経済成長

100カ国以上が陥る「中所得国の罠」〜克服するためには〜

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世界人口の75%が中所得国に住んでいると推定されています。 Image: Unsplash

Spencer Feingold
Digital Editor, World Economic Forum
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本稿は、以下センター(部門)の一部です。 ニューエコノミーとソサエティ
  • 「中所得国の罠」は、各国が高所得国の地位を獲得しようと苦闘している状況を表しています。
  • 世界銀行によると、現在「中所得国の罠」から抜け出せない国は108カ国。
  • 世界銀行のチーフ・エコノミストであるインダーミット・ギル氏は、「ほとんどの中所得国は、前世紀からのアプローチに縛られたままである」と世界経済フォーラムに語っています。

2007年、世界銀行の報告書において「中所得国の罠」という概念が生まれました。当時、このフレーズは、経済成長と貧困率の低下にもかかわらず、高所得国になることができなかった、主にラテンアメリカと中東の国々を表すために使われていました。

世界銀行の『2024年世界開発報告書(2024 World Development Report)』によると、今日でも「中所得国の罠」は世界の100カ国以上に重くのしかかっています。

「中所得国の罠」とは一体何なのでしょうか。そしてさらに重要な問いかけは、どうすれば各国はこの「中所得国の罠」を克服、あるいは完全に回避できるのか、ということです。

経済効率の表面的な尺度

2023年末時点で、世界銀行は一人当たり国民総所得(GNI)が1,136ドルから13,845ドルの経済圏を中所得国と分類。この中から、さらに低中所得国(一人当たりGNIが1,136ドルから4,465ドル)と高中所得国(一人当たりGNIが4,466ドルから13,845ドル)に分類しています。

世界銀行の報告書によると、現在、世界人口のおよそ75%が中所得国に住んでおり、その中には極度の貧困状態にある人々の66%が含まれていると推定。中所得国は世界の経済生産の40%を担っている、と報告書は付け加えています。

Image: 世界経済フォーラム via Flourish

世界銀行によると、現在、中国、ブラジル、トルコ、インドなどの主要国を含む108カ国が「中所得国の罠」から抜け出せずにいます。

世界銀行の報告書は、「中所得国の罠」について、中所得国が経済成長、賃金競争、イノベーションに関連する深刻な逆風に直面し、しばしば「経済効率の表面的な尺度を前提とした政策」に依存している状況であると説明。このような状況により、中所得国は「特に開発の早期減速を招きやすい」と報告書は付け加えています。

また、国際通貨基金(IMF)は別の報告書において、ここ数十年にわたり「中所得国の罠」から抜け出せなくなった国々は、「急速に変化する富裕国の先端技術と、低賃金の貧困国との成熟した製品の競争に挟まれている」と指摘しています。

世界銀行は、中所得国の成長見通しは、イノベーションによる生産拡大能力にかかっている、と主張。これに加え、同団体の報告書は、現在の経済成長率が維持されるならば、多くの中所得国が高所得国の地位を達成するには何世代もかかる可能性を指摘しています。

世界銀行のチーフ・エコノミストであり、世界経済フォーラムのチーフ・エコノミスト・コミュニティのメンバーであるインダーミット・ギル(Indermit Gill)氏は、「ほとんどの中所得国は、前世紀のアプローチに固執し、資金を集めるための政策に重きを置いています」と同フォーラムに語っています。「ずっと低速ギアに入れたまま車を運転しているようなもの。目的地に着くまで永遠と時間がかかるのです」。

罠からの脱出

ここ数十年の間に、中所得国から高所得国に成長した国はわずか数十カ国。その中には、サウジアラビア、ラトビア、ブルガリア、韓国などが含まれています。

世界銀行はその報告書において、各国が「中所得国の罠」を回避するための3つのアプローチを概説。この計画は「3i戦略」と呼ばれ、投資(investment)、注入(infusion)、イノベーション(innovation)に関連する経済政策の戦略的調整を伴います。

最初に、低所得国が焦点を当てるべきなのは、主に経済への投資を増やすこと。たとえば2001年、コロンビアは、政府支出の制限、変動為替レートの導入、中央銀行の独立性の強化など、さまざまな改革を実施することにより、同国への投資を増やすことができました。

低中所得国に到達した後は、投資と資本注入のミックスを促進するように政策を調整。特に、資本注入は、先端技術の利用拡大に重点を置くべきです。

そして、高位中所得国に達した後は、投資と注入をイノベーションにより補完。イノベーションを追加するには、「経済的自由、社会的流動性、政治的競争力をさらに重視し、企業、労働、エネルギー使用をもう一度再構築する」必要があると同報告書は指摘しています。

世界銀行の報告書が、3i戦略を効果的に実施した国の例として称賛しているのが韓国です。

1970年代から1980年代にかけて、韓国は民間投資を奨励する改革と、技術利用と生産効率を高める産業政策を推進し、結果として、飛躍的な経済成長を達成。世界銀行によると、韓国の一人当たり所得は1960年の1,200ドルから2023年には33,000ドルに増加したのです。

ギル氏は同フォーラムへの声明の中で、高所得国の地位を獲得するためには、中所得国の政府は、大企業から新興企業まで幅広い企業間の「健全なバランスを生み出す競争政策を制定しなければならない」と付け加えました。

「その恩恵が最大になるのは、政策立案者が企業規模ではなく、その企業が経済にもたらす価値を重視し、所得格差を是正するためのゼロサム政策に固執するのではなく、すべての国民の社会的地位の向上を奨励するときである」と同氏は述べています。

「はるかに重い負担」

専門家たちは、世界経済を苦しめる不安定な経済が続く中、中低所得国全体で持続的な経済発展を達成することは容易ではないと指摘します。

ジル氏は、「中所得国は、人口の高齢化、地政学的・貿易摩擦、環境を汚さずに成長を加速させる必要性など、以前よりもはるかに重い負担に直面している」と述べています。

また、経済成長を促進するための新しい方式を概説することにより、「『中所得国の罠』という表現を完全に時代遅れにさせる」ことを目指している、と世界銀行の『2024年世界開発報告書』は提言しています。

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経済効率の表面的な尺度罠からの脱出「はるかに重い負担」

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