チーフエコノミストたちが見る、現在の世界経済
成長よりはるかに大きな意味を持つ経済の再建 Image: REUTERS/Michaela Rehle
- 最新の世界経済フォーラム「チーフエコノミスト・アウトルック」(報告書)で、40名のチーフエコノミストがパンデミック後の復興についての見解を示しました。
- その中で、政府やビジネスリーダーたちが新たに直面している3つの重要な課題が明らかになりました。
- この危機は不平等を悪化させましたが、同時にそれに対処するための唯一無二の機会ももたらしています。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の後、世界経済を再建するに向けて、私たちは成功を定義するために目指す、目標の範囲を広げる必要があるでしょう。
これは、最新の 世界経済フォーラムの「チーフエコノミスト・アウトルック」(報告書)、「新型コロナウイルス感染拡大後のリセットおよび復興に向けた新たな道のり」で示された見識のひとつです。本報告書の作成のため、世界経済フォーラムは、約40名の主要なチーフエコノミストからなるコミュニティに対し、現在の経済見通しに関する評価、そして、ビジネスリーダーや政策立案者がどのように対応すべきかといった内容について考察を求めました。
本報告書は、世界が復興期に入ろうとしている中、政府やビジネスリーダーたちが新たに直面している3つの重要な課題を明らかにしています。それは、不平等を減らしソーシャル・モビリティを高めるための経済政策改革、経済成長の新たな源泉の模索、そして、経済的成果の新しい目標に向けた調整です。
「今回のパンデミックは、将来の成長に関して長い間後回しにされていた対話を呼び起こしました。危機を脱しようとする中、優先されるべきは経済成長のスピードよりもその質と方向です。この新しいパラダイムにおいて、未来の成長を、包摂的かつ持続可能で、すべての人に機会を提供するものとするためには、GDPを超えた指標と最新の政策ツールキットが必要なのです」と、世界経済フォーラムの取締役、サーディア・ザヒディは述べています。
これらの課題に対処するためには、何を克服していかなければならないのでしょうか?危機と復興への道のりとなり得るものについて、チーフエコノミストたちが考える5つのことを紹介します。
1. 株式市場は、復興のスピードを過度に楽観視している可能性がある
本報告書に回答を寄せたチーフエコノミストのほとんどが、実際の経済データと株式市場の実態が大きく異なっていると述べています。現在の高水準にある金融市場よりも、失業率のほうが世界経済の見通しの目安となるということです。
金融市場は、個人消費と工業生産の回復の兆しに後押しされてきましたが、どちらも過去のレベルには遠く及ばない上、新たなロックダウンの波が回復を妨げる恐れもあります。さらに、企業が利益を守るため労働力の縮小や投資の削減をしていることが、2021年に失業の増加、イノベーションの減少、個人消費の減少を招きかねないということを、市場は十分に理解していない可能性もあります。
労働に関する見通しは、全体的に不確実性が非常に高いままです。しかし、アメリカにおける失業率の低下が予想以上にゆっくりと進展していること、ヨーロッパにおける雇用保護措置が夏に縮小されることから、失業率はますます悪化するかもしれません。
2. 私たちは、不平等に取り組むための唯一無二の機会を手にしている
技術変化と世界的統合が生み出す利益が均等に配分されていないことにより、近年、不平等が加速しています。最も脆弱な人々へ不均衡に影響をもたらした、新型コロナウイルスの感染拡大は、この傾向をさらに後押ししています。重要なのは、今後、財政負担をどう分担していくかということです。
しかし、すべての混乱の中に新しい機会をもたらしているのもまた、パンデミックそのものなのです。「チーフエコノミスト・アウトルック」でも述べられているように、この危機によって負った傷は、広範囲に及ぶシステミックな変革を実現する絶好の機会を生み出しました。それは、不平等のスパイラルが制御不能に陥ることを防ぐ、唯一無二の機会となったのです。
これには、各国政府の働きも関係します。他の項目と同じく、不平等を監視し、将来起こりうる万が一の危機に備えた社会的保護措置を改善し、ニューエコノミーにおけるソーシャルモビリティ開発を支援することも含まれるのです。調査に協力したチーフエコノミストの半数強は、ユニバーサル・ベーシックインカムなどの無条件の基礎的給付が、危機後の政策ツールキットの一つになると回答しています。
3. 税の見直しは政府への国民の信頼構築に役立つ可能性がある
パンデミックにより加速した不平等に対処する上で、チーフエコノミストたちは、税の役割が大きいことについても強く同意しました。脱税を抑制するための継続的な取り組み、デジタル活動に公正に課税するための国際協定の採択、富裕税と限界所得税増額の再考を含む税制構造の改革は、緊急の要件と考えられています。
景気回復の過程で政府の支援措置により蓄積され、右肩上がりとなっている債務残高の完済方法に関して厳しい選択を迫られる中、政府にとっては大きな機会が訪れています。市民は、経済的に前進する機会の減少に長年耐えてきました。その信頼を取り戻すための、大きな機会です。
「新型コロナウイルス感染拡大による負債が、富裕税や企業のタックスヘイブンの世界的な取り締まりによって返済できれば、その世界では、福祉手当が削減され、付加価値税が引き上げられる世界とは全く違ったものに見えることでしょう」と、アダム・トゥーズ氏は述べています。
4. サプライチェーンの混乱は開発途上国の経済発展を妨げる可能性がある
これまでも貿易紛争や技術標準をめぐる緊張は、国際貿易における不確実性を生んできましたが、パンデミックはそれに拍車をかけています。ロックダウンによる貿易の物理的な減少は一時的なものかもしれませんが、企業が重要な部品を自国に持ち帰ったり、並行して複数の国から調達を行うことで、サプライチェーンのレジリエンス(適応、回復できる力)を高めようとしたりすることは、開発途上国にマイナスの影響をもたらす可能性があります。
多国籍企業などが自給自足率を高める動きは、高所得国と低所得国との間の貿易関係を長期的に損なう恐れがあります。企業がレジリエンスのために効率性を棄てる準備ができているのかどうか、本報告書はまだわからないとしていますが、パンデミック、地政学的緊張、気候変動関連の出来事に関する不確実性は、サプライチェーンのさらなる混乱を招きかねません。
回答者によれば、サプライチェーンの変革が国際経済の収束から逆戻りを引き起こす「可能性は高い」といいます。これにより、開発途上国はその経済成長モデルを再考することを余儀なくされるでしょう。
しかし、新興市場にとってチャンスのひとつは、テレワークが世界的に受け入れられるようになったことです。それは、各国が価格競争力のあるサービスを提供し、新しい経済開発モデルを考案することができるようになったということ。そうなれば、ヒューマンキャピタル(人的資本)にさらなる投資が集まるようになります。
5. 適切な行動により、新しい成長市場が出現する可能性がある
この危機は、長期的な経済発展において、世界的統合に続く鍵となるイノベーションにも影響を与えるとみられています。
パンデミックの影響を克服し、不平等と気候危機に対処していくためには、イノベーションが欠かせません。しかし、景気後退が研究開発資源を脅かしている中、イノベーションにも影響が及ぶことが考えられます。
政府は、強力なイノベーションと投資戦略があれば、経済発展を正しい軌道に乗せることができるでしょう。しかし、それにはすべての分野にわたる根底からの改革が必要になります。そしてそれは、公的機関と民間が連携し、政府が既存の分野の再構築と新市場の構築に積極的に関与しようとする場合にのみ実現できるものなのです。
本報告書では、グリーンエネルギーからサーキュラー・エコノミー、健康、教育、介護に至るまで、新しいフロンティア市場は、経済や社会に変革をもたらす可能性があるとされています。
本報告書はまた、今日の社会は、より包摂的でグリーン(環境に配慮した)な道へと進むための、唯一無二の機会を手にしているとも協調します。
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