3つの誤解を解き明かす - フロンティア市場への投資で脆弱な状況への対応の改善へ
フロンティア市場は、人道的なインパクトを持つ持続可能な機会を提供します。 Image: Raphael Pouget/Climate Visuals Countdown.
- 本来、短期的な危機対応を目的としている人道支援の多くが、長期化した状況への資金供給へとその形を変えています。
- 人道・レジリエンス投資(HRI)イニシアチブは、フロンティア市場におけるインパクト投資を促進することを目的として立ち上がりました。
- 本稿では、3つの一般的な誤解を解き明かすことで、人道的インパクトと財政的な持続可能性の両立が可能であることを示します。
本来、人道支援は短期的な危機対応を目的としていますが、2022年に発行された報告書「人道システムの現状(State of Humanitarian System)」では、今日の人道資金の大半は、長期化した状況に対して使われているという、悲痛な現実が確認されました。またこうした状況は、さらに広がりをみせています。
市場主導のソリューションが、世界的な危機に対する持続可能で長期的な対応を提供できるという認識が高まっており、その先頭かつ中心に立つべきは企業です。企業や社会起業家がソリューションを提供し、人道的なインパクトを与えている良い例は数多くあります。そのひとつが、チャドと中央アフリカに分散型送電網を設置し、未成熟な開発とエネルギーアクセスの欠如という悪循環を断ち切る社会的企業、ZIZ Energyです。
また、従来のドナーモデルの中で、企業が協働する機会もあります。分散型廃水処理システムを製造・導入する社会的企業、Mrünaは、様々なNGOと協力し、従来の開発パートナーから資金提供を受けているプロジェクトを実施し、十分なサービスを受けられないコミュニティに衛生インフラを提供しています。
また、一部のケースでは、このような新しいプレーヤーが、従来のアプローチを革新し、人道的なインパクトをもたらしています。東アフリカで再生可能エネルギーを提供する社会的企業、Mandulis Energyは、脆弱なコミュニティの役割を見直し、人道支援の受け手から価値の高い商品の生産における重要なステークホルダーへと位置付けています。コミュニティは、小規模農家の農業廃棄物を利用してバイオ炭やバイオ肥料を生産し、その過程で電力を生成しています。こうした代替収入源を活用することで、人道上の危機的状況において、電力などの必要不可欠なサービスを、低コスト、あるいはゼロコストでありながら、できるだけ高品質で提供することができるようになったのです。
フロンティア市場への投資に関する誤解
人道的インパクトがありながら、経済的にも持続可能な機会への投資は、援助依存からの脱却の戦略となり、コミュニティのレジリエンス(強靭性)を高め、危機に直面した経済を長期的に再建することができます。この考えに基づき、フロンティア市場におけるインパクト投資を解き放つアプローチとして、2019年に人道・レジリエンス投資(Humanitarian and Resilience Investing(HRI)イニシアチブが発足しました。このイニシアチブは、危機に晒されたコミュニティに測定可能な利益を与え、レジリエンスを高めることを目的としています。
HRIイニシアチブは、その取り組みを通じて、HRIが成長し、人道的インパクトと財政的な持続可能性が結びついた場合に何が可能かを示すために、解かれる必要のある一般的な誤解をいくつか見出しました。
1. 投資機会のパイプラインがない
「世界は、最も差し迫った人道的課題に対処するための新しい革新的なソリューションを必要としています。課題の最も近くにいる人々からアイデアを得て、彼らがそれを育てていくための支援をすることが、変化を促し多くの未来に影響を与えると私たちは信じています」
”インパクト投資家が抱える共通の課題は、「質の高いパイプライン」を見つけること。これは、インパクト、流動性、リスクとリターンの予測、規模などの基準を満たす投資機会を十分に確保することを意味します。そこに「人道的インパクト」や「脆弱な状況」が加わると、このパイプラインは限りなくゼロに近くなってしまいます。あるいは、そのように認識されます。
現実には、フロンティア市場におけるインパクト投資の機会は存在します。企業が脆弱なコミュニティにインパクトを与えるには、従来の人道的ニーズに直接対応する商品やサービスの提供、コミュニティのレジリエンスを高めるための支援など、さまざまな方法があります。その一例として、手頃な価格の家庭用浄水器を製造する社会的企業、Nazava Water Filtersが挙げられます。
フロンティア市場における社会的企業は、組織や機関が最も脆弱なコミュニティを対象に推進する人道的活動のインパクトを拡大することもできます。YAPU Solutionsは、中小企業にサービスを提供する金融サービスプロバイダーにデジタルツールを提供し、彼らが変化の担い手となることができるようにしています。
Humans in the Loopのように、危機的状況にあるコミュニティの人材を雇用し、AI(人工知能)システムのトレーニングと改善を行い、彼らを未来の労働力の一部とすることで、リスクのあるコミュニティから商品やサービスを公正に調達し、雇用機会を創出することができます。また、パーソナライズされた食品の生産をローカライズ(地域化)するBlendhubは、脆弱なコミュニティから食材を調達することで、特定の食品の排出量やコストの削減を実現しています。
パイロット版には資金が提供されますが、イノベーションが実証されると、民間資本を集めることが容易でないという現実が、こうしたイノベーションの規模が拡大するのを阻んでいます。
2. フロンティア市場は高いリスクを伴う
HRIのビジネスチャンスは、成功した従来のビジネスの青写真が適用されない状況を対象としているのが実情です。こうしたコミュニティに住む脆弱な人々は、主要な顧客グループではないかもしれません。人道支援団体の存在は、「通常の」市場機能を歪めるかもしれません。また、サプライチェーンの混乱により、事業拡大の機会も制限されるかもしれません。
しかし、こうしたユニークな市場の特性は、克服可能な課題を提供し、ソーシャル・ベンチャーの競争力となり得ます。Africa Green Tecがマリで事業を開始した際、同国では特に女性の生計を支える重要な要素である小規模農業を支援するための地域インフラがありませんでした。そこで、太陽光発電システム、浄水器、冷蔵倉庫、インターネットアクセスなど、あらゆるものを含む循環型の総合的なソリューションを構築。バリューチェーン・アプローチを用いて、小規模農家の生産の商業化を支援し、サービスを提供するコミュニティの生計向上を計りました。
フロンティア市場のユニークな特性は、市場機会を生み出すこともあります。例えば、Nilusの創業者は、世界の最貧困層の顧客が、商品やサービスに最も高い価格を支払うことが多いことに気づきました。彼は、個々の食品購入注文を集約し、廃棄されるリスクのある食品を利用する技術を作り、この不公正と戦い、低所得者層の健康的な食品のコストを最大30%引き下げることに成功しました。
このような市場で成功し、成長するためには、インパクト・ベンチャーは、市場のユニークな特性に対応し、その潜在能力を引き出すアプローチやモデルを見つける必要があります。
こうしたアプローチには、分野を超えた組織間の新しいタイプのコラボレーションや、組織の役割の見直しが含まれます。例えば、人道支援団体やドナー企業は、革新的なベンチャー企業と長期契約を結んで規模を拡大することで、市場需要の創出を支援することができます。これにより、新規市場への参入、評価の向上、リスクプロファイルの低減、収益化への道のりを支援することができるでしょう。また、このような連携により、インパクト・ベンチャーは、成果主義的な資金調達アプローチなど、新しいビジネスモデルを採用することができます。
従来の人道的介入は、ソーシャル・ベンチャーがこうした市場に参入するための条件の整備に必要なスキル開発や資金援助など、社会的企業が自らのビジネスモデルに組み込むことのできない方法を通じて、市場主導型のソリューションを実現することもできます。例えば、サハラ以南のアフリカと東南アジアの家庭に、再生可能エネルギーとクリーンな調理ソリューションを提供する社会的企業であるAfrican Clean Energy(ACE)は、現金給付の恩恵を受けるウガンダの難民居住区へサービスを拡大しました。
3. ローリスク、ハイリターン、ハイインパクトで、すべてを手に入れることができる
「つまり、私たちは世界で最も恵まれない人々のために、インパクトのある資本の再配分を支援する責任を負っています。つまり、食料、住居、水、電気などの必需品に投資することで、他の投資にはない方法でエンドカスタマーの生活を変化させることができるのです」
”社会的インパクトを投資判断に反映させたいと考える投資家が増える一方で、市場競争力のあるリターン、低いリスクプロファイル、高いインパクトを持つ投資機会を探している投資家は、「トリレンマ」(3つのことが同時には成立しないこと)に苦しむことになるかもしれません。
このトリレンマは、インパクト投資家や開発金融機関が、最もインパクトのある革新的なソーシャル・ベンチャーやフロンティア市場における小規模ながら有望な投資機会に投資する力を制限してしまいます。
しかし、分野を超えた新しいタイプのコラボレーションにより、この課題を改善することができるかもしれません。こうしたコラボレーションには、忍耐強く、リスク許容度が高く、優遇的で柔軟な資本通じて、HRIの機会におけるリスクを回避することなどが含まれます。財団は、「責任あるリスクテイク」の権限と資源を有しているため、このような資本を提供するのに特に適した立場にあると言えるでしょう。
例えば、IKEA Foundationは、脆弱なコミュニティに住む人々の生活を向上させるとともに、地球を保護することに重点を置いています。危機に見舞われると、これらのコミュニティが築き上げた成果が脅かされます。IKEA Foundation は、HRIイニシアチブを支援することで、自らの使命とフロンティアコミュニティへの投資のリスクの軽減能力を併せ持つことになります。企業の投資が、これらのコミュニティの長期的なレジリエンスを高め、人々が危機に耐え、より迅速に回復し、生活を再建できるようになると、IKEA Foundation は捉えています。
しかし、投資家が金銭的なリターンを超えたインパクトを与えるためには、受託者のリスク許容度の拡大、期待されるリターンの時間軸の見直し、リターンの測定方法の再考、などといった体制が必要かもしれません。これには、今日の金融部門の既存のパラダイムや慣行に疑問を投げかけることも含まれます。
今後の展望
HRIイニシアチブは、世界経済フォーラムのイノベーション・プラットフォーム、アップリンクにおいて、事業を拡大する上で直面する課題を克服し、より広いHRIエコシステムとつながることができるよう、人道インパクト・レジリエンスチャレンジ(Humanitarian Impact and Resilience)の受賞者である先に紹介した企業を支援しています。
HRIイニシアチブは、商業的または慈善的なファイナンスを活用し、インパクト投資を通じて最も脆弱な人々に測定可能な影響を与える組織を招集する、「フロンティア市場におけるインパクトキャピタルのためのネットワーク(Network for Impact Capital in Frontier Markets)」も形成しています。
同イニシアチブは、フロンティア市場において市場ベースのソリューションを拡大するために、人道支援団体、開発団体、ドナー、開発金融機関(DFI)が相互作用し、より大きな影響を及ぼすことができるよう今後も支援を続けていきます。
最終的に、HRIを拡大するには、フロンティア市場における機会の創出と、投資に集団で取り組む準備のある、より多くのパートナーを動員することが必要不可欠でしょう。
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