なぜサイバーセキュリティが空間データに重要か

空間データは、物流、都市計画、災害対応、国家安全保障を支える基盤です。

空間データは、物流、都市計画、災害対応、国家安全保障を支える基盤です。 Image: REUTERS/Claro Cortes IV CC/FA

Louai Alarabi
Chief Engineer, Data Engineering, Saudi Information Technology Company (SITE)
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 サイバーセキュリティ
  • 空間データは変革をもたらす強力なものであり、物流、都市計画、災害対応、国家安全保障といった重要なシステムを支えています。
  • 一方で、空間データに対するサイバーリスクは、プライバシー侵害やGPSスプーフィングからサービス拒否攻撃まで多岐にわたり、深刻化しています。
  • ガバナンス、管理、インテリジェンス、新興テクノロジーのすべてに、強固なサイバーセキュリティが不可欠です。

現代社会では、ほぼすべてのものが接続されています。スマートフォンや自動車は、私たちの家や周囲のサービスとリンクしており、その中核にあるのが空間データです。

空間データとは、地理的位置を特定するデジタルの足跡です。他のデータとは異なり、現代の物流、都市計画、気候監視、精密農業、災害管理、国家安全保障といった重要分野において、空間データは最も価値の高い情報種別です。

この機密情報は「どこにあるか」を示すだけでなく、「いつ」「どのように」「誰が」「なぜ」といった関連する疑問にも回答を与えます。隠れたパターンを明らかにし、事象を予測し、関係性を解き明かすのです。

では、空間データは具体的にどのように世界を変革しているのでしょうか。サイバーセキュリティ上のリスクとは何か、そしてそれらをどのように軽減すべきでしょうか。

空間データの持つ変革の力

調査・コンサルティング企業のガートナーは、空間コンピューティングを最も影響力があり、変革を促進する新興テクノロジーの一つと位置付けています。空間データはもはや静的な地図ではありません。物理的世界との関わり方を根本から変革する、知性を備えた動的なレイヤーへと進化しているのです。

この変革は、高度なセンサー、全地球測位システム(GPS)、ドローン、LiDAR(レーザー光を照射して対象物までの距離や形状を測定する技術)を利用したリモートセンシング技術、モノのインターネット(IoT)デバイス、5Gネットワークなど、膨大なリアルタイム位置データを絶えず収集する、数々の卓越したテクノロジーによって推進されています。

位置を示すこの生データは、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析、AIを用いて処理され、これらを組み合わせることで、複雑な空間クエリの検出、予測、解釈の基盤が提供されます。

このように、テクノロジーと高度なコンピューティングの相乗効果により、物理環境の仮想複製であるデジタルツインなど、強力なアプリケーションが実現するのです。

LiDARシステムによって作成されたデジタル表面モデルは、世界貿易センタービルの残存構造物および周辺地域の極めて正確な3次元位置情報を提供します。この事例における3Dモデルは、元の支持構造、階段室、エレベーターシャフト、地下室などの位置特定に役立ちました。このデータを航空機による高解像度航空写真と統合することで、相対精度約3デシメートル(30 cm)という極めて正確な画像が生成されます。
LiDARシステムによって作成されたデジタル表面モデルは、世界貿易センタービルの残存構造物および周辺地域の極めて正確な3次元位置情報を提供します。この事例における3Dモデルは、元の支持構造、階段室、エレベーターシャフト、地下室などの位置特定に役立ちました。このデータを航空機による高解像度航空写真と統合することで、相対精度約3デシメートル(30 cm)という極めて正確な画像が生成されます。 Image: Reuters

サイバーセキュリティが空間データにとって重要である理由

1. 機密漏洩とプライバシー侵害

世界経済フォーラムは、個人および企業のプライバシーに対するリスクの増大について、広範に警鐘を鳴らしてきました。

位置情報への不正アクセスにより、個人の日常行動、自宅住所、勤務先、あるいは機密性の高い場所への訪問履歴が明らかになる可能性があり、企業レベルでは、経営幹部の移動パターン、重要資産や施設の所在地、あるいは重要なサプライチェーンの経路が暴露される恐れもあります。

これにより、標的型ソーシャルエンジニアリング、サイバー諜報活動、物理的脅威、さらには地政学的なプライバシー侵害につながる可能性があるのです。

2. 偽装と操作

データ漏洩やデータ損失よりも深刻な脅威として、地理空間データの悪意ある改ざんが挙げられます。このような改ざんは重要なシステムや個人を欺く可能性があり、その完全性と正確性を損なう恐れがあります。

代表的な例が、全地球測位システムの脆弱性を悪用したGPS偽装攻撃です。攻撃者が偽の衛星信号を送信し、GPS受信機を誤った位置に誘導。航空機、船舶、自律走行車両が意図しない進路を取るなど、その影響は甚大であり、壊滅的な結果を招く可能性があります。

さらに、1回のサイバー攻撃が、正確な位置情報に依存する産業やサービス全体に波及し、グローバルサプライチェーンから緊急対応に至るまで、あらゆる機能を混乱させる恐れがあります。最終的に、GPS偽装の脅威は単なるサービス中断をはるかに超え、公共の安全に対する直接的かつ重大なリスクをもたらします。

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3. 可用性攻撃

空間データの可用性に対するサイバー攻撃が、システム全体の運用を麻痺させる可能性があります。GPS信号の妨害は、航空機の運航停止、港湾業務の停止につながり、位置情報に基づく緊急サービスの停止、さらに深刻な場合にはネットワーク全体の切断が発生しかねないからです。

別のストーリーで示されているように、ある宇宙機関はサイバー攻撃によるデータ侵害を阻止するため、3日間にわたってシステムを停止。この事態により、同機関はネットワークを切断し、サービスを中断せざるを得なくなりました。

地理的位置データに依存するあらゆる組織やサービスにとって、サービス拒否攻撃(DoS)はその中核業務への直接的な攻撃となるのです。

関連するリスクから身を守る方法

1. データガバナンス

データは貴重な資産であるため、空間情報の主権を軽視することはできません。規制当局は、位置情報データ固有の特性に合わせた、強固な管理策と方針を策定する必要があります。さらに、すべての空間データが同等のリスクレベルを持つわけではないため、データを分類する必要があります。

例えば、小売店舗の位置情報は、重要インフラの座標や、物や個人のリアルタイム追跡データに比べて、はるかに機密性が低いと言えます。最終的に、このデータを管理する専門家には、空間データの特性を理解し、対象を絞ったサイバーセキュリティのベストプラクティスを適用するための専門的な訓練が必要になるでしょう。

2. データ管理

テクノロジーとシステムは、データに対する防護シールドのような役割を果たします。これらは、不正なアクセス、使用、変更、破壊から情報を安全に保ち、データライフサイクルのあらゆる段階でセキュリティポリシーを実施するために必要な基盤を提供します。

また、基礎的なステップとして、転送中および保存中のデータを保護するために強力な暗号化を使用することが挙げられます。これを実現するのは、許可された者のみが機密性の高い空間データを閲覧、変更、分析できるようにする、きめ細かいアクセス制御です。

さらに、不正な改変を特定し、データの正確性、可用性、完全性、信頼性を確保するためには、定期的な整合性チェック、改ざん検知、復旧計画のメカニズムを整備する必要があります。

3. データインテリジェンス

脅威インテリジェンスは、地理位置データのセキュリティを、事後対応型から事前予防型、証拠に基づく防御へと転換する上で重要な役割を果たします。潜在的な攻撃者とその攻撃手法に関する明確かつ具体的な情報を提供し、組織が脅威をより効果的に予測、防御できるようにするのです。

この知見により、最も重大なセキュリティ弱点の修正を優先し、既知の警告サインを用いた攻撃の早期検知、より的を絞った安全対策の策定が可能となります。

空間データ保護における新たな動向

  • AIAIアルゴリズムは膨大なデータを分析し、高度なサイバー攻撃を示す可能性のあるパターンや異常を特定することができます。これにより、脅威の検知がより迅速かつ能動的に行われます。
  • ブロックチェーン:暗号通貨を支える技術として知られるブロックチェーンとは、分散型かつ改ざん不可能な台帳を提供するものです。これにより空間情報の改変が極めて困難となり、取引やその他の機密情報に対して高度なデータ完全性を保証します。
  • 安全なデータ分析:差分プライバシーやマスキングといった技術により、個人を特定可能な情報、重要な資産、機密データを漏洩させることなく位置情報を分析することができます。

全世界において、私たちは空間データの力を活用し、より革新的で効率的かつ持続可能な社会を構築しています。強固なサイバーセキュリティ対策の重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。

空間データの可能性を最大限に引き出すと同時に私たちのデジタルな未来を守るには、情報に関する特有の脆弱性を認識し、強力なセキュリティ対策を積極的に実施する必要があるのです。

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