自然と生物多様性

テクノロジー業界がネイチャーポジティブへの転換を主導する、7つの方法

データセンターやその他の技術コンポーネントへの需要の高まりにより、テクノロジー業界におけるネイチャーポジティブへの転換には喫緊の対応が必要です。

データセンターやその他の技術コンポーネントへの需要の高まりにより、テクノロジー業界におけるネイチャーポジティブへの転換には喫緊の対応が必要です。 Image: Getty Images

Michael Donatti
Principal, Oliver Wyman (MMC)
Benoit Bégot
Lead, Nature Positive Technology Sector, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合2025
  • テクノロジー業界の成長は天然資源に大きく依存しており、気候変動や生態系の劣化に伴うリスクが増大しています。
  • ネイチャーポジティブなアプローチを採用することで、テクノロジー業界のバリューチェーン全体で最大8,000億ドル規模のコスト削減と収益向上が期待できます。
  • 水利用の改善や汚染対策から、持続可能な事業運営の実現まで、7つの優先行動がネイチャーポジティブへの転換を推進します。

新たな技術革新を支えるデータセンター、半導体、ハードウェアへの需要はかつてないほど高まっています。一方、テクノロジー業界の成長は天然資源に大きく依存しており、膨大な量の水、エネルギー、鉱物資源を消費する一方で、気候変動や生態系の劣化に伴うリスクが増大しています。

この業界が地球との関係性を見直し、ネイチャーポジティブな未来に投資することは、企業の社会的、規制上の成長と事業継続の基盤を確保し、自然関連リスクへのレジリエンスを高めます。また、ステークホルダーの高まる期待に応え、財務的成長とコスト削減の機会の創出につながるでしょう。

セールスフォースの気候アクション担当バイスプレジデントであるティム・クリストファーセン氏は、次のように指摘しています。「急成長を遂げるこの業界において、テクノロジー産業が自然にどのように依存し、影響を与えているかという課題への取り組みは重要です。 個々の企業だけで自然関連のリスクと影響を解決することはできません。テクノロジー業界のバリューチェーン全体で連携し、レジリエンスを構築していく必要があります」。

テクノロジー企業にとって自然が重要な理由
テクノロジー企業にとって自然が重要な理由 Image: Oliver Wyman

転換に向けた絶好のタイミングは、資源負荷の増大、リスク、ステークホルダーや規制当局のモメンタムが重なり合う「今」です。その機会は極めて大きいでしょう。世界経済フォーラムの試算によると、テクノロジー分野のバリューチェーン全体で、約8,000億ドルのコスト削減と収益向上の可能性を捉えることができます。

テクノロジーセクターの優先事項

私たちは、テクノロジー業界がバリューチェーン全体で自然への悪影響を軽減し、自然への好影響を生み出すための7つの主要な行動を特定しました。これらの行動は、悪影響を未然に防ぐことを最優先とする「緩和階層」(回避→削減→回復→補償)の原則に沿ったものです。

テクノロジー業界が優先的に取り組むべき7つの行動領域
テクノロジー業界が優先的に取り組むべき7つの行動領域 Image: Oliver Wyman

すでに多くの企業がシンプルかつ費用対効果の高い取り組みを開始しており、それが業界標準となりつつあります。さらに、より大きな自然への好影響と商業的利益の両方をもたらす意欲的な取り組みを通じて、主導的な役割を果たしている企業もあります。また、時間、コミットメント、イノベーションを必要とする変革的かつ複雑な取り組みを先駆的に進めている企業も存在します。

1. レジリエンスの高い水利用と水環境回復の推進

多くの企業がすでに、水ストレスの可能性がある地域の調査や、事業活動における水利用効率の改善に取り組んでいます。先進的な企業はこれをサプライチェーン全体に拡大し(発電など)、クローズドループシステムを採用しています。

例えば台湾の半導体メーカーでは、廃水の平均85%をリサイクル。セールスフォースなどの企業は、流域の水資源回復や、2030年までに世界人口の半数に影響を与えると予測される水不足への対応に注力しています。

2. 汚染の緩和とサーキュラリティの推進

企業は環境への汚染物質の排出を回避し、製品寿命を延長して電子廃棄物を削減するよう配慮しなければなりません。先進的な企業はさらに踏み込み、サーキュラリティ(循環性)を考慮したハードウェア設計の最適化や、顧客の電子廃棄物回収プログラムの開発などを行っています。

意欲的な取り組みには企業間の連携が必要です。例えばオーストラリアの「MobileMuster」プログラムは、同国政府とHTC、グーグル、サムスンなどの企業が協力し、国民のほぼ100%が携帯電話をリサイクルできる仕組みを実現しています。

3. 非電力由来の温室効果ガス排出への取り組み

半導体製造をはじめとする特定の技術プロセスでは、直接的な排出が発生します。半導体製造で使用される地球温暖化係数の高いガスの漏出の監視、防止が、業界標準となりつつあります。

先進企業では、ガススクラバーなどの技術を導入し、廃ガスを回収。テクノロジー業界全体では、残留排出量に対処するため、信頼性の高い炭素クレジットや炭素除去プログラムへの投資が進んでいます。

長期的には、製品やプロセスの再設計により、製造過程に内在する排出量や高温暖化係数ガスの使用を削減することができます。例えば、IBMの数十年にわたる環境配慮型製品設計プログラムでは、材料選定や製品設計の時点で排出量への配慮が組み込まれています。

4. 土地のスチュワードシップと土壌回復の推進

テクノロジー業界における土地利用の影響は他の分野ほど顕著ではありませんが、先進企業は価値の高い生態系のある土地の開発を積極的に回避し、開発済みのブラウンフィールド(汚染またはその可能性があることにより開発の進まない土地)を優先する傾向にあります。建設時には在来植物を植栽し、屋上緑化を行い、植物への水やりの必要性を最小限に抑えます。

目指すべきは、生物多様性を炭素と同様に扱い、開発の前後を通じて影響を評価、削減すると同時に、高信頼性の生物多様性オフセットや生態系再生プロジェクトに投資することです。HPがアーバーデイ財団、世界自然保護基金(WWF)、コンサベーション・インターナショナルと締結しているパートナーシップがその好例です。

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5. 持続可能な電力運用の実現

テクノロジー業界の電力依存は成長を阻害します。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は「新たなデータセンターは18カ月で建設可能ですが、新たな送電線の建設には4年から8年を要します」と指摘しています。

事業への直接的な影響を考慮し、企業は一般に施設の設計や改修でエネルギー効率を向上。また、先進企業は再生可能エネルギーや低炭素電力への取り組みを推進し、場合によっては電力購入契約(PPA)を超えて、新たな発電・送電・配電インフラを直接支援することもあります。

AIを活用したプロセス管理と革新的な冷却技術により、エネルギー消費と水使用量の双方を削減することができるでしょう。

6. サプライチェーンとの連携

エネルギー、水、鉱物資源への依存度が高いことを踏まえると、サプライヤーとの連携は極めて重要です。現在ではサプライヤーに対して環境認証の取得を求めることが一般的になっています(ISO 14001、責任ある採掘保証イニシアチブなど)。

デルタエレクトロニクスのサプライヤー行動規範には、省エネルギー、炭素排出量削減、廃棄物削減、持続可能な資材調達に関する指標が含まれています。また、先進企業はサプライチェーンに関連するコミットメントを設定し、サプライヤーと協力してより環境負荷の少ない代替案を模索しています。

代替案が特に限られている場合、先進的な企業は研究開発においてさらに緊密に連携します。例えば、マイクロンはメルクKGaAと共同で、半導体製造向けの地球温暖化係数が低いガスの開発に取り組んでいます。

7. 外部との連携と政策支援

企業は、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFDI)などの枠組みに従い、自然関連リスクに関する報告を増加させています。先進企業はネイチャーポジティブへの転換を推進するために政策形成に積極的に関与しています。例えば、IBM、マイクロソフト、アルファベット、AWS、AMDなどが参加する米国政府とテクノロジー業界の合同委員会は、責任あるAIインフラに関する助言を行っています。

同様のパートナーシップにより、自然環境指標のための業界横断的なプラットフォームを構築することも可能です。欧州環境保護デジタル連合(European Green Digital Coalition)が、テクノロジーを活用した排出削減量の推定手法を開発しているのがその一例です。

テクノロジー業界への行動要請

ネイチャーポジティブなテクノロジー産業は、必要不可欠であると同時に、大きな可能性を秘めています。天然資源と生態系が業界のレジリエンスと成長においてますます重要になる中、テクノロジー企業は自社の戦略、製品設計、調達のプロセスに自然への配慮を組み込むことで主導的な役割を果たすことができます。

自らの持続可能な成長を実現することで、この業界は他の産業におけるネイチャーポジティブへの転換も促進する有利な立場に立つことができるでしょう。

報告書『Nature Positive: Role of the Tech Sector(ネイチャーポジティブ:テクノロジーセクターの役割)』が2025年末に発行予定であり、テクノロジー業界が自然保護に向けた活動をリードする機会に関する追加調査も進行中です。詳細に関しては、「ネイチャー・ポジティブ・トランジションズ」イニシアチブ(Nature Positive Transitions initiative)をご覧ください。

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