「ポリクライシス」時代に、中小企業が国際市場で活路を見出すには

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規制が小規模企業(MSMEs)にとって新たな負担とならないよう、国際貿易のルールづくりや政策決定に彼らの声を反映させることが重要です。 Image: Pexels

Matthew Wilson
Permanent Representative and Ambassador, Permanent Mission of Barbados
Ratnakar Adhikari
Executive Director, Enhanced Integrated Framework (EIF)
  • 小規模企業は、資金調達の制約から規制の複雑さまで、貿易における大きな障壁に直面しています。
  • 貿易データの向上や的確な金融支援、デジタルツールを通じ、こうした障壁を克服し、新しい市場へのアクセスを支援する取り組みが世界的に進んでいます。
  • こうした支援により、小規模企業はグローバルに競争力を持ち、包摂的な経済発展をけん引する存在となり得ます。

中小零細企業(MSMEs)は、世界の企業の95%、雇用の60%を占めており、グローバル経済の基盤を成しています。一方、資金へのアクセスの制限、複雑な規制、デジタルインフラの未整備など、国際貿易の恩恵を十分に享受する上での障壁に直面し続けています。

これらの課題は、経済ショック、サプライチェーンの混乱、気候変動、地政学的な不確実性という「ポリクライシス(複合危機)」によって一層深刻化しています。

こうした障壁を克服するためには、国際的な連携の強化が不可欠です。2017年のWTO第11回閣僚会議で発足した世界貿易機構(WTO)のMSMEs非公式作業部会(MSMEグループ)は、透明性の向上、貿易情報へのアクセス改善、規制改革を推進し、国際貿易におけるMSMEsの参加を促進してきました。

同様に、他の国際機関も開発途上国や最貧国(LDCs)に対し、ターゲットを絞った技術支援の強化、資金アクセスの改善、貿易関連能力の向上を通じてMSMEsを支援しています。一方、現在進行中のポリクライシスを鑑みると、特に最貧国のMSMEsが取り残されないよう、さらなる取り組みが求められています。

MSMEsに対する貿易障壁の撤廃

MSMEsは多くの場合、複雑な国際貿易上のルールを理解し、対応するためのリソースや専門知識を十分に備えていません。WTOのMSMEグループは、Trade4MSMEsGlobal Trade Helpdesk(グローバル・トレード・ヘルプデスク)といったプラットフォームを通じ、手続きの案内やビジネス情報の提供により貿易情報へのアクセスを改善してきました。さらに、新たに公開されたWTO Tariff & Trade database(関税と貿易に関するデータベース)は、関税から加盟国の最近の関税措置を含む輸入データまで、MSMEsが詳細にアクセスできる環境を整えています。しかしながら、特に最貧国の多くの企業にとって、規制の不整合や高コストの貿易促進措置が依然として大きな障壁となっています。

実務面では、国際貿易センター(ITC)がMSMEsの貿易統合を促進する上で成果を示しています。2023年だけでも、ITCは5,000社以上のMSMEsに対し貿易や市場情報に関するトレーニングを支援し、2,400社以上の企業の競争力が向上しました。これらのMSMEsの約70%は、新たな市場や買い手へのアクセスなど、ビジネス面でのポジティブな成果を報告しています。

MSMEsの未来を支える資金調達

資金へのアクセスは、MSMEsがグローバル統合を目指す上で最大の障壁となっています。WTOのMSMEグループは、小規模企業に特化した越境決済ソリューションや資金調達メカニズムの改善に向けたベストプラクティスの共有を促進してきました。第13回WTO閣僚会議では、貿易とジェンダーに関するWTO非公式作業部会と連携し、女性起業家が抱える特有の課題に対応した金融包摂イニシアティブの総覧を発表しました。

この総覧に含まれる国際金融公社(IFC)は、MSMEs向け資金調達のグローバルな拡大に顕著な成果を上げています。2023年には、IFCの金融クライアントがMSMEsに対して6,440万ドルの融資を行い、その融資総額は3,532億ドルに達し、女性所有企業がポートフォリオの約10%を占めています。

さらに、拡大統合フレームワーク(EIF)はターゲットを絞った支援で資金ギャップを埋めています。ウガンダでは、政府がEIFのパイロットプロジェクトを国家予算に組み入れました。EIFが支援するこの地区商業サービスプロジェクトでは、MSMEsの商業サービスおよび貿易関連の金融情報へのアクセスを改善。賃金の増加と雇用拡大の双方を牽引し、中央値賃金総額が100%以上増加する成果をもたらしました。

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MSMEsにとってゲームチェンジャーとなるデジタル化

デジタルトレードは、特に最貧国のMSMEsにとって大きなチャンスをもたらす一方、デジタルギャップが依然として大きな課題となっています。WTOのMSMEグループは、サイバーセキュリティ対策、電子書類の認証、ペーパーレス貿易に注力してこの課題に取り組んでいます。更新されたTrade4MSMEsプラットフォームでは、国レベルのデータや600以上のリソースが提供され、MSMEsがデジタルトレードにアクセスしやすくなるよう支援しています。

EIFの支援を受けた最貧国の取り組みも、MSMEsによる輸出市場へのアクセスを後押ししています。セネガルでは、1,600以上のMSMEsが国によるeコマース・プラットフォームに参加し、そのうち40%が女性主導企業です。カンボジアの Cambodia Trade (カンボジア貿易)ポータルは、同国で300以上の雇用を創出。南スーダンでは、MSMEsのデジタルトレード参加を促進する初のeコマース・ハブが開設されました。

MSMEsのグローバルバリューチェーンへの統合

MSMEsは、高額なコンプライアンスコスト、特に基準や規制への対応、市場アクセスの障壁により、グローバルバリューチェーンへの統合に困難を抱えています。MSMEグループが注力する「経済事業者プログラム」におけるMSMEs向け特別措置は、小規模企業に利益をもたらす前向きな一歩である一方、引き続き能力の強化が不可欠です。

MSMEsの声を国際舞台に届けるため、MSMEグループは「MSMEスポットライトセッション」を開催しています。最新のセッションでは、ガーナとドイツのチョコレート企業Fairafricが、現地生産と革新的な貿易金融ソリューションによりサプライチェーンの課題に取り組む様子を紹介しました。過去にはバルバドス、ナイジェリア、イギリスなどのMSMEsも登壇しています。

有望な事例は、最貧国の農業および製造業にも見られます。トーゴでは、EIFの支援で大豆輸出が2015年の70万ドルから2023年には6,000万ドルに増加。MSMEsや小規模農家による輸出向け加工産業に2億5,000万ドル以上の外国投資が呼び込まれました。

ラオス人民民主共和国の社会的企業Ock Pop Tok(社名は「東西の出会い」を意味)は、EIFの支援により100人以上の農村部における女性職人と連携し、国際市場向けの伝統工芸品を拡大しました。ジブチでは、企業の正式化により2,000社のMSMEsが資金調達や貿易機会にアクセス可能となり、グローバル市場への道を開いています。これらの事例は、的確な支援がMSMEsの国際競争力を高めるうえでいかに効果的であるかを示しています。

ポリクライシスの時代におけるMSMEsのレジリエンス強化

世界がポリクライシスに直面する中、MSMEsが必要とするのは単なる生き残り策ではなく、レジリエンスと成長を促進する環境の整備です。WTOのMSMEグループの取り組みと、EIF、ITC、IFCなどの支援メカニズムが連携し、MSMEsの国際貿易参加のための強固な基盤を築いてきました。一方、残された課題を克服するには以下の取り組みが必要です。

  • 貿易政策の強化と調整:MSMEsを貿易交渉や政策策定に積極的に参加させ、規制がさらなる負担とならないようにすること。
  • 拡張可能な金融ソリューション:すでに成功している施策を土台に、貿易金融へのアクセス拡大やリスク軽減の仕組みを整え、MSMEsの国際市場への統合を支援すること。
  • デジタルトレードの加速:eコマース・プラットフォーム、デジタル決済、サイバーセキュリティへの投資を通じ、デジタル技術の導入と活用を促進し、MSMEsの貿易課題を前進させること。
  • 能力強化支援:国際基準の遵守、製品認証の取得、複雑な貿易物流の対応などを含む、市場連携や輸出準備の支援を継続すること。

これらの施策により、特に開発途上国や最貧国のMSMEsは、経済成長、雇用創出、持続可能な貿易の強力な原動力となることが期待されます。今問われているのは、MSMEsを支援すべきか否かではなく、彼らに必要な拡張可能なソリューションをいかに速やかに実装できるかなのです。

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MSMEsに対する貿易障壁の撤廃MSMEsの未来を支える資金調達MSMEsにとってゲームチェンジャーとなるデジタル化MSMEsのグローバルバリューチェーンへの統合ポリクライシスの時代におけるMSMEsのレジリエンス強化

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