機関投資家や富裕層が独占していた非上場株式市場を個人投資家にも
非上場株式市場のさらなる開放は可能か Image: Photo by Lukas Blazek on Unsplash
- これまで機関投資家やごく少数の人々が、非上場株式市場のリターンや分散投資のメリットを享受してきました。
- 個人投資家もこうしたメリットを享受し、資産形成や長期的な金融保障に役立てるべきですが、それは簡単なことではありません。
- 世界経済フォーラムの「Future of Capital Markets(資本市場の未来)」イニシアチブは、アクセンチュアとラザードの協力のもと業界の専門家を招集。個人投資家へ責任あるアクセスを拡大する方法について検討しました。
これまで機関投資家やごく少数の人々が、非上場株式市場のリターンや分散投資のメリットを享受してきました。資産形成と長期的な財務的安定を確保するためには、個人投資家もこうしたメリットを享受できるべきです。しかし、非上場株式市場を広くアクセス可能にすることは、機会を提供する一方でリスクも伴います。非上場株式市場への投資は質的に複雑で、公開市場への投資に比べて透明性が低い上、一般的に流動性が低く、ロックアップ期間も長いためです。
世界経済フォーラムの「Future of Capital Markets(資本市場の未来)」イニシアチブは、アクセンチュアとラザードの協力のもと業界の専門家を招集。個人投資家へ責任あるアクセスを拡大する方法について検討しました。結果をまとめた白書「Broadening Access to Private Markets(非上場株式市場へのアクセスの拡大)」より、以下にその知見の一部を紹介します。
非上場株式市場へのアクセスは重要
世界経済の発展の中心的存在は証券取引所などの公開市場でしたが、大きな転換が進んでいます。ますます多くの企業が、非上場株式市場を好むようになっているのです。私的な資金調達に依存し、株式公開を先延ばしにする、あるいは回避することで、長期にわたって非公開企業のままでいることを選択しているからです。その結果、世界金融システムの中でも、非公開企業や不動産など証券取引所で取引されていない資産に投資できる非上場株式市場の規模は拡大し、2022年3月時点で9兆6,000億ドルに達しています。
この変化は、世界経済と投資収益に大きな影響を与えています。非上場株式市場は、公開市場のみを利用した場合のポートフォリオに比べて、リターンの向上、追加的な収益の創出、リスクの分散が得られ、富を生み出すことが可能です。ただし、これらのメリットを享受するには手数料やコストがかかり、流動性ロックアップ期間が存在します。
現在、ポートフォリオの一部としての非上場株式市場(プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、不動産、インフラなど)へのエクスポージャーは、個人投資家と富裕層とでは大きく異なっています。これは、個人投資家が非上場株式市場に直接、あるいは間接的にアクセスできる手段が限られていることが一因です。個人投資家にとってこのことは、投資による全体的な資産形成の可能性や、市場の乱高下に耐えるという点で重要になります。
アクセス拡大のメリットとリスク
非上場株式市場へのアクセスが広がれば、分散投資が可能になり、リターンや収益の向上も期待できます。一方、プライベート投資には透明性がないため、個人投資家には不向きである可能性があります。
プライベート・アセットへの投資は通常、投資家にとって迅速な清算ができないことを意味します。加えて、こうした投資は一般的に、平均的な個人投資家には手の届かない高額な手数料と最低投資金額の制約がかかります。
自由に投資できる資金量、金融教育、リスク・リターン選好度、流動性リスク(ロックアップ期間の長期化)を負担する意欲などには大きなばらつきがあり、全ての個人投資家がこうしたリスクに耐えられるわけではありません。
このことは、多くの個人投資家にとってアクセス拡大が適切でない可能性があることを意味します。たとえば、投資可能資産が少ない層(マス・マーケット)では、投資家保護と流動性リスクへの配慮が重要になります。それに比べて、マス富裕層や富裕層の投資家は、金融教育を受けることができ、リスク許容度が高く、ファイナンシャル・アドバイザーを利用できるため、投資機会と参加意欲があります。
こうした投資家は、適切な商品へのアクセスが不足しているだけなので、非上場株式市場にアクセスする際には知識のあるファイナンシャル・アドバイザーの利用が役に立つでしょう。世界経済フォーラムの白書では、個人投資家のタイプ別に、マネージド・ソリューション(低所得者層向け)からオーダーメイドや直接投資(高所得者層向け)まで、潜在的な商品ソリューションについて論じています。
また、考慮すべき潜在的な市場全体の影響も存在します。競争の激化と価値評価圧力、逆選択リスク、市場の分断化、規制上の課題などです。多くの場合、こうしたリスクは公開市場に存在するものですが、それが非上場株式市場にどのように反映されるか予測するのは困難かもしれません。
個人投資家の非上場株式市場へのアクセス拡大が意味するもの
世界経済フォーラムは、同白書で、個人投資家の非上場株式市場へのアクセス拡大がどのようなものになり得るかというビジョンを示しました。これには、個人に加えて、さらに重視されるファイナンシャル・アドバイザーの新たなニーズを満たすために、目的に合った教育を再構築することが含まれます。投資家のアクセス手段(雇用時の積み立てや退職金制度、オンライン証券プラットフォームまたはアプリ、ファイナンシャル・アドバイザーを通じた投資または直接投資)の改善も重要です。さらに、個人投資家のニーズに合わせた革新的な商品の必要性や、流動性の管理と流通市場の整備を改善する方法も示しています。
同白書では、需要サイド、供給サイド、市場に分けて、それぞれ個人投資家へのアクセスを責任ある方法で拡大するために取り組むべき検討事項がまとめられています。
重要なのは、これらの要因がすべて相互に影響し合うということ。真の進歩は、コアリションや官民パートナーシップを通じて、これらの要因に並行して対処されて初めて達成されるのです。いずれも単独で、あるいは1つのステークホルダーだけで解決できるものではありません。
必要な次の一手は
世界経済フォーラムのレポート「Broadening Access to Private Markets(非上場株式市場へのアクセスの拡大)」では、アクセス拡大に向けて前進するための以下のような行動を呼びかけています。
すべてのステークホルダーに対して:
- 主要なステークホルダー(最重要:ファイナンシャル・アドバイザーや投資家自身を含む)に対する教育・啓発活動を再考する。
企業(富裕層向け資産管理会社、証券会社、フィンテック企業、インフラ・プロバイダー、ファンド・マネージャー、プライベート・エクイティなど)に対して:
- 個人投資家の流動性、投資ホライズン(投資期間)、リターンのニーズに合わせて商品を調整する。
- 業界コンソーシアムを形成し、標準化を加速させる。
- 投資家ジャーニーを簡素化する。
- 技術革新への投資と探求を行う。
政策立案者と規制当局に対して:
- 個人投資家の流入口にある制限を見直し、主要なアクセスポイントを拡大する。
- 投資家保護に留意しつつ、個人投資家の参加拡大を目指した政策手段を構築する。
- マネージド・ソリューション(年金基金など)を通じた非上場市場へのエクスポージャーの制約緩和について評価を行う。
官民連携:
- 用語、書式、報告、プロセスを標準化する。
- 責任あるデータ共有をサポートする。
同白書は、アクセンチュア、ラザード、アポロ、アクサ、モーティブ・パートナーズ、BMOフィナンシャル・グループ、カルタ、ムーンフェアが共同で作成しました。
その他協力企業:ブロードリッジ、BNYメロン、ドイツ銀行、エドワード・ジョーンズ、グレースケール・インベストメンツ、J.P.モルガン、ジュリアス・ベア、ニューヨーク証券取引所、パートナーズ・グループ、ロビンフッドなど
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