ステークホルダー資本主義

サステナビリティ推進に必要なのは、長期的な価値創造を重視した企業努力

環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクは今日、企業が直面する最大の脅威です。

環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクは今日、企業が直面する最大の脅威です。 Image: Unsplash/Austin Distel

Jeff Schumacher
Founder & CEO, NAX Group
  • ESGリスクは、今日、企業が直面する最大の脅威です。
  • グローバル経済は「資源を採掘し、作り、捨てる」モデルから、生産、消費、廃棄されるすべての製品の影響を考慮するモデルへと迅速に移行しなければなりません。
  • ESGについて議論するだけでなく、それを現実のものとするために、経営者が検討すべき三つの点を紹介します。

産業革命ほどの大規模な変化が、デジタル革命のスピードで進むとどうなるのでしょうか。私たちの生活や仕事のあり方を大きく変える新時代を迎える今、私たちはその答えを明らかにしようとしています。それは「インダストリー5.0」あるいは「サステナビリティ革命」と呼ばれ、悪い兆しを見せています。環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクは、今日、企業が直面する最大の脅威です。資産残高が2025年には50兆ドルに達するとみられ、この分野に投資する資金は十分にあります。しかし、大半のイニシアチブが期待されたリターンを得ることができていません

この10年であらゆるビジネスがデジタルへと変化したように、これからの10年は、あらゆるビジネスがサステナブルなものに変化していくでしょう。つまり、企業はこれまでと同じ、またはそれより少ない資源で、成長を促進する新しい方法を見つけなければならないのです。そのためには、グローバル経済は「資源を採掘し、作り、捨てる」モデルから、生産、消費、廃棄されるすべての製品の影響を考慮するモデルへと迅速に移行する必要があります。この新しいパラダイムにいち早く適応した企業が、市場のリーダーとなるでしょう。しかし、これを実現するための道筋は不透明なままです。

ESGの実現に向けて経営者が考慮すべきポイント

インフレ、サプライチェーン、人材争奪戦など、企業は複雑な課題に直面しており、どこから手をつければよいのかわからなくなることがあります。ESGについて議論するだけでなく、それを現実のものとするために、経営者が検討すべき三つの点を紹介します。

1.コストから投資へ

歴史的に、ESGは価値を生み出す源泉としてではなく、規制遵守に対応するためのコストセンターと見なされてきました。多くの企業がサステナビリティの推進における最高責任者を任命するだけで終わっていました。ESGが商業的に実行可能で、新しいビジネスパラダイムの必要性の高まりに応えるためには、企業は測定可能な戦略的・財務的成果をもたらす投資としてESGを捉え始めなければなりません。このように発想を転換すれば、クリーンエネルギー、環境再生型農業、持続可能な水管理など、数兆ドル規模の産業に参入する機会を得ることができます。

例えば、世界の食料生産について考えてみましょう。農作物と畜産は環境に非常に大きな影響を持つ産業で、世界の温室効果ガス排出量の26%、世界の淡水取水量の70%、地球の可住地利用の50%を占めています。

農場は生産者の資産ですが、他の外的要因も含め、気候変動によって収穫量が減り、投入コストが増加し、適切なリソースへのアクセスが不可欠になっています。業界関係者に必要な資金、法的措置、消費者の需要を結びつけることで、サプライチェーン全体をより持続可能なものにし、同時に生産者の生活を向上させ、新たな収入源をもたらすようになります。

2.長期的な価値創造に焦点を置く

多くの企業はまだESGを前年比の報告指標として考えています。しかし、将来にわたって成功する企業は、ESGの永続性を認識し、この新しい現実においてレジリエントな価値創造の基礎を築く企業と言えるでしょう。そのためには、まず、ESGを重視するようになった市場が、自社の事業のアウトプットに対してどのような反応を示すかを考える必要があります。

そして、自分たちの活動がESGに与える影響を明確に示し、その活動から生まれる重要な価値を証明できなければなりません。企業がこれらのステップを踏み、市場がそれを受け入れれば、ESGがもたらす機会を最大限に活用できることでしょう。

もう一度、食料生産の例を見てみましょう。永続的な価値を創造するためには、収穫された食料だけでなく、ビジネスの持続可能性に直接起因するカーボンオフセット、生物多様性、社会的影響の価値について、生産者は測定しなければなりません。

測定したデータをもとに、自らの活動によるESGへの影響に重要な価値を与える必要があります。市場はこれらの証明された点に注目し、生産者の将来のESG戦略を導くシグナルを提供するようになるでしょう。食料生産は世界経済の10%近くを占めており、利益の増加よりも長期的な価値創造に焦点を当てる人々にとって、チャンスの幅は非常に大きいのです。

3.バリューチェーン全体でのコラボレーション

ESGはユニコーンに賭けることではなく、また、孤立してできることでもない。

- ナックス・グループ創業者兼最高経営責任者(CEO)、ジェフ・シュマッカー氏

企業はバリューチェーン全体を通じてインセンティブを調整する、ビジネス上のエコシステム・アプローチをとる必要があります。これは、世界で最も複雑な課題に取り組むための壮大な目標を達成するためです。最初のステップとして、システム全体のコラボレーションを促進するのに必要なガバナンスと、エンゲージメントの構造を提供する新たな戦略的プラットフォームが求められます。こうした仕組みが導入されれば、企業はESGの目標を達成し、成長を促進する体制を維持できるようになります。

食料生産はその代表的な例です。農産物の原料からスーパーの棚に並ぶ製品になるまでには、生産者、加工業者、流通業者、小売業者の手を経なければなりません。各プレイヤーは、それぞれ独自のESG課題を抱えており、その課題の解決に関連したイニシアチブで収益を上げられるようにしなければなりません。

そうでなければ、プレイヤーはこうしたシステムに参加せず、チェーンの中で最も脆弱な人々が間接的に影響を受ける可能性があります。世界の総雇用数の27%が農業分野であることを考えると、数千人の農家にリーチするだけでは真のインパクトを与えるには十分でないことは明らかです。エコシステム・アプローチを実施することで、世界の食料システムは自然を回復し、社会的被害を軽減するシステムに変化し、同時に新たな収益源を生み出すことができるようになるのです。

これがESGを商業的に成立させるということです。

進むべき道

グローバル市場は不可逆的にESGに向けて進んでおり、どの業界もこの変化を免れることはできないでしょう。ビジネスリーダーとして、私たちは世界が向かう軌道を変えるチャンスを持っていますが、ESGの目標を達成できるようにしなければなりません。幸いなことに、ESGには何兆ドルもの秘められた価値があり、私たちに必要なのはロードマップだけです。ESGの影響の測定と価値付けを可能にし、ESGイニシアチブの商業化の成功を阻む障壁を取り除くロードマップが求められています。

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