女性フリーランスや経営者へ、行き届かない子育て支援制度

女性フリーランスや経営者が仕事と出産・育児を両立するとなると、いまだに立ちはだかる障壁は高いままです。
Image: Unsplash/Yuri Shirota
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労働力と雇用
- 日本の出産・子育て支援制度のほとんどは、会社員を対象としたもので、雇用されない働き方をする女性が置き去りにされています。
- 多くの女性フリーランスや経営者は、産後の早すぎる仕事復帰や、不利な立場での保育先の確保など、仕事と育児の両立に難しさを抱えています。
- 少子化や労働人口不足など、日本が抱える労働課題の改善には、この格差の是正が急務です。
未来の働き方へと働き方のバージョンアップが求められる時代の流れに合わせ、人々の働き方が多様化する中、それを支援する仕組みと制度の整備の遅れにより、今、フリーランスや経営者として働く女性に大きな障壁が立ちはだかっています。
日本では、キャリアの途中で出産や子育てというライフイベントに直面した際の保障や支援のほとんどが、会社に雇われている人たちを対象としたものばかりであるために、柔軟な働き方をする女性たちが置き去りにされてしまっているのです。
少子高齢化による労働人口の減少、生産性の低下、長時間労働、過労死など、多くの労働課題に直面している日本。これらを改善するために、政府は、労働者が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を自ら選択できる社会の実現を目指す「働き方改革」を推進し、多くの企業も新たな取り組みや社内制度の整備を進めています。
増えるフリーランス人口と女性経営者の数
日本最大級のクラウドソーシングサービスを運営するランサーズが、2021年秋に実施した調査によると、日本国内のフリーランス人口は1,577万人。2015年の同社の調査と比較して、640万人増加していることが分かりました。経済規模も2015年から9.2兆円増加し、23.8兆円となりました。特に、働き方に劇的な変化をもたらした新型コロナウイルスの感染が日本で拡大した2020年以降、フリーランス市場は一気に拡大しています。

フリーランス同様、女性経営者の数も増加の一途をたどっています。東京商工リサーチによる調査では、過去12年間で2.8倍の58万4,000人に増えたことが分かりました。

雇用されない働き方をする女性は、出産・育児支援制度の対象外?
会社に雇用されない働き方をする女性は増え続ける一方で、働き方改革が始まった2019年から3年が経った今でも、こうした女性たちが仕事と出産・育児を両立するとなると、いまだに立ちはだかる障壁は高いままです。
女性フリーランスや経営者は、雇用関係がなく、雇用保険に加入できないために、会社員であれば誰しも利用できる産前産後休業や、育児休業制度が適応されません。会社勤めの場合、産前産後は12週間、その後は、最長で子供が2歳になるまで育児休業を取得することが認められています。さらに、育児休業中には、所得保障として休業前の給与の50%〜67%に相当する給付金が国から支払われます。そして、休業期間中に支払うべき社会保険料の支払いは全て免除されるのです。国の出産・子育て支援制度としては、とても手厚く充実していています。しかし、いずれの制度も女性フリーランスや経営者は利用することができないと考えると、働き方に違いがあるというだけで、母体保護や経済支援の観点で格差があまりにも大きいことが分かります。
休業への保障がないとなると、女性フリーランスや経営者の多くは、産後すぐに働かざるを得なくなります。2017年に、雇用されずに働き、出産を経験した20〜50歳の女性を対象に行われた調査によると、44.8%の女性が産後1ヶ月以内、59.0%の女性が産後2ヶ月以内に、仕事を復帰していることが分かりました。
仕事に復帰するためには、子供の預け先を確保しなくてはなりませんが、ここでもまた、女性フリーランスや経営者たちは不利な立場に置かれます。会社員と同様にフルタイムで働いていたとしても、認可保育園の入園選考で有利になるのは、国の支援制度を利用し、雇用されている状態を維持したまま育児休業を取得して、仕事復帰をしようとする会社員の女性たち。それは、自治体が各家庭の保育の必要性を「点数化」し、点数の高い家庭の子供から順番に認可保育園の入園が決まるという仕組みになっているためです。
フリーランスや経営者として働く女性たちは、職場が自宅である場合、仕事をしながら育児もできるとみなされたり、産後これから仕事を再開するにもかかわらず、過去3ヶ月分の給与証明の提出を求められたりと、現行の認可保育園入園の選考審査基準のハードルが高いのです。その結果、高い保育料を支払って認可外保育園に預けたり、ベビーシッターを雇ったりする意外、選択肢がないというケースが増えてしまうのです。
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フリーランスで仕事をしながら生後11ヶ月の男の子を育てている筆者も、数ヶ月前に仕事を再開するに当たりこの壁にぶつかり、苦悩したひとりです。自宅で働いていること、産後8ヶ月間仕事を離れて子育てに専念し、新たに仕事を再開したばかりであったために収入証明ができないことが理由で、認可保育園への応募は、早々に諦めるほかありませんでした。しばらくは、民営の一時保育サービスやベビーシッターを利用しながら仕事をやりくりし、2ヶ月かけてようやく、空きがある認可外保育園に入園が決まりました。
0歳の小さな子供を自分の手から離れた場所に送り出して仕事をする、という母親の決断の裏には、子供と仕事のどちらも大切にしたいという気持ちからくる、迷いや心苦しさ、葛藤があります。それでも仕事を通して社会に貢献したいと、働くことを選んだ母親の背中を押すことができる、公平な子育て支援制度の整備が必要でしょう。
日本政府は、今月、育児休業明けで子育てのために勤務時間を短くして働く人に向け、新たな現金給付制度の創設を検討することを発表しました。しかし、このような取り組みもまた、対象は会社員として働く人に限定されているのが実情です。
「働き方の多様化」が真に実現する社会へ
世界経済フォーラムによる最新のジェンダー・ギャップ・レポートは、経済活動への参画機会に関して、日本は146カ国中121位と、G7諸国の中で最下位であることを示しています。日本が先進諸国に比べて、労働市場での女性の活躍がなかなか進まない理由の一つに、どのような働き方を選択しても、仕事と出産・育児の両立を実現できる環境が十分に用意されていないことが挙げられるでしょう。これは、女性の社会進出と少子化の克服のどちらも阻むことにつながります。
同レポートは、政府があらゆるヒューマンキャピタル(人的資本)に投資し、国民が仕事と家庭生活のバランスを取りやすい環境がある国は、より繁栄している傾向があると、はっきり言及しています。少子化や労働人口不足といった深刻な課題に向き合い、真の意味で日本が「働き方の多様化」を推進するためには、さまざまな背景を持つ女性が、人生のどの時点でどのような選択をしても、それを支える社会構造や制度の整備が不可欠でしょう。
そのために、必ずしも大きなイノベーションばかりが必要なわけではありません。すでに整っている充実した制度や枠組みを、利用できる人の対象を拡大するだけで、より包括的な社会の構築に向けた変化を起こすことができるはずです。
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