政治における女性リーダーが「未来の働き方」に必要な理由

「働き方の未来」を形作る職場におけるジェンダー平等のためには、政治におけるジェンダー平等が必要です。 Image: Reuters
働き方の未来に必要なものは、テクノロジーや自動化、スキルアップだけではありません。それは権力についての課題でもあります。現在、その権力は不平等に分配されたままです。女性はグローバル人口の半分を占めていますが、世界中で議席の26.5%、閣僚職の22.9%を占めているに過ぎません。この政治的不均衡は、単に代表性の課題であるばかりではなく、経済にも現実的な影響を及ぼしています。
女性が政治権力を握ると、経済は成長します。女性の議会代表が10パーセントポイント増加すると、GDP成長率が0.7パーセントポイント増加することが分かっています。また、女性の政治代表がより多い国では、有給家族休暇、給与の透明性、育児インフラなど、ジェンダー平等の労働市場を支援する政策が実施されています。これらの政策は女性だけに恩恵をもたらすものではなく、労働参加率の増加、生産性の向上、経済成長の促進につながります。
しかし、数十年にわたる進歩にもかかわらず、政治的代表におけるジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を実現するには、まだ169年もかかります。政策レベルでの構造改革がなければ、労働市場における不公平は解消されず、人口の半分が経済的な潜在能力を発揮できないままになります。AIが産業に破壊的イノベーションをもたらし、人口動態が変化し、経済的不確実性が高まる中、政治的リーダーシップにおけるジェンダーギャップを解消することは、道徳的な要請であるだけでなく、経済的必然でもあります。
労働人口形成における政治的代表の力
政治的意思決定は労働市場を形成します。税制や医療システムから教育や労働政策に至るまで、今日可決される法律が明日の経済機会を決定します。指導的地位に女性が不在である場合、性別がもたらす労働障壁に対処する政策は欠如しがちです。
一貫して行われている調査では、女性が政治的役職に就くと、経済成長に役立つ社会政策を優先することが示されています。これには、教育、医療、有給の育児休暇、育児支援などが含まれます。これらは単なる「女性の課題」ではありません。労働参加率を高め、生産性を向上させ、長期的な財政安定性を強化する経済成長戦略なのです。
雇用のジェンダーギャップを解消すれば、グローバルGDPは12兆ドル増加し、グローバル経済における生産高が11%増加する可能性があります。しかし、これを達成するには構造的な政策転換が必要であり、女性が指導的地位に就くことで、その転換はより迅速に進むでしょう。
女性の政治参加率が高い国では、ジェンダーギャップを迅速に解消する強力な労働政策が実施されています。例えば、賃金透明性に関する法律やジェンダー平等な育児休暇に関する政策を制定している国では、政府に女性が参加している割合が有意に高いのです。一方、女性の政治参加が少ない国では、賃金平等や労働者の保護が遅れています。
メッセージは明確です。公平な労働市場を望むのであれば、ルールを作る女性を増やす必要があるということです。
政治における女性の活躍がジェンダー平等な労働政策を推進
女性の政治参加とジェンダー平等な労働政策の関係性は、十分に立証されています。女性がリーダーとして活躍することで、包摂的かつ広範な経済的な成功を目指すための政策や法律の制定が進められるようになります。
1. 育児休暇と育児への投資
有給の育児休暇と利用しやすい育児サービスは、女性が労働力を維持し、賃金格差の解消に不可欠です。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生した際には、女性の無給労働は153%も増加し、現在も男性よりも1日あたり2.8時間多く無給労働を行っています。
女性のリーダーシップが強い国では、幼児教育や有給家族休暇に投資する強い傾向も見られます。例えば、女性の国会議席が48%を占めるアイスランドでは、世界でも最も進歩的な育児休暇政策の一つを導入しており、両親に平等な有給休暇を提供しています。その結果、女性の労働参加率が上昇し、よりバランスの取れた育児体制が実現しました。
2. 賃金の透明性と賃金の平等
賃金の透明性に関する法律は、企業に給与情報の開示を義務付けることで、賃金格差の縮小を早めます。ドイツ、カナダ、英国など、女性が指導的役割を担う割合が高い国々では、賃金格差を縮小する賃金透明性に関する義務が導入されています。
女性の政治代表率が平均32%の欧州連合(EU)では、最近可決された賃金透明性指令により、企業は賃金におけるジェンダーギャップがあれば報告し、賃金差を正当化することが義務付けられています。これらの政策は、経済的公平性を優先する政治的リーダーシップによるものです。
これに対し、女性の政治代表率が低い国々では、法規制の執行が弱いため、賃金格差が停滞しています。
3. テクノロジーとAI分野における女性のリスキリング
AIと自動化により、2030年までに世界で9,200万の雇用が失われると予測される中、スキル習得への取り組みが今後の労働のあり方を左右することになります。しかし、現在のスキル習得への取り組みではジェンダー平等に向けた対応が不十分であり、AI、ビッグデータ、フィンテックの分野では女性の数が少ないままです。
女性リーダーが強い政府は、男女別を対象としたリスキリング・プログラムに投資しています。例えば、女性閣僚が50%を占める政府の後押しを受けたカナダの女性起業戦略では、STEM(科学、技術、工学、数学)分野や高成長産業における女性のアップスキリング(技能向上)を目的としたイニシアチブに投資しています。
このような政策を支持する女性のリーダーシップがなければ、女性はデジタル経済から取り残されるリスクがあります。
169年続く政治的リーダーシップの障壁を打ち破る
現在の進捗状況では、政治的代表性におけるジェンダー・パリティの確保までには、あと2世紀近くかかります。では、変化を加速させるにはどうすればよいのでしょうか。
1. 政治代表における男女クオータ制の導入
政治ポストに男女クオータ制を導入している国々では、女性の代表者数がより速く、より持続的に増加しており、政策や経済の大幅な転換につながっています。世界で最も女性の議会代表が多いルワンダでは、2003年に法律で男女クオータ制を導入し、議席の最低30%を女性が占めるよう義務付けました。このクオータ制と強い政治的意思が相まって、女性議員の割合は61%に達し、ほとんどの先進国を上回る結果となりました。
メキシコ、アルゼンチン、フランス、ノルウェーでも、クオータ制が効果を上げています。しかし、ジェンダーに基づくクオータ制に課題がないわけではありません。形骸化により、女性が当選しても実際の意思決定権が与えられないという結果になる場合もあります。こうした課題があるにもかかわらず、データは明確です。すなわち、クオータ制は女性の政治参加を加速させ、経済や社会全体に恩恵をもたらす政策の変化を推進するのです。より多くの国々がこうした措置を採用するにつれ、グローバル人材は、より公平で包摂的な経済システムから利益を得られるようになります。
2. 政治立候補への構造的障壁の除去
女性は、資金面での障壁、政党内の偏見、無報酬の介護責任など、立候補にあたって不均衡な課題に直面しています。女性候補者への選挙資金援助や指導者育成プログラムなどの政策介入は、進歩を加速させることができます。
女性が立候補する際には、男性候補者よりも少ない資金しか得られないという大きな財政的障壁に直面し、競争力が制限されます。米国では、連邦議会に立候補した女性は男性よりも29%少ない資金しか集められず、メキシコではジェンダー平等に向けた改革が行われる前は、女性候補者は公的資金として38%少ない資金しか得られませんでした。
政党の偏見や無報酬の介護義務は、女性の立候補をさらに制限します。ニュージーランド、カナダ、スウェーデンなどの国々は、女性の政治家向けの育児・介護休暇制度を導入し、介護を障害要因から取り除いています。このような金銭的・構造的な障害を取り除くことは、リーダーシップにおけるジェンダー・パリティを実現するために不可欠です。
3. 企業のアカウンタビリティを強化する
各国政府と企業は協力して、企業のリーダーシップが労働人口の構成を反映するようにしなければなりません。取締役会におけるジェンダー・ダイバーシティが高い国では、パブリックセクターと企業が互いに影響を及ぼし合うため、ジェンダー平等な労働政策がより強固になる傾向があります。
リーダーシップにおけるジェンダー・パリティ
働き方の未来は、法的な決定、企業の政策、公共投資を通じて、今、形作られつつあります。現在の道を歩み続けるのであれば、女性は政治権力と経済機会において依然として十分に代表されないままです。
しかし、私たちは選択することができます。より多くの女性を選出し、女性のリーダーシップを支援し、構造改革を実施することで、労働市場を形成する政策に労働力の全体像を反映させることができるでしょう。
政治的リーダーシップにおけるジェンダーギャップは、経済格差そのものです。この格差をなくすことは、公平性の問題にとどまらず、経済繁栄の青写真となるのです。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2025年3月1日