気候変動対策

生活空間における、猛暑を予防する日本の取り組み

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日本は猛暑対策に本格的に取り組み始めています。 Image: Unsplash/taro ohtani

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 2024年、欧州西部では2万人以上の熱中症関連の死亡が報告されました。
  • 極端な暑さが常態化する中、気温上昇への備えは世界的な急務となっています。
  • 日本は、家庭や職場において人々を猛暑から守る取り組みを進めることで、この分野をリードしています。

猛暑がもはや例外ではなくなりつつある中、気温上昇にどう備えるかが世界的な課題となっています。世界気象機関(WMO)のセレステ・サウロ事務局長は、過去10年間にわたって記録的な高温が続いていることを指摘し、2024年の世界の年間平均気温が、2029年までの間に過去最高を更新する確率は80%に上ると警告しました。

かつてない暑さにより、欧州西部では、2024年の猛暑による死者数が20,000人を上回るなど、多くの人々の健康を脅かし、特に子供や高齢者はその影響を受けやすいとされています。

日本においても、2024年は10以上の都市で50日以上の猛暑日(35度以上)が観測されました。熱中症関連の死者数は6~9月の間で計2,033人に上り、過去最多を記録。東京消防庁によると、2024年に東京都内で熱中症により搬送された人の半数以上が65歳以上であり、特に80歳代が1,886人と最多、次いで70歳代が1,530人でした。

消防庁の2024年6月~9月のデータによると、熱中症の発生場所は「住居」が38%と最も多く、次いで「道路」(19%)、「屋外の公衆エリア」(13%)、「道路工事や工場、作業所などの仕事場」(10.1%)となっています。職場における熱中症対策も、制度面から強化が進められています。2025年6月1日には労働安全衛生規則の改正が施行され、事業者に対して従業員への熱中症対策が義務付けられました。これにより、今後さらに職場環境における安全対策の強化が期待されます。

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家庭でのエアコン使用を促す予防策

家庭での熱中症対策についても、官民連携のもと様々な取り組みが進められています。特に高齢者の単身世帯の増加に伴い、リスクが高まっているのが住居での発症です。環境省によると、屋内での熱中症による死亡者の9割がエアコンを使用していなかったことが分かっています。適切な冷房の活用などを含め、各家庭における現実的かつ実効可能な暑さ対策を講じることが、喫緊の課題です。

日本では例年、夏季の電力需要の増加に伴い、政府が節電を呼びかけることがあります。しかし2025年については、経済産業大臣がすでに節電要請を見送ることが発表しています。その理由として、電力の予備率が7%を超える見通しで、安定供給に必要とされる3%の基準を大きく上回り、電力供給能力が十分に確保されていることを挙げました。ただし、異常気象や発電所の故障などのリスクが依然として存在することを指摘し、今後も継続的な監視が重要であると強調しています。

経済産業省はまた、猛暑が本格化する前にエアコンの試運転を行い、故障などを未然に防ぐよう呼びかけています。さらに、東京、大阪、福岡、横浜、名古屋などの自治体では、エアコンの購入に対して補助金を設け、省エネモデルへの買い替えや新規購入を支援しています。

東京都は5月、夏季の4ヶ月間、都内すべての一般家庭の水道基本料金を無償にするため、368億円の補正予算案を都議会に提出すると発表しました。水の使用量に応じた料金は徴収されるものの、基本料金の無償化により、1世帯あたり4ヶ月間で約5,000円の負担軽減が見込まれます。物価が高騰する中、家計を支援することでエアコンの使用を促し、熱中症を予防することを目的としています。

さらに、東京都品川区は、7月下旬から9月上旬にかけて、区内に住む75歳以上の高齢者宅を2回訪問し、スポーツドリンクなどを無償で配布すると発表。高齢者の熱中症対策および見守り強化を図ります。

スマートテクノロジーによる家庭での熱中症対策

エアコンの導入や使用促進だけでは、部屋ごとの温度や湿度の違いに十分対応しできない場合もあります。こうした課題に対応する手段として注目されているのが、スマートデバイスの活用です。

ミサワホームでは、外出先から家庭の室内温度をスマートフォンで確認し、エアコンの操作ができるIoTサービス「LinkGates」を提供。一定の温度になると「熱中症アラート」が通知され、部屋ごとの熱中症リスクを把握することも可能です。また、家庭用スマートデバイスを提供するSwitchBotは、温湿度などをモニターするスマートリモコン「ハブ2」と、「見守りカメラ3MP」を組み合わせて使用することを提案。これにより、別の部屋で過ごす子供や高齢者の状態をリアルタイムで確認でき、熱中症の兆候を早期に察知することができます。

また、熱中症に特化した腕時計型のウェアラブルデバイス「熱中対策ウォッチ カナリア」などの導入も進んでいます。このデバイスは、体の中心部の温度である「深部体温」の上昇を感知し、熱中症のリスクが高まった際には音や振動で注意を促します。東京都は、このデバイスを在宅高齢者のほか、都立学校の教員や生徒、屋外で働くエッセンシャルワーカーに配布し、熱中症の予防に役立てる方針です。

猛暑から人を守り、社会のレジリエンスを高める

近年の猛暑は、世界各地で多くの命と健康を奪っています。世界経済フォーラムの白書「Insuring Against Extreme Heat: Navigating Risks in a Warming World(猛暑への対応:温暖化が進む世界のリスクと備え)」では、猛暑による死者が、洪水、ハリケーン、地震、山火事による死者数を合計した数を上回っていると指摘しています。

猛暑への抜本的な対応として、長期的な気候変動対策の継続は欠かすことができません。同時に、目の前にある熱中症リスクから、最も脆弱な人々を守るための即時的な対策も不可欠です。家庭と職場といった日常生活の場における備えを強化することは、人命を守り、熱中症による健康被害を防ぎ、今後さらに深刻化が予想される熱波への社会全体のレジリエンス強化にもつながります。

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家庭でのエアコン使用を促す予防策スマートテクノロジーによる家庭での熱中症対策猛暑から人を守り、社会のレジリエンスを高める

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Pascale Junker

2025年6月3日

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