食料生産の未来を変える鉱業の可能性
鉱業は、食料安全保障の強化に欠かせない原料をより持続可能に供給することができます。 Image: REUTERS/Amit Dave (INDIA - Tags: BUSINESS AGRICULTURE)
Iliass El Fali
Managing Director, Corporate Strategy, Performance Management and Operations Coordination, OCP Group- 世界人口は、2050年に約100億人に達すると予測されており、食料やエネルギーへの世界的な需要は飛躍的に増加する見込みです。
- 2050年までに食料安全保障を担保するためには、農業生産を50%以上増加させる必要があります。
- 鉱業は、気候変動の緩和と適応に欠かせない原料を提供し、農業の変革を通じて食料生産の拡大を後押しすることができます。
2050年、世界人口は約100億人に達すると予測されています。こうした中、人口増加に伴い、食料やエネルギーへの世界的な需要増が見込まれる一方、気候変動の影響により、世界の食料安全保障は脅かされています。気候変動と闘い、人類が自らを養っていくためには、グリーントランジションの加速が不可欠です。
2050年までに食料安全保障を担保するためには、農業生産を約56%増加させる必要があります。これを達成する上で重要な役割を果たすのが、鉱業業界です。気候変動の緩和と適応に欠かせない原料を提供し、農業の変革を通じて食料生産の拡大を後押しすることができるのです。
農業の変革を支える鉱業
細胞分裂と光合成を助け、健康な根の成長を促すリン鉱石。特に若い植物の生育に欠かせない栄養素となる有限の天然資源ですが、リン鉱石の産地は、特定の国や地域に偏っています。
鉱業は、リン酸肥料の主原料となるリン鉱石を供給することで農業を支えています。健康な土壌を作る上で、リン酸は、窒素やカリウムと並んで極めて重要な栄養素なのです。
私たちが口にする食品の実に半分が、その生産を鉱物肥料に頼っています。持続可能で生産性の高い農業システムへの移行を実現し、農業が、環境負荷を抑えつつ、土壌の質と植物の栄養価を高める上で、鉱業は極めて重要な役割を担っているのです。
鉱業は、食料安全保障の確保に加え、温室効果ガス(GHG)排出削減という観点においても、農業に貢献することができます。一方、理論的に達成できる最高収量と実際の収量との差である「収量格差」を埋めることは、同じ面積の土地でより多くの食料生産を可能にすることを意味し、その実現の鍵となるのが肥料です。
現在、約46%の土壌でリンが不足しており、この傾向は、特に熱帯地域において顕著です。食料生産量を増やし、グローバルな食料安全保障を支える上で、リン不足の解消は喫緊の課題といえるでしょう。
一方、炭素貯留やその他の持続可能な取り組みを強化することで、肥料使用による排出量削減が可能です。例えば、それぞれの土壌のニーズや植物の要件に合わせて鉱物栄養素が調整・配合されたカスタマイズ肥料は、特定の土壌に適したソリューションで土壌の健康を改善し、収穫量を増やことができます。
これにより、炭素貯留が促進されると同時に、肥料の不適切な使用が最小限に抑えられ、環境フットプリントの削減にもつながります。ある研究は、土壌が世界の年間二酸化炭素排出量の10%から20%に相当する炭素を貯留できることを明らかにしており、この潜在能力は土壌の健全性を高める革新的な取り組みによりさらに高めることができると期待されています。
イノベーションで気候変動に立ち向かう
今後10年でこれを実現するためは、鉱業や農業技術によるイノベーションの力を解き放つ必要があります。
世界の温室効果ガス総排出量の4%から7%を鉱業が占めると推定される中、世界の鉱業企業による研究開発への投資は、ヘルスケア、情報通信技術(ICT)、運輸部門など他の産業セクターに比べ進んでいません。新たなテクノロジーを用いて、主要な鉱物資源のリサイクル、消費削減、再生に取り組むことで、食料生産量の増加に欠かせない原料のより持続可能な供給を実現することができるでしょう。
さらに、デジタル技術、データ分析、自動化、リアルタイムモニタリングなどの先端テクノロジーは、供給チェーンの柔軟性と効率性を高めます。テクノロジーの力で企業が市場の変化により迅速かつ効果的に対応できるようになると、土壌要件に適したカスタマイズ肥料の生産が進み、拡大する世界のリン需要に応えることができるでしょう。
同時に、水のリサイクルやモニタリングなど、持続可能で効率的な水利用に向けた取り組みは、鉱業と農業の両産業にポジティブな影響を与えます。
また、大気中の炭素の吸収・固定と土壌の健康改善を助ける森林再生も、鉱山現場において欠かせません。鉱業および金属業界は、カ―ボンニュートラルの実現に向けて自社の「スコープ1」および「スコープ2」の排出量に対する取り組みを進めていますが、企業活動によって間接的に排出される「スコープ3」の排出量への対策も強化する必要があります。
グリーントランジションが進む中、未来の需要を満たすための新たな生産能力に投資し、イノベーションを起こす時が来ています。鉱業企業は、次世代のために、資源と環境の保全を中核に据えた持続可能な方法で、取り組みを加速する必要があります。
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