産業の深層

旅行がグローバル・コネクティビティの未来を形成するための、3つの方法

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旅行業界は、協力が共同開発を促進する一例を示しています。 Image: REUTERS/Ana Beltran

Jane Sun
Chief Executive Officer, Trip.com Group
  • 世界の旅行市場は経済の原動力の一つですが、その成長は持続可能かつ包摂的、そしてインパクトのあるものでなくてはなりません。
  • 業種や国境を越えた効果的なパートナーシップは、グローバル・コネクティビティの可能性を最大限に引き出す鍵となります。
  • 技術の革新とそれに対する投資は、旅行を通じたつながりの強化に活用することができます。

グローバル・コネクティビティを受け入れ、投資することが、かつてないほど重要になっています。世界は、グローバル化の基盤を脅かす長年の混乱からようやく抜け出したものの、依然として多くの課題が残されています。

国際通貨基金(IMF)は、新型コロナウイルスのパンデミックによって2020年の世界経済が3.5%縮小し、過去約1世紀において最も急激な後退となったと推計しています。国際労働機関(ILO)の試算によると、同年の雇用損失は2億5,500万人分に相当。旅行・観光業界は、グローバルなバリューチェーンの中断により最大の打撃を受けた一方、その回復の速さはグローバル・コネクティビティのレジリエンスと可能性を示しています。

人々は、再び世界中を移動し始めています。国際観光客到着数は、2020年から2022年にかけて27億人分を喪失したものの、国連観光機関(UNWTO)は、2024年末までにパンデミック前の水準に達するだけでなく、それを上回ると予測。トリップドットコム・グループのプラットフォームでは、アウトバウンドの旅行者数がすでにパンデミック前の水準を20%上回っています。

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の調査によると、旅行・観光業界は、2020年に推定4.5兆ドルと6,200万件の雇用を失ったものの、回復を遂げ、さらなる高みに到達しようとしています。2024年にはパンデミック前の水準に戻り、今後10年の間に成長を続け、1億人以上の新規雇用と年間5兆ドルもの付加価値を生み出すと予想しています。

一時的に孤立した状態から再びつながりを取り戻す旅路は、楽観的な見通しをもたらす一方、グローバルなエコシステムの脆弱性も浮き彫りにしました。グローバル・コネクティビティの原動力として、旅行業界がどのように進化し、適応していくかは、世界の未来に大きな影響を与えるでしょう。その可能性を実現するために、私たちが進むべき道は、次の3つの重要な原則に基づいたものにしなければなりません。

1. つながり、協力、開放性を受け入れる

人々、企業、地域社会をつなぐことにより、旅行は経済活動を促進し、経済の原動力として世界のGDPの約10%を占め、世界中で10人に1人の雇用を支えています。旅行には、グローバルなつながりを強化し、理解、尊重、協力の基盤を提供するという、さらに重要な役割があります。これは、すべての人がより建設的で協力的、かつ相互につながる世界における未来の形成に役立ちます。

旅行を通じたつながりを優先する国や地域は、自国の経済を強化し、世界との関わりを深める基盤を構築する可能性を実現しています。

サウジアラビアは、経済多様化を目指す「ビジョン2030」計画において、観光を重要な柱として位置づけています。将来を見据えた投資により、観光部門は2034年までにGDPの最大16%を占め、国内において5人に1人を雇用するまでに成長すると見込まれています。

パンデミック以前、GDPの20%近くを観光業から得ていたタイは、より多くの国の人々がより長く滞在することができるよう旅行のアクセスを向上させることにより、経済をさらに強化。同国では、来年、観光業を少なくとも7.5%成長させることを目指しています。

中国では、急速に拡大するビザ免除プログラムが、GDPの0.5%を占めるインバウンド旅行市場を発展させる鍵となり、1%の増加により約1.3兆人民元(1778億ドル)を追加でもたらす可能性があるため、投資による成果が見込まれています。

トリップドットコム・グループのデータによると、シンガポール、マレーシア、アラブ首長国連邦(UAE)、スリランカなど、ビザの発給条件を緩和した渡航先では、パンデミック前の旅行者数に対して最大3桁の成長を得ています。

2. 持続可能かつインパクト重視の考え方を採用する

相互のつながりによる成長と発展は、人々、地域社会、環境に対してポジティブかつ持続的な成果をもたらすことが重要であり、経済の持続可能性においても同様です。

旅行者、旅行会社、旅行先、地域社会など、誰もが旅行のより持続可能な未来を確保する責任を共有しているのです。こうした成長を排出量から切り離すための心強い進展が見られ、特に飛行機の利用に関して、環境への影響を意識する消費者が増えている一方、課題は未だに多く残されています。

持続可能な成長を実現するためには、協力が不可欠です。国際航空運送協会(IATA)は、旅行部門全体にける二酸化炭素排出量の半分以上を排出する航空業界全体の目標として、二酸化炭素排出量を2050年までにネットゼロにすることを掲げています。旅行部門においては、他の業界でも同様の取り組みが進められています。2023年以降、2,600以上のホテル施設がトリップドットコム・グループの「低炭素ホテル基準」に参加し、400万人にのぼる宿泊客を受け入れました。同基準は、2030年までに排出量をほぼ半減させる見込みです。

旅行と観光がもたらす経済成長の機会を受け入れるにあたり、環境への悪影響を最小限に抑えるだけでなく、その成長を持続可能なものにしなければなりません。ベネチア、バルセロナ、京都のような人気観光地では、需要の増加によるさまざまな課題に直面してきました。業界は、オーバーツーリズムの課題に対処するために協力し合い、京都の「手ぶら観光」サービスのような創造的な解決策を導入することにより、旅行者に豊かな体験を提供すると同時に、目的地への負担を軽減する必要があります。また、旅行会社はIT技術を活用することにより、トリップドットコムの旅程アシスタント「TripGenie(トリップジェニー)」のようなツールを通じて、より持続可能な旅行の選択肢を提案することができます。

3. 投資とイノベーションにおいて包摂性を優先する

旅行業界の中心にあるのは、地域社会です。レジリエンスが高く、持続可能な旅行部門の未来を確保する最善の方法の一つは、地域社会により大きな利害関係を与えることです。

包摂的な成長こそが持続可能な成長です。 知名度の低い目的地を開発・促進することにより、オーバーツーリズムの負担を軽減しながら新たな機会を創出することができます。旅行者に新しい体験を提供し、投資家に新たな市場を開くと同時に、利益をより公平に分配することにより、地域社会に経済的・社会的な発展の機会をもたらすのです。

その一例として、トリップドットコム・グループは中国各地に「カントリーリトリート」の投資を実施。過去4年の間に、地元経済に8,000万ドルの価値と2万人の雇用をもたらし、1人当たりの年間平均収入を5,500ドル増加させました。

デジタルコンテンツの革新は、特に若い旅行者に向けて、新興のデスティネーションの可能性を訴求することができます。旅行業界のニュースサイトであるスキフト(Skift)の最近の報告によると、ミレニアル世代とZ世代の旅行者の半数以上が、旅行計画にソーシャルメディアを利用。知名度の低い目的地が持つユニークな魅力により、旅行者の関心を惹きつける機会を提供しています。AIのような技術は、よりパーソナライズされた洞察を可能にし、これらの目的地をより見やすく、魅力的、かつアクセスしやすいものにすることができます。

つながりが強く、持続可能かつ包摂的な未来の構築を旅行業界が選択することにより、今後の展望は非常に明るいものとなるでしょう。

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1. つながり、協力、開放性を受け入れる2. 持続可能かつインパクト重視の考え方を採用する3. 投資とイノベーションにおいて包摂性を優先する

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