気候変動対策

気候科学に学ぶ、企業がレジリエンスを高める方法

米国ケンタッキー州ケンブリッジショアーズで、竜巻被害を受けた家屋を見つめる男性。気候科学は、企業がレジリエンスの高い持続可能な経済システムを構築する上で重要な役割を果たします。

米国ケンタッキー州ケンブリッジショアーズで、竜巻被害を受けた家屋を見つめる男性。気候科学は、企業がレジリエンスの高い持続可能な経済システムを構築する上で重要な役割を果たします。

Emily Bayley
Head, Private Sector Engagement, Environmental, Social and Governance Initiative, World Economic Forum
  • 推計によると、2024年までの10年間で気候変動がグローバル経済に及ぼした損失は、2兆ドルを超えるとされています。
  • 気候科学を企業戦略に統合することにより、レジリエンスの高い持続可能なグローバル経済を創出することが可能です。
  • 政策支援と気候科学者や市民社会の知見を企業戦略に取り入れ、利益追求が地球温暖化抑制の広範な取り組みを損なわないようにする必要があります。

2024年の地球気温は産業革命前比で1.5℃上昇し、観測史上最も高温の年となりました。世界気象機関(WMO)の発表によれば、この被害は一時的なものでしたが、今後5年以内に同様の災害が発生する確率は80%に上るとのことです。

世界経済フォーラムの報告書『The Cost of Inaction(行動を起こさないことのコスト)』によると、2000年から2004年にかけて約4,500億ドルだった気候関連損害のコストは、20年後の現在では1兆ドル以上に増加。気候変動によるさらなる人命と生活の損失を防ぐために、今こそ実効性のある対策を講じる必要があります。

地政学的緊張と政治情勢の変化は、気候リスク管理に取り組む企業にとって不確実性を増大させています。一方で、『ラジオ・ダボス』の番組「How climate science can save the planet while strengthening the economy(気候科学が経済を強化しながら地球を救う方法)」では、専門家たちが気候科学を戦略的意思決定に統合することで、企業、産業、経済全体を強化し、レジリエンスの高い持続可能な世界を構築する可能性について議論しました。

気候関連災害による経済的損失は2000年以降、2倍以上に増加しています。
気候関連災害による経済的損失は2000年以降、2倍以上に増加しています。 Image: The Cost of Inaction: A CEO Guide to Navigating Climate Risk, World Economic Forum (2024)

気候科学の現状確認

ポツダム気候影響研究所所長のヨハン・ロックストローム教授が番組内で述べたように、重力の影響が事実であるのと同様に、温室効果ガスが地球温暖化を引き起こし、それが気候変動を誘発し、平均気温の上昇に伴って異常気象を発生させることは「疑いの余地なく証明」されています。

同教授はさらに「気候変動は、私たちが『人類の生命維持システム』あるいは『グローバル経済の基盤』と呼ぶものの根本を揺るがしています。具体的には、海面水位から森林システム、土壌に至るまで、私たち全員が依存する環境システムの安定性が脅かされているのです」と述べています。国際商工会議所(ICC)によると、異常気象は2024年までに10年間で2兆ドル以上の損害をグローバル経済にもたらしました。

近年さらに加速する地球温暖化により、こうした損失は今までよりも拡大する恐れがあります。インドの再生可能エネルギー企業、リニューの会長兼CEOであるスマン・シンハ氏は同番組で、「現在の状況では、オーバーシュート(目標値を超える状態)は避けられない段階に達している」と述べました。「現在の地政学的状況の分断を考えると、私たちが本来到達すべき地点まで回復することができるかどうかは分かりません」。

一方、企業や業界全体が気候変動対策に取り組む中、かつて企業の持続可能性戦略の重要な推進力であった政策が、遅れを取る可能性があります。これは各国政府レベルで起きている現象であり、多国間主義からの転換も一因となっています。

「グローバルなレベルで見られるのは、政策分野における曖昧さと[中略]少なくとも世界の一部の地域においては、野心的な脱炭素化政策の後退です」と、同フォーラムの気候、自然部門長のピム・ヴァルドレは番組内で述べました。「一方で、気候の物理的影響が現実経済に及ぼす影響も拡大し、食料価格のインフレを引き起こし、保険料の上昇にもつながっています」。

同氏はさらに、インフラの破壊やバリューチェーンの混乱から、安定した居住可能な気候に依存する企業や地域社会への影響に至るまで、より広範な影響を列挙しました。

意思決定ツールとしての気候科学

このような状況下において、ロックストローム教授の言葉を借りれば、気候科学は「内部情報にも等しい貴重な知見」です。同教授は、経営陣が気候科学を活用することで、「純粋な市場パラメータにおいて、またバリューチェーンや企業を極端な事象から保護する観点においても」競争力を高めることができると説明しました。

気候科学はCEOが自社事業を将来へ備えさせるのに役立つとシンハ氏も同意。次のように付け加えました。「気候変動はその企業のサプライチェーンに影響を及ぼすでしょう。生産施設にも影響を及ぼし、将来的には顧客の行動にも影響を与えるでしょう。そして当然ながら深刻な財務的影響が生じる可能性があります。これは明らかに、すべてのCEOが企業レベルで防ぐ責務を負っている課題です」。

ただし同氏は、利益最大化だけを追求し、二酸化炭素排出量や気候変動を議論から除外することに対して警鐘を鳴らしています。このようなアプローチは、排出量削減と地球温暖化抑制に向けた広範な取り組みを弱体化させるリスクをはらんでいるからです。

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気候科学の進展に向けて

2015年のパリ協定後、気候対策を重視する政策が世界的に広がった際、企業は「驚くべき速さでこの動きに追随した」ものの、現在では多くの産業がこのモメンタムの維持に苦労していると、ロックストローム教授は述べています。その原因の多くは、さらなる発展を支える新たな政策の不足。例えば電気自動車の製造分野では、一部の国で充電インフラが整備されていないことが生産拡大の障壁となっています。「政策と産業の革新性、拡張性との間に不整合が生じているのです」と同教授は説明しました。

シンハ氏は、グリーン水素もまた、海運や航空などの産業向け再生可能燃料としての可能性を十分に発揮できていない新たなエネルギーソリューションの一例だと指摘。「コストが高すぎたのです[中略]私たちが真に必要としていたのは、企業に対してグリーン水素への移行を義務付ける規制か、あるいはグリーン水素の導入コストを支援する補助金でした。グリーン水素が次の大きなトレンドになるという期待感が高まっているものの、政策がこの方向性を十分に支援できていないため、進展が遅れているのです」と述べています。

『ラジオ・ダボス』のインタビュー回答者たちは、解決策の一つとして、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)のプロセスを「実施段階」に移行し、今後の会議では誓約を交渉する場ではなく、進捗状況を報告する場として活用することを提案。理想的には、より小規模で頻度の高い作業部会を設置し、各国政府、企業、研究機関、市民社会の代表者が参画して、合意形成ではなく多数決による意思決定を行うべきだと指摘しています。

収録後、ヴァルドレ部門長はCOPプロセスが気候変動への野心と行動を確保する上で今後も重要な役割を果たし続けることを強調しました。「気候変動は地球規模の課題であり、国別決定貢献(NDC)を通じた各国の野心と並行して、多国間交渉によって解決されなければなりません」。

シンハ氏は番組内で、「企業はこのプロセス全体に真に参加する必要があります」と述べています。「企業は、事業活動やサプライチェーンを通じて排出される炭素排出量の大半に責任を負うため、こうした行動の多くを自ら実行しなければなりません」。

したがって、政策は重要ですが、企業もまた、気候リスクを戦略的意思決定に組み込む必要があります。最終的に、産業界は気候変動への対応において、今後も重要な役割を果たし続けなければならないのです。

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