仕事と働き方の未来

ギグ・エコノミー・ワーカーの経済的保護が、すべての人のメリットとなる理由

Gig workers have kept society going throughout the pandemic, but at what personal cost?

ギグ・ワーカーたちはコロナ禍における社会を支えてきたが、一人ひとりが払う代償は計り知れない Image: Unsplash

Mark Barnett
President, Europe, Mastercard
  • パンデミック下における生活に不可欠な商品やサービスの流れを維持するために、フレキシブル・ワーカーが重要な役割を果たしています。
  • しかし、彼らの雇用形態には経済的なセーフティーネットがないことが少なくありません。
  • デジタルプラットフォームを活用すれば、増え続けるフレキシブル・ワーカーをサポートするためにあらゆる福利厚生を提供することが可能です。

パンデミック(世界的大流行)は、私たちが、いつ、どこで、どのように働くかという基本的な生活のありかたを含め、あらゆる面で世界に影響を与えました。外出自粛により、食料品・日用品の配送や、外食デリバリーサービスに従事するギグ・ワーカー(単発仕事請負業)の数は増え、企業も、需要に応じてフレキシブル・ワーカー(柔軟な働き方をする労働力)の活用を加速させました。

瞬く間に、多くの労働者が、正社員という形態を取らずとも長くキャリアを楽しめるようになったのです。

中高年層は、依然として正社員として働くことを良しとする傾向がありますが、若い世代は、時間、場所、仕事量が自由に選べる働き方を望んでいることが明らかになりました。しかし、パンデミックとそれに伴う不況により、フレキシブル・ワーカーの脆弱性が露呈しました。このような労働者は、セーフティーネットがない状態にも関わらず、場合によっては真っ先に解雇される可能性があります。

私たちには、ドライバー、宅配業者、食料品店で働く人たち、その他の多くのプラットフォーム労働者のためのセーフティーネットを構築する義務があります。パンデミックが明らかにしたように、彼らは経済活動を維持するために極めて重要な役割を果たしているのです。

フレキシブル・ワークの課題

この1年3か月の間に、自由で柔軟な雇用形態を好む労働者が数多くいることも明らかになりました。欧州委員会は、欧州の労働者の11%がデジタルプラットフォームを利用してギグ・ワークを行なっており、「新型コロナウイルス感染拡大の危機により、域内市場でプラットフォームビジネスモデルの拡大とデジタルトランスフォーメーションが加速している」と説明しています。

さらに、オートマチック・データプロセシング社(ADP)の最新の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界の労働者の半数以上が契約(請負)業務への関心を強めていることが明らかになりました。

マスターカード社独自の調査では、その経済効果は極めて大きいことが示されました。ギグ・エコノミーは年率17.4%で成長し、2023年末までにその世界市場規模は4,550億ドルに達すると見込まれています。

Projected gross volume of the gig economy ($ billions).
ギグ・エコノミーの世界市場規模予測(単位:10億ドル)。 Image: Mastercard and Kaiser Associates study.

その他の調査から、欧州では、全労働者の約10人に1人が、非伝統的な雇用形態で収入を得ており、その大半はフリーランスで、約15%はプラットフォームベースのギグ・ワーカーであることが分かりました。これからの時代、より多くの仕事が柔軟な形態に変化し、順調に行けばそれが望ましいものになることは明らかです。

しかし、このような働き方の大きな変化は課題を抱えています。多くのギグ・ワーカーには、正社員であれば休業中に得られる補償がありません。パンデミックが発生した昨年春、フランスの研究者が調査したところ、調査対象となったフリーランスの56%が仕事を辞めたと答え、その3分の1近くが収入の減少を経験したと回答しています。英国では、生命保険、所得補償保険、重大疾病保険に加入していると答えた労働者はわずか2%で、35歳から55歳までの自営業者の約半数は個人年金貯蓄がありませんでした。

新型コロナウイルス感染拡大の危機により、域内市場におけるプラットフォームビジネスモデルの拡大とデジタルトランスフォーメーションが加速しています。

欧州委員会

幸いなことに、柔軟な労働力に依存している企業において、セーフティーネットの提供が競争上の優位性につながると理解する職場が増えており、フレキシブル・ワーカーの需要が高まるにつれ、その傾向は顕著になっています。マスターカード社は、企業が従業員に給与を支払うだけでなく、個人用の金融ツール、保険、その他のポータブル・ベネフィットを提供できるように、このような企業と協力してプラットフォームや商品を開発し、金融サービス事業者とのパートナーシップを築いているところです。

2015年、マスターカード社は世界銀行に対し、2020年までに世界の5億人をデジタル・エコノミーにつなげ、ユニバーサルな金融アクセスの実現を目指すことを表明しました。同社は、昨年その目標を達成し、現在は、2025年までに10億人に到達させることを目指しています。

デジタル・エコノミーの未来

フレキシブルな働き方は、主にデジタルプラットフォームを介して可能になることが、ウーバー社、デリバルー社、タスク・ラビット社、ファイバー社などのサービスが好調であることから伺えます。キャッシュレス社会では、デジタル・エコノミーへのアクセスが仕事そのものへのアクセスとますます同義になっています。

シンテオ社の事業主導パートナーシップであるヨーロッパ・デリバーは、持続可能性が高く、インクルーシブで、活力のある成長モデルの推進のために創出されましたが、マスターカード社はヨーロッパ・デリバーとともに、ソリューションの検討を始めました。同社はこのほど、60以上のフレキシブル・ワーカー、企業、起業家、フィンテック・スタートアップ、労働者団体、大学、非政府組織、労働者とオンライン会合を開催し、高い見識を得ることができました。

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3日間のイノベーションスプリントで、労働者は収入の乱高下、報酬支払いに3か月を要する雇用主、学校や親から受けた金融教育の不足など、彼らが直面している課題を共有しました。「意図しないロックイン」のリスクついても議論されました。これは、多くのフリーランサーが長く続けることを想定しておらず、長期的な計画を立てていない傾向があるために抱えるリスクです。

このような課題から、使いやすいウェブサイトやアプリという形のセーフティーネットで労働者を支援する必要性がはっきりと認識されました。企業がフリーランサーにほぼ一度に報酬を支払う一方で、好況時の収入を貯蓄預金口座に移し、仕事が停滞した際に労働者がその口座から引き出せるようにする「収入円滑化」プログラムや福利厚生を提供する、革新的なプラットフォームを想像してみてください。そのようなプラットフォームは、価格設定や予算管理などのビジネススキルを学ぶための個人資産管理コンテンツも提供することも可能にします。

このような構想をきっかけとして、欧州のビジネスリーダーたち、労働者、政策決定者、思索家と協働することで、この成長著しい労働力に対してより良い経済的セーフティーネットを構築することができます。パンデミックが起きて以来、フレキシブル・ワーカーがコミュニティの維持のために重要な役割を果たしてきました。今まさに、私たちにはフレキシブル・ワーク・エコノミーが世界中で機能るよう行動を起こす義務があるのです。

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